~この手をとってささやいて~
 
<22>
 
 レオン
 

 

 

 

「ア、アンタの気持ちを聞けたのは嬉しかった。ずっと嫌われていると思っていたから。そ、その……」

 手持ちぶさたで、テーブルの上に放り出した俺の手に、白い手が重なった。俺と同じように剣を使うというのに、彼の手指は白くしなやかだ。でこぼこと骨張った俺の手とは全然違う。

 

「……おまえのことが怖かった」

 ぼそりと『セフィロス』がつぶやいた。

 信じられない言葉だった。

「怖い……?」

「ああ、怖かった。……私のことを怖れぬばかりか、ずかずかと土足で側にやってくる男など初めてだった。ああ、今は後一人。おまえの父、ラグナ・レウァールが居るが」

「あのバカ親父……あ、いや、失敬した」

 俺の脳裏には、真抜けたアホ顔をしたクソ親父の顔が思い浮かんだ。

「私がエスタに迷い込んだときも、おまえは迎えに来てくれたな。そして先だっては、『存在しなかった世界』で、13機関とやらに囚われたときにも真っ先に救いに来てくれた。……そして、私の棲む世界を見ても……気持ちは変らないという。不思議な男だ、おまえは」

 『セフィロス』が小さく笑った。

「もちろん、気持ちは変らない。いや、むしろ、これまで以上に、アンタの側に居たいと思った」

「そこだ……そこが変っているというのだ、レオン」

「そういわれても……これが俺なのだ。変っていると言われてもどうしようも……」

「よいのだ、レオン。そのままでいい。……だから、私は少しだけおまえを信じようと思う。おまえならばと思う」

 そう言ってから、

「……少し疲れた」

 ふ……と『セフィロス』がため息を吐いた。

「あ、す、すまん、気がつかずに。まだ本復とはいえないのだからな。横になってくれ。何か飲み物でももらってこよう」

 腰を浮かしかけた俺を、白い手が阻んだ。

「よい。……ここに居ろ。私が眠るまで」

「わ、わかった。身体を冷やさないように」

 そう告げて、俺は枕辺に侍った。

 

 そして、その夜は、『セフィロス』の床上げによる、ささやかな宴が開かれたのであった。

 

 

 

 

 

 

「……レオン、出掛けよう」

 『セフィロス』がそう言いだしたのは、完治の祝いをした、翌々日のことであった。すでにこの地にやってきてから、十日以上経っている。

「あ、ああ、かまわないが、急にどうした?」

 と、俺は訊ねた。

 ここは常夏の国、コスタ・デル・ソルだ。とても『セフィロス』の好きな陽気とは言い難いだろう。

「もう、目も見えるようになったし、少しは歩こうと思って……」

 妙にしおらしいことを言う『セフィロス』に、俺は慌てて頷き返した。いくら治ったとはいえ、つい二日前に快気祝いをしたばかりなのだ。コスタ・デル・ソルの地理にもくわしくなかろうし、ここは俺が護衛として、付いていくべき場面だろう。

「そうだな、あまり引きこもっていては、身体にも良くない。アンタがそういうのなら、伴をしよう」

 ヴィンセントさんに、遅くなったら連絡すると言い置いて、俺と『セフィロス』は外に出た。

 今日も今日とて快晴だが、風がある分涼しく感じられる。

「……まぶしい」

 『セフィロス』の歩幅に合わせて、後ろから付いていく。

 コスタ・デル・ソルの陽差しのせいだろうか。彼の足取りは、どこかフラフラとして、頼りない。

「『セフィロス』、大丈夫か。何も無理をしてまで……」

「問題ない……」

 俺が言い終わる前に、『セフィロス』が言葉を挟んだ。

「だが……」

「大丈夫だと言っている」

 緩やかな風が『セフィロス』の髪をなぶる。銀色の糸が、南国の陽差しを受けて、キラキラと輝いている。

「……何を見ている」

 『セフィロス』に声を掛けられて、俺は意識を元に戻した。

「あ、い、いや、なんでもない。そ、それより、どこか行きたいところがあるのか。アンタよりは俺の方が地理感がある。言ってくれれば案内するが」

「……そうだな。イーストエリアのセントラルとやらが面白いと、ヴィンセント・ヴァレンタインが言っていた」

「ではセントラルに?」

「ああ、中央というくらいなのだから、気の利いた施設くらいあるだろう」

 『セフィロス』はそう言って笑った。