〜この手をとってささやいて〜
 
<9>
 
 ACセフィロス
 

  

 

 

「人ごとじゃねーだろ。テメェがどうしたいかだ」

「レオンには『クラウド』が居るだろう」

 ティースプーンをいじりながら、『セフィロス』がつぶやく。

「それがどうした」

「……おかしいではないか。『クラウド』が居るのに、私のことを想うなど」

「オレはレオンじゃないからな。何を好きこのんで貴様みたいなヤツに惚れるのか、知ったこっちゃねェ。ただ、レオンが本気だということだけは認めている。あろうことか、貴様のような面倒くさい男を、誰よりも強く想っているということだ」

「信じがたいな」

 人ごとのように『セフィロス』がつぶやいた。

「おまえだって気づいてんだろ。レオンの『クラウド』に対する感情は、強烈な庇護欲だ。弱っているチョコボの雛を守りたいのと同じようなモンだ。だが、テメェへの想いは、恋愛感情なんだよ。本当に信じがたいことにな」

「……では」

 というと、すっと『セフィロス』が顔を持ち上げた。口角をクッと持ち上げて皮肉な笑みを浮かべる。紅など引いていようはずもない唇が、色味を帯びて濡れたように輝く。

「……ではレオンを、『クラウド』から奪ってしまおうか」

 クックックッと低く笑う。

 自分のツラそっくりなのに、そんな徒めいた微笑を浮かべられるのかと驚く。

 『セフィロス』は楽しげにそう言って笑った。

「そんなに私のことを想ってくれているのなら、レオンに願って、私だけのものになってもらおう。本当に私を誰よりも愛しているのなら、たやすいことだろう」

 『愛しているのなら』と『セフィロス』は謳うように口にした。

「テメェはどうしてそう性根が悪ィんだ。レオンがそっちの世界の『クラウド』を捨てることなどありえん」

 オレは断じてそう応えた。

 

 

 

 

 

 

「……それは貴様がそうと思いこんでいるだけだろう。私の頼みならば聞き入れてくれるのではないのか?」

「おもしろ半分でつまんねぇことを言うな。言っておくがこれが最後のチャンスかもしれんぞ」

「なにがだ」

「レオンに本心を打ち明ける最後の機会かもしれないと言っているんだ。テメェの本心をオレは知っている。実際に『存在しなかった世界』でそれを目の当たりにしたのだからな」

 レオンの存在を確認したせいで、『セフィロス』の身体からノーバディが生まれようとしたのだ。これ以上の確かな証拠などあるまい。

「…………」

 『セフィロス』が無言のままオレを睨み付けてきた。さきほどまでののらりくらいとした人食ったような表情はあっという間に引っ込んだ。

「フン、そんなツラもできるんだな」

「……あのとき」

 彼は口を開いた。

「あのとき……なぜ、私の身体に異変が起きたのか。その理由をレオンは知っているのか」

「さすがの朴念仁でも気付いているだろうよ」

 と、オレは返した。実際にはオレがそれをレオンのやつに教えてやったのだが、何もそこまで正直に答える必要もあるまい。

「なるほど。つまり我々は両想いというわけだ」

 ……そのとおりだ。

 そのとおりだが、『セフィロス』の人ごとのような物言いに違和感を感じる。

 彼はつまらなさそうに携帯電話を取り出すと、それを弄んだ。

「そうだな。おまえがレオンに応えてやれば、そうなるだろうよ」

 オレは応えた。

「……不思議なものだな」

 ぼんやりと『セフィロス』が言う。

「なにがだ」

「初めてあの男に会ったとき、ヤツはクラウドを抱き上げて、私に剣を向けていた。……私とて同様だ。ただの敵対者がひとり増えたくらいにしか考えなかった。……いや、相当の使い手だろうとは思ったが、その程度の印象しかなかった」

 独り言のようにつぶやくと、彼は手の中の銀色の機械をオレのほうに滑らせた。