〜パパ来襲〜
 
<13>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

「こんなところで何をしている?」

 俺は問うた。我ながらキツイ口調だ。

「……別に……何も」

 そう応じるセフィロスの声は、常と変わらず静かで何の感情も読み取れなかった。それがひどく俺を苛つかせた。

「いつ、ホロウバスティオンにやってきたんだ?」

「……何のことだ? 私はずっとこの場所に居たが……?」

「嘘をつけ!」

 自分でも吃驚するような、大声が出た。セフィロスも呆れたような表情で俺を眺める。その様子がさらに俺を激昂させるのであった。

「あれから……アンタが姿を消した夜からずっと、この街を捜し回っていたんだぞ? 城の中も歩き回ったし、暇さえあれば、闇の淵や水晶の狭間にも足を運んだ。繁華街を移動するときすら気をつけていたのに、アンタを見つけ出すことはできなかった」       

「…………」

「それが何だ? 昨日今日、偶然、この国に立ち寄ったラグナと一緒に居て…… あたりまえのように歓談しているなんて……」

「……歓談? ただ声を掛けられただけだ」

「初対面のヤツに話しかけられて……しかもその内容があからさまなナンパなのに、フツーに相手をするのか? アンタ、いくらなんでも無防備過ぎるだろうッ!?」

 ……俺は一体何を怒っているのだろうか? セフィロスが何かしたというわけでもないのに。だいたい『無防備』という言葉は、彼には当てはまらないだろう。いや、仮に本当に無防備であったとしても、何の痛痒もない。あれほどまでに強靱で腕が立ち『死の大天使』と評される人物なのだから。ヘタレ男のラグナなど、片手で倒せるだろう。

 

 充分に彼の尋常ならぬ強さ、また不思議な力は見知っているつもりであったのに、あり得ない勢いで問いつめてしまった。

 そら、彼自身も不思議に思っているのだろう。いつもなら、ほとんど表情のない氷の瞳に、うっすらと当惑の色が浮かんでいる。

 

「……悪かった」

 俺は即座に謝罪した。

 クラウドなどは自分が悪くても、なかなか謝罪の言葉が口に出来ないと漏らしていたが、俺にはまったく躊躇はない。自分の言い分がおかしいと気付いたなら、謝罪は早いほうがいい。

「よけいなことを言った」

「…………」

「アンタは迷惑を掛けられた方なのにな。……すまなかった」

「……別に」

 セフィロスが静かに応えた。口を聞いてくれただけでホッとする己が、さすがに滑稽に感じた。

 

「……ところで、ホロウバスティオンの英雄」

「……レオンだ」

「そう、レオン。いや……『スコール』とおまえの父親が言っていたか……クックックッ」

「やめてくれ……レオンでいい」

 俺はすぐにそう糺した。

「だいたいアイツが俺の親父だなんて、今だに信じられないくらいなんだからな。どこにも似たところなどない」

「……フフン」

 セフィロスは、馬鹿にしたように鼻で嘲笑した。他のヤツがやったら、さぞかし気障っぽく嫌みたらしげに見えるだろうが、彼であるとそんな様さえ絵になってしまう。

 

「……なんだ? セフィロス」

「可笑しいから笑っただけだ」

「……何が可笑しいんだ」

「……おまえと父親はよく似ている」

「なッ……」

 思わず高い声が出た。

 ああ、よくよく考えてみると、俺は彼の前ではいつも平静では居られなかった。

 

「……どうした? 不快か?」

「……そんなことを言われたのは初めてだ。ああ、いや確かに目鼻立ちは似通ったところがあるだろうが……」

「……魂の輝きが似ている」

 そうささやいたセフィロスは、うっすらと笑みを浮かべていた。

 そう……あの時に見た笑顔だ。あの夜……いつの間にかあの家から姿を消した時、笑い掛けてきてくれた、煙るように儚い笑顔。

 

 

 

 

 いつの間にか俺は、突っ立ったままの、彼の腕を捕らえていた。

 別に逃げるような素振りや、身をかわそうとさえしなかったのに。何故か頭で考えるより、先に手が伸びていた。

 

「……どうした?」

 静かな問いかけで、俺はハタと正気に戻った。

「あ……いや……すまない。痛かったか」

「……別に」

 また『別に』だ。

 セフィロスは、どうでもいいことには、いつでもこの言葉で返す。

 

「……どうかしたのか?」

 ふたたび彼は問うた。

「何でもない。……悪かった」

「……レオン」

 彼が俺の名を呼んだ。

「……私に何か用があったのか、レオン」

 独り言のようにセフィロスがささやいた。

「…………」

「私を捜したと言っていたが……?」

「……ケガの具合はどうだ?」

 俺はその言葉には答えず、逆にそう訊ね返した。

 

「……ケガ……ああ、あれか。いや……もうなんともない」

 陽の沈む間際の緩い風は、サァァと彼の銀糸をそよがせた。

「なぜ黙って姿を消した」

「…………?」

「あの夜……なぜ俺の前から黙って姿を消したのかと訊いているんだ」

 またもや詰問調になる口調に注意し、俺は二、三度咳払いをした。

 僅かな間隙の後、セフィロスは口を開いた。