〜パパ来襲〜
 
<10>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

「仕事か?」

 一応、クソ親父にそう尋ねてみる。

「ううん。遊びに行くの」

 ヤツはあっさりとそう返した。

「…………」

「スコールは? どうせ、研究所だの政府の施設だのに行くんだろ?」

「……『スコールは?』じゃない。何だ、その『遊びに行く』っていうのは?」

「いいじゃん。その辺、フラフラしたいんだよ〜」

「……まぁ、他人に迷惑を掛けるなよ。俺も後で外に出る。だが、戻りは遅くならないから、アンタが帰ってくる頃にはウチにいる。鍵は不要だな」

「はいはい。そんなに遅くなりませんよーだ。おまえ、ホント、小姑みたいだよね。クラウドくんにもそんなにうるさいの?」

 口を尖らせて訊ねるラグナ。

「うん。レオンはいつも帰りの時間、聞くよね?」

「当然だ。何か事故でもあったら困る」

「あー、はいはい。わかったよ、そんなに遅くにはならないようにするってば」

 辟易とした様子で、同じ言葉を繰り返す親父であった。

 

「あ、じゃ、ごめん、レオン。オレ、先に出るね。連中待たせているから」

 クラウドは、めずらしくもせかせかとそういうと、すぐに出掛けていった。

 もっとも、以前からユフィにせっつかれていたようだし、エアリスにまで督促されてはいうことを聞かざるを得ないといったところだろう。

 我が儘で勝手なところはあるが、基本的に約束を違えることはない。彼のそういった部分はとても好ましいし、信用に値すると感じる。

 

「行ってらっしゃい、クラウドくん」

 居間のラグナは、まだダラダラと甘いものを食っていた。

「行ってきまーす」

 書類を入れたファイルとフロッピーを持ち、玄関に行くクラウド。

 ふと思いついて後を追う。

 居間のドアを締め、玄関でクラウドを呼び止めると、彼は不思議そうな顔をした。さもあろう。

 

「なに、どうしたの、レオン? オレ、なんか忘れたっけ?」

「ああ」

「あ、ごめん、なんだろ」

 そういうと、彼はこちらに向かって、手を差し出した。思い当たるものもないくせに、だ。

「そっちじゃない。……気を付けて」

 そういうと、物言いたげな唇に口づけた。いつも彼がねだるのに、応えるように。

「……!! レ、レオン……も、もう!びっくりするだろッ!」

 顔を真っ赤にして、それでも小声で怒鳴るクラウド。

「いつもと同じだろ」

「ラ、ラグナさんが居るだろッ!」

 親父とどれほど仲良く会話できても、やはりこの一線は踏み越せないようだ。クラウドが知られたくないというのなら、それに反対する理由もなかった。

 

「関係ない。……おまえと俺の関係はずっと変わらないんだからな」

「……レオン」

「行ってこい。気を付けてな」

「うん!」

 素直に頷くと、彼は颯爽とバイクに乗って出掛けていった。

 ああしていると、本当に溌剌と見えて健康な青年そのものなのに。

 ……いや、大丈夫だ。ラグナが言っていたように、きちんと『強さ』について、彼なりの理解がある。そしてまだそちら側にはなれないという、自分自身についても客観視出来ている。

 ……時間はまだいくらでもある。

 

 

 

 クラウドを送り出し、居間に戻るとラグナがいそいそとやってきた。とりあえず、きちんとした服(……といっても、ラフな格好だが)に着替えている。

 

「そんじゃーね。ちょっとそこらに行って来るね〜」

「……かまわないが。とにかく迷惑を掛けてくれるなよ、ラグナ。俺はキロスと違って、いちいちアンタの面倒見ている余裕はない」

「シツレー」

「わかったわかった。早く行ってこい。……帰りはあまり遅くなるなよ」

「わかってるもーん」

 糸の切れた風船よろしく、クソ親父はフラフラと出掛けていった。

 まったく……本当に俺とアイツは遺伝子のつながりがあるのだろうか?

 

 片づけ物を簡単に済ませ、仕上げ途中のデータに取り組む。

 今日はこれを城のメインCPに送り込めばいい。その後、市中の見回り……いつもと比べれば、比較的時間に余裕の持てそうな一日になりそうだった。

 

 ラグナとクラウドのいなくなった部屋は、なんだかずいぶんと広く感じる。

 テーブルの上に散らかっていた食器や、ソファの上に放置されていた洗濯物を片づけたせいものあるのだろうが、妙に整然と見える。

 PCをいじるため、自室に戻ると、見事なまでに乱れたベッドにうんざりとした。クラウドの寝相も悪いが、ラグナはそれ以上らしい。すっとんだ枕に、ねじったような形状のまま放置されたシーツ……布団……

 性格的なものだろうが、どうしても身の回りが整っていないと気分が悪い。

 テキパキと寝床を直し、シーツをひっぺがして洗濯機に放り込み、ようやく俺は落ち着いてデスクについた。