〜second impact〜
 
<1>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 ……明けて翌日。

 

 俺は、クラウドの容態を見守りつつ、そのまま眠ってしまったらしい。
 
 彼の枕辺に置いた椅子に掛け、前屈みにうつむいたままの姿で。

 せっかく用意してきた熱冷ましも飲まさずにだ。

 

 どこででも、睡眠が取れるのは、特技の一つであるが、今回はさすがにみっともなかったと思う。

 

 そんな俺を起こしてくれたのは、クラウド本人だった。

 

『おい……』

 困惑したような、小さな声。

 呆れたことに、繰り返し名を呼ばれても俺は目覚めなかったらしい。

『おい……レオン……』

「…………」

『おいったら……レオン……』

「…………」

『……夢じゃないよな……レオン?』

 

 微かに耳に残ったのは、独白のような最後の言葉だった。

 

「……ん……」

 自分のつぶやきが頭に響いて、俺は重いまぶたを見開いた。

 

「レ、レオン……?」

「……ああ」

 おもむろに顔を上げると、前髪が触れ合いそうな距離で、クラウドが俺を覗き込んでいた。 

「な、なんだよ、急にアタマ上げんなよ!」

 パッと身を引くクラウド。

「……ああ、クラウド……そうか、あのまま……」

 この時点でようやく合点のいく俺であった。

 さすがに昨夜は疲れていたのだろう、彼の部屋に様子を見に来た後の記憶がなかった。

 

「……すまん、寝込んだみたいだ」

 俺は小さくつぶやいた。寝起きだったので、今ひとつ頭がハッキリしない。

「……ア、アンタ、わざわざオレについててくれたのかよ、赤の他人のオレに……もの好きだな」

「いや……熱がひどかったら起こして、熱冷ましを飲ませようと思ってたんだ。だが、よく眠っていたから、しばらく様子を見ようと思ってな」

「それでずっと? 変な奴……」

 あくまでも憎まれ口を叩こうとするクラウド。

 だが、今朝は大分具合がいいようだ。顔色も悪くないし、話をする元気もある。

 

「ああ、具合がいいようならばよかった。……邪魔をしたな」

 そう言い置いて立ち上がる。

 とりあえず、朝食の準備と、読みかけの資料をなんとかしなければ。今日はともかく、明日にはマーリンの家で、シドたちとの打ち合わせがある。

 

 そんなことに思いを巡らせていると、俺の服を、あわてた様子でクラウドが掴んだ。

「……? どうした?」

「あ……と、違う……ゴメン、俺……」

「何だ? 容態が落ち着いているようなら、一度風呂に入った方がいいかもな。汗をそのままにしていると風邪を引く」

「え……え……いや……あの……」

「ついでに風呂を沸かしてくる。もういいか、クラウド」

 未だにシャツを掴んだままの、クラウドの手を外し、俺はすぐに居間にとって返した。

テーブルの上に、読みかけの資料が散乱している有様にうんざりとしかけるが、それどころではない。

 手早く片づけ、風呂場に行く。

 

 面倒くさいので浴槽を洗いがてら、朝のシャワーも済ませてしまおう。

 椅子で眠っていたせいか、背中がぎしぎしと音を立てるが、そうも言っていられなかった。ノーバディーとハートレス、そして賢者アンセムの研究……わからないことは両手にあまりあるほどだ。

 

 湯を浴びると、いやがおうでも目が覚める。

 俺は乱暴に髪の水気をぬぐい、ズボンだけ履くと、バスタオルを肩に引っかけて、浴室から出た。

  

 すると、居間のソファにクラウドが居た。

 部屋でしていたときと同じように、小さく膝を丸め、縮こまった姿勢で。

 俺が上半身裸という、だらしない格好でバスルームから出てくると、彼は少し驚いたように目を大きくした。

 

「……? クラウド、すぐに湯が沸くが……寒くないか? ベッドに入っていた方が……」

「だ、大丈夫だってば」

「だが、昨夜は熱が出ていたからな。今は大事をとるべきだ。これを羽織っていろ」

 俺は乾燥機から洗い晒しのガウンを取り出し、クラウドに放り投げた。

「……う、うん」

「なんだ? どうかしたのか?」

 もそもそとパジャマの上からガウンを羽織る。やはりこれも彼には大きいようだ。

「……アンタ、けっこう身体、出来てるね。普段、長袖ばっかり見てるから……」

「そうか? まぁ、一応、剣士のつもりだからな」

「うん……」

「……おまえ、それはクセなのか?」

 俺は彼に訊ねてみた。

「……え?」

「よくそうして、膝を抱えて丸くなるだろ」

「え……あ……そうか……な?」

「ああ」

「自分じゃ気付かなかった。でも、なんか、この格好……落ち着くみたい」

 一度は組んだ手足を外し掛けたが、元通りに組み直して、彼は小さく笑った。少し寂しそうな微笑だった。

 

 リモコンのタイマーが鳴る。

 風呂が沸いたらしい。

 

「クラウド、きちんと温まってこい」                  

 俺は彼に声を掛けた。

 そして、ふたたび乾燥機を漁り、畳みもしていない着替えのパジャマを、引っ張り出すことになったのである。