~この手をとってささやいて~
 
<28>
 
 レオン
 

 

 

 

……その日は明け方近くになって、ようやくぐっすりと眠った。

 風呂に入るだのシャワーを浴びるだの、互いにそうは言っていたものの、一度の交わりでは足りなかったのだ。

 都合、三度も抱き合い、それこそ精も根も尽き果てるようなめくるめく時を過ごしてしまった。

 俺はともかく、心配されるのは『セフィロス』の身体だ。

 背が高く、しなやかな筋肉がついている彼だが、どうにもコスタ・デル・ソルにいる方のセフィロスと比べると、線が細く繊細に見える。体力がないわけではなかろうが、翌日の朝などは、よほど眠かったのか、朝食もまともに摂らない有様であった。

 

「その……『セフィロス』。無理をさせてすまなかった」

「何を謝る。……おまえのせいではないだろう」

 フルーツジュースを啜りながら、彼が笑った。眼球に青みがかかっているのは、貧血症の人間だという話をどこぞで聞いた。

 確かに彼はその手のタイプに見える。美しくはあるが、やはり心配であった。

「……朝はあまり入らん。今日もいつもと同じだ」

「それはそうかもしれないが……同じ『セフィロス』だといっても、アンタはこっちの人と比べると、繊細に感じて……」

 俺が言葉を選んでそう言うと、『セフィロス』はおかしそうに笑った。

「あのセフィロスと比べれば、誰だとて、繊細に見えるだろうよ」

「……あの人は、まず食事の量からしてアンタとは違うからな。ちゃんと別人だとわかっているのに……ついアンタに無理を強いてしまった。ヴィンセントさんが居たら叱られてしまうところだ」

「ヴィンセント・ヴァレンタインか。……ところで、昨夜のことを正直に話すつもりか」

 首を傾げて『セフィロス』が訊ねてきた。

「そ、それはその……訊ねられたら致し方がないというべきか」

「面白がっていろいろ言ってくるのは、それ以外の者たちだと思うがな」

 一体誰の顔を思い浮かべているのか、彼はめずらしくも声を出しながら笑ってそう言った。

「アンタの髪が長くてよかった」

 やや唐突に俺はそう言った。

「……そんなに痕をつけたのか?」

「たぶん。夢中だったからな……」

 くすぐったいと言われたときのことを思い出して、そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 結局帰りは車を使うことにした。

 『セフィロス』は大丈夫だとは言っていたが、食事をあまり摂っていなかったし、いつもより一層、肌の色が青白く見えたからだ。

 タクシーを降りると、俺たちは懐かしの(?)、ストライフ家に戻ってきた。

 

「ただいま、戻った」

 しかめつらしくそう言ったが、ヤズーはにやにや笑っているし、クラウドには朝帰りをはやし立てられた。

 ヴィンセントさんだけはいつもとそう変わりなく、飲み物の準備をしてくれていた。

「よぉ、レオン、早い帰宅だな」

 がしっと肩を組んできたのは、こちらの世界のセフィロスであった。

「あまり皆に心配を掛けるといけないしな。朝食を終えてから戻ったんだ」

「しかし、まぁ、おまえにしてはなかなか思い切った行動だな。それでどうだ、上手く行ったのか?」

 あけすけに訊ねてくるセフィロスに苦情のひとつも言ってやろうとしたときだった。

 『セフィロス』が、ごく普通の口調で、

「誘ったのは私だ」

 と、つぶやいた。

 クラウドだの、ヤズーだのが、耳を大きくして話を聞こうと待ちかまえている。

「じゃ、レオンとしては、誘われちゃって決心が着いたと……」

 ヤズーがそういうのを、

「いや、どっちが誘ってなどというのはどうでもいいことだ。重要なのは、双方の気持ちが通い合ったということだ」

 と遮った。

「じゃ、ま、やることやってすっきりしたと……」

 これまたクラウドが、歯に衣着せぬ物言いで、あっさりと言うのを、『セフィロス』のほうが、

「そうだな」

 と、認めてしまった。

「……ここに居るのは楽しいが、いずれは帰らなくてはならないだろう。ヴィンセント・ヴァレンタインらは、私を心配してくれるようだが、問題ない」

 『セフィロス』が言う。

 俺は慌てて言葉を重ねた。

「そのとおりだ、心配ない。俺がいつでも『セフィロス』のことを気にしている。ひとりにはしない」

「そういうことだそうだ……」

 と、『セフィロス』が笑ったのであった。