〜この手をとってささやいて〜
 
<11>
 
 ACセフィロス
 

  

 

 

「……ッ!」

 そういえば、ヴィンセントが言っていた。

『……その、最近、街や海辺にモンスターが現われたというニュースがある。レオンには言いそびれてしまったが、十分注意して欲しい』

 『セフィロス』に向かって、海水が跳ね飛び、魚のエイに似たような物体が跳ね出してきた。

「『セフィロス』!」

「なっ……これは」

「慌てるな、ただのモンスターだ」

 次から次へと噴き出してくる水妖が、ヒルのように身体にひっついてくる。

「なんだ、こいつは……!気色悪い!とれない!」

 『セフィロス』が悲鳴のような声を上げた。ぬめぬめとしたモンスターの体皮が気色悪いのだろう。無理に引っぺがして逃げるしかないのだが、そのつかみ所のないぬるりとした身体のせいで、掴み締めるのが難しいのだ。

「セフィロス!セフィロス!とれない!気持ちが悪い!」

「バカ、力尽くで引っぺがせ!」

 『セフィロス』が頬に張り付いた、薄気味悪い水妖をがしっと鷲づかみにして引っ張るが、ずるりと指が滑って上手く引きはがせない。

 今は剣を持っていない。マサムネさえあれば、こんなちんけなモンスターなんざ、一刀両断してしまうのに。

「気持ち悪い!セフィロス!」

 『セフィロス』が叫ぶ。オレも自身の前髪やら二の腕にひっついたそれらを力尽くで、引っぺがしている。

「あああぁぁッ!」

 『セフィロス』が、声を上げた。もう限界という悲鳴だった。

 背から翼が現われ、ヤツの身体が空に浮かんだ。

 ボッと炎の噴き出る音をさせ、セフィロスは完全体に変化した。

 ヤツの身体に張り付いていた、水妖どもが干上がり弾け散る。すると彼の身体はもとの姿に戻り、海から離れた浜辺に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「おい、『セフィロス』、大丈夫か?」

 うずくまっている彼の元に走ると、真っ青な顔をして喉元を押さえている。

「き、気色が悪い。なんだ……今のは」

「ヒル型のモンスターなんだろ。最近、海辺にああいったのが現われるらしい」

 最後の一匹を腕から引きはがし、オレはそう応えた。

「わかっているのなら、最初からそう言え。気持ち……悪い。目が痛い」

「目ェ?おい、こするな」

「今のを引きはがしたとき……体液のようなモノが入ったんだ。ちくちくして見えない」

「おい、こするなって!」

 オレが腕をとると、『セフィロス』はいやだというように振りほどき、目を押さえた。

「セフィロス……キモチワルイ……目、見えない」

 がくんと膝をついて、『セフィロス』がつぶやく。

 クソ、ヴィンセントから言われたことに、もう少し気を回すべきだった。モンスターなどと言われても、たいして害のない輩であると、頭から決め掛かっていた。

 体液に、なにか毒のような物質がまざっているのか、『セフィロス』の両目は朱く充血して、涙がぼろぼろとこぼれている。

「おい、『セフィロス』、背中に乗れ。このまま、急いで家に戻るぞ」

 うずくまるヤツの腕を引っ張って、背中に乗せる。今度は否応もなかったのか、『セフィロス』はおとなしくオレのすることに従った。

 浜の方に移動し、『セフィロス』を背負いながら、家にダッシュする。

 携帯を取りだし、自宅にコールすると、すぐにヤズーが出た。

 

「はぁい、ストライフ……ああ、なんだ、セフィロス?どうかしたの?」

「ヤマダーを呼んでおけ!『セフィロス』が、目を負傷した」

 すぐに気配を察知したのか、ヤズーは手短に『わかった』とだけ応えた。

「セフィロス、今、どの辺」

「浜沿いに走っている。後十分くらいで着く」

「わかった、気をつけて運んできてあげて」

 電話が切れると、オレはもう一度、長身の『セフィロス』を背負い直し、足を速めたのであった。