〜この手をとってささやいて〜
 
<13>
 
 ACセフィロス
 

  

「おろおろしてんなよ、みっともねーな」

 クラウドがレオンに忠告する。

 夕食は、クラウドが仕事からもどってくる時間に合わせているのだ。

「そうは言うがな……目が見えないというのは不安ではないか。ますます意固地になってしまっているようだし……」

「おたくの『セフィロス』はヴィンセント相手なら、全然意固地じゃないよねー。あぁやってご飯、大人しく食べさせてもらってるモンねー」

 なんのことはない。

 ヴィンセントが、『セフィロス』につきっきりで食事を食べさせてやっているのが気に入らないのだ。このあたりは、未だにお子様なクラウドである。

「ところでさァ、レオン、ホントにそっちの世界の『クラウド』のこと、大丈夫なんだろうなァ。そりゃ、人を好きになるのは自由だけど、『クラウド』を泣かせるようなことは……」

「それについてはよくよく考えている。『クラウド』を放り出すつもりはまったくない」

「ホント〜?俺、その言葉信じるぞ。いいな?」

「当然だ。俺の責任は自覚している」

 しっかりとレオンが頷き返した。

 オレから見ても、レオンが『セフィロス』のことを理由に、『クラウド』を放り出すとは思えない。強烈な保護欲と、責任感でだ。

 ……それにつけても、何故あのくそ真面目でカタブツの初恋が、あの男なのだろうか。

「趣味悪ィな……」

 思わず独り言が漏れると、さっそくというようにレオンが反応した。

「趣味が悪い?それは『セフィロス』に対しても失礼だろう。だいたいあれほど綺麗な人相手に趣味が悪いとはいかがなものだろうか」

「はいはい、悪い悪い。しかし、存外におまえは面食いだったんだな」

 そう返すと、レオンはカッと頬を染めて言い返してきた。

「別に俺は『セフィロス』の姿形にだけ惹かれたわけではない。あの人のありようというか……その難しい性格にも関心があって……」

「ボランティアかよ……」

 聞こえないようにつぶやいたつもりだったのに、地獄耳のレオンはしっかりと聞き留めたらしかった。

「何を言うんだ。ごく普通の恋愛感情だ!」

 と、声を上げる。

 

 

 

 

 

 

「はいはい、まぁまぁ、ふたりとも。楽しい夕食の席だからね〜。お子様組も居るし、殺伐とした話題はそこまでにね」

 まったくフォローになっていない言いぐさでイロケムシは、オレたちの口げんかを止めた。

「ねぇねぇ、レオンはあっちの『セフィロス』が好きなの?」

 どこか幼さの残る声音で訊ねてきたのはカダージュだ。

「……あ、ああ、そうだ。とても大切な人なんだ」

 ごほんと咳払いをすると、レオンは真摯に答えた。

「『クラウド』兄さんのことは?」

「も、もちろん、『クラウド』のことも大事だ。今も一緒に生活しているし、彼が望む限り、共に在ろうと考えている」

 四角四面に応える。

「でも、レオンは今、『クラウド』兄さんと一緒にいるんだよね」 

 スプーンでライスをほおばりながらカダージュが問いかけた。

「あ、ああ、それはそうだが」

「そしたらさ、『セフィロス』可哀想くない?レオンと一緒にいたくても、ひとりぼっちになっちゃわない?」

「そ、それは……なるべく、そうならないように努力を……」

「おーお、チビガキにまで痛いとこ突かれて、へどもどしててどうするんだよ。だから、よけいな手出しをするなと言っておいたのに」

「セ、セフィロス……」

「でも、レオン、『セフィロス』のこと好きなんだよね。切ないねぇ……」

 カダージュにまで同情され、レオンは赤くなったり青くなったりだ。

「それにしても、ヴィンセント、楽しそうだよね〜」

 ふて腐れたようにクラウドが言う。

 サンルームのガラス越しには、『セフィロス』の休むベッドのとなりにスツールを起き、夕食を食べさせてやっているヴィンセントが居る。

 普段はほとんど表情が変らないのに、今はとても楽しげにニコニコと笑いながら、『セフィロス』の餌付けをしているのだ。

「ヴィンセントはずっと『セフィロス』と再会したがっていたからね。彼の方もヴィンセントには懐いているし、しばらくの間は仕方がないよ、兄さん」

 イロケムシがそう言った。

「まー、そーだけどね。レオンも、『セフィロス』の世話手伝えよ。少しはいいところ見せないと、振られるぞ」

 クラウドがビシッと人差し指を突きつけてそう言う。

「と、当然だ。明日からはしっかり面倒を見させてもらう」

 とレオンが言い返した。

「そうだね。まずは警戒心を解いてもらってからじゃないと何も始まらないよ。さーてと、デザート食べよっか」

 と、イロケムシが席を立った。