〜この手をとってささやいて〜
 
<5>
 
 ACセフィロス
 

  

「……確かに『嫌い』だとは言われていない。ただ、いくら俺が『好き』だと言っても、気のせいだとか、頭を冷やせと告げられて……」

「ひとっことも『断る』なんて、言われてねーじゃねーか」

 間髪入れずにオレは言い返した。それにムッとしたのか、レオンはワントーン声を上げて、さらに反論してきた。

「直接『断る』と言われなくても、彼の態度で嫌われているのがわかるんだ。オレが側によるとすぐに姿を隠すし、俺の言うことをいちいち否定してくる」

 ……それは、アイツがレオンのことを意識しているからなのだ。

 側に寄られれば心が揺れるから、逃げ出すしかないし、『好きだ』というセリフは気のせいにしておかなければならない。

 なぜだろうって?

 決まっているではないか。『セフィロス』自身、この男のことを……オレの目の前にいる、無骨で生真面目な男を、特別な感情でもって見ているからに相違ない。

 『セフィロス』は必死にその心を隠しているのだ。

 

「……もし、ヤツが……『セフィロス』のヤロウが、おまえと同じ気持ちだったとしたらどうする?」

 俺はレオンに訊ねた。

「え……?」

「だから!『セフィロス』のほうも、おまえが好きだったらどうするつもりなんだ」

 髪が鬱陶しくて乱暴にかき上げる。

「それはありえないと……」

「もしもだよ!まさか何も考えてないのか!?」

「そ、そ、そんなことは……も、もし、彼が俺を受け入れてくれたのなら、ホロウバスティオンに留まるように頼んで、なるべく俺の目の届く場所にいてもらえればと……」

 気色悪く頬を上気させて、どもりがちにつぶやいた。

「目の届くところ?ハッ、『セフィロス』のヤロウが、もっと側にいたい、一緒に居る時間が欲しいっつったら、テメェはどうするつもりだ。クラウドを抱え込みながら、相手ができるのか?」

「そ、それは……努力を……」

「そんな生やさしい問題じゃないだろ」

 吐き捨てるようにオレはぶつけてやった。

「今ならまだ間に合うぞ。『頭冷やして』何もなかったことにできる」

「セフィロス……」

「『クラウド』のため……そして『セフィロス』自身のためにも、なにもなかったことにするのが一番だと思わないか?」

 わずかな間隙の後、レオンは答えた。

 

 

 

 

 

 

「それはできない」と。

「それは無理だ、セフィロス。……こんな想いは生まれて初めてなんだ。ちょっと気を抜くとすぐに彼のことを考えてしまう。『セフィロス』が今、何を考えているのか。誰かのことを考えているのか……もし、……もし、彼にも想う人がいたらどうしようかなど……」

 その『想う人』が貴様なんだよ!とどなりつけそうになり、ぐっと堪える。

「……忘れるのが一番だと思うんだがな」

「無理、だ……」

 片手で顔を覆い、レオンは力なく頭を振った。

「セフィロス、アンタだってそうだろう?好きになった人をそう簡単にあきらめられるか?」

「……さぁな。オレは欲しいものは力尽くで奪ってきたからな。……だが、なかなかそうはいかない相手もいる。おまえの気持ちがわからないわけではないが……」

「……あの『セフィロス』相手に力尽くは不可能だ。だいたいそんな真似をしたら、それこそ一巻の終わりだ。口すら聞いてもらえなくなる」

「チッ……情けないやろうだ」

 そう毒づいたが、オレの頭の中はレオンに『真実を告げるべきか否か』でぐるぐると回っている。だが、何も言わないですませるつもりなら、わざわざふたりきりで話す必要もなかった。

「おい、レオン。落ち着いて聞けよ」

「……なんだ」

 憔悴しきった表情でレオンは訊ね返してきた。

 オレは意を決して口を開いた。

 

「『セフィロス』はな、おまえを特別に思っている。自分で気付いているかどうかまではわからんがな」

 敢えてゆっくりと語って聞かせた。

「え……?」

 案の定、理解不能という表情で、レオンが顔を上げた。目の下にくっきりとした黒いクマが張っている。

「なんだ……その『特別』というのは」

 掠れた声で低く問い返す。

「おまえ、オレたちがホロウバスティオンに行ったときのこと、覚えているだろう。アレだ、13機関の連中と、人の心を奪う兵器をぶっ壊しに、『存在しない世界』へ行ったよな。おまえのところの『セフィロス』が、敵中に捕まって……」

「もちろん、覚えている。あのときはアンタとジェネシスに世話になったな」

「そんなことはどうでもいい。……ヴィクセンといったか、あの変態化学者が『セフィロス』から、最強のノーバディを作るといって、ヤツを実験台にした。だが、予想に反して『セフィロス』からはノーバディが生まれず、失敗を繰り返したと言っていた」

「ああ、実に不愉快な男だったな……『セフィロス』をモルモットになど……」

「重要なのはそこじゃねェ。いいか、『セフィロス』からはノーバディは生まれなかったんだ。オレたちがその場所に到着するまではな」

「……何が言いたい」

 レオンは怪訝そうな眼差しでオレを見返した。