〜この手をとってささやいて〜
 
<4>
 
 ACセフィロス
 

 

 

 

「レオン……そうだったの。あっちの世界の『セフィロス』のことをねぇ……ふむふむ、それで!?」

 ヤズーが先を促す。

「相手の気持ちも考えず……つい勢いで告白してしまって…… アンタに色々忠告されていたのに……すまん、セフィロス」

「オレに謝っても仕方ねーだろ。……あっちの世界の『セフィロス』は何て言ってんだよ」

 嫌な予感がどんどん現実のものになっていくのに、焦燥感が激しくなる。

「なにも……部屋から出て行けと言われて……俺がしつこく話したから……最後には姿を消された」

「はぁ〜……」

 オレは遠慮無く大きなため息を吐いた。

「貴様はそれを相談するためにここに来たというのか?」

「いや、そんなつもりはなかったんだが、『セフィロス』に無理やり……頭を冷やせと言われて……気づいたら、この家の前に……」

 とんだ厄介な荷物をおいていったものだ、あの馬鹿野郎は! 

 オレは心の中で、もうひとりの『セフィロス』に毒づいた。

 

「……それでどうするつもりだ、これから」

 眉間にしわを寄せ、うつむいているレオンに訊ねてみる。

「どうすればいいのか……だが、彼に嫌われている現状では、俺の方からはもうどうしようも……」

 くっと唇を噛みしめ、ヤツはつぶやいた。

「そ、その、嫌われているというのは……?レオンの思い込みなのでは。それにそちらの世界の『クラウド』のことも……」

 おどおどと躊躇しながらヴィンセントがもっともな質問をした。

「クラウドのことは、これまでどおり大切にしたい。……彼が俺と一緒に居たいと思ってくれるならば、ずっと……」

「んな甘っちょろい考えで上手くいくと思ってんのかよ」

 レオンの言葉を遮ってオレは言ってやった。

「おい、レオン。ちょっと来い」

 ヴィンセントとイロケムシの居る場所では、つっこんだ話はできない。

 『頭を冷やせ』と『セフィロス』が言ったのは、きっとオレにこいつを説得させようという腹なのだろう。

 イロケムシとヴィンセントは、『セフィロス』の本当の気持ちをまだ知らないのだ。

 厄介なことに、オレには『セフィロス』の本音がわかってしまっている。ヴィンセントとヤズー相手にそれについて語ってきかせるのも骨だ。

「なによ、セフィロス。レオン連れて行っちゃう気?まだ話し中じゃない」

 いかにも不満という口調でヤズーが文句を言う。

 

 

 

 

 

 

「とにかくだ。ふたりで話さなきゃならねーことがあるんだよ!レオン、オレの部屋へ来い!テメェら野次馬は明日まで待ってろ!」

「もう、まったく自己中なんだから!」

 頬を膨らませてヤズーが怒るが、今はそれどころではない。

「レオン、さっさとしろ!」

 と、オレが促すと、ヤツは眉間に深いシワを刻んだまま立ち上がった。

 

 ヴィンセントとヤズーを置き去りに、オレは自室の扉を乱暴に開いた。

 ゲストルーム仕様になっているオレの部屋は、でかいベッドとサニタリーも揃っている。

 

 しっかりとカギを掛けてから、ソファに腰掛ける。レオンもなにもいわずとも、俺の目の前に腰を下ろした。

「……前に『中途半端にアイツに関わるな』と忠告したはずだぞ。こんな厄介事をもちこみやがって」

「……すまん」

「『すまん』で済めば、ケーサツはいらないっていうだろ!あぁ、もうバカバカしい事を言っちまった!」

「アンタに忠告されたことは、わかっているつもりだったんだが……気がついたときにはすでに遅しでな。『好きだ』と叫んでいた」

 神妙なツラでレオンはつぶやいた。

「あぁ気色悪い!オレと同じツラをしている野郎相手によくもまぁ……」

「そこは置いておいてくれ。だいたいいくら似てるからって、別人だろう。同じセフィロスでも、性格などは全然違うじゃないか」

「たりめーだ!同じ目で見るんじゃねぇ。それにしても……もの好きというか、よりにもよってあんな難しいヤロウ相手に……」

「だから、振られたも同然だと言ってるじゃないか。彼はまともな答えすらくれなかったんだぞ」

 はぁとレオンは深いため息を吐いた。オレとふたりになってようやく泣き言が言えるというように。

「生まれて初めてだった、こんな気持ちは。『セフィロス』のことを考えると、何も手につかなくなって……」

 クッと喉を鳴らす。

「おい、貴様、振られたと言ったよな。アイツがそう言ったのか。はっきりおまえのことを『嫌い』だと口にしたのか」

 レオンの目を見返してきっちり問いただす。これはかなり重要なポイントだからだ。

 彼はその当時のことを思い出すように、目線を泳がせ、口元に手を当てる。