〜Second impact〜
 
<6>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

 マーリンの家に着くまでに、二度ほどノーバディと遭遇した。

 

 強敵というわけではないが、数を頼みに向かってこられるのは厄介なものだ。片手でバイクを運転しつつ、ガンブレードでやつらを凪払い、俺は目的地へ走った。

 

「おう、レオン!」

 扉を開くと、無遠慮でにぎやかなシドの声が飛んでくる。

「ああ、昨日はすまん。顔を出そうと思ったんだが……」

「おはよ、レオン」

 とエアリス。

「ねぇねぇ、ノーバディ増えたと思わない? なんかさァ、最近、ハートレスより多いってカンジ」

 あいさつもせずに、いきなり話しかけてくるのはユフィだ。

「だよなァ! しかもノーバディのほうは、まだまだわかんねェことが多いから、相手すんのもやっかいだぜ」

「だよねぇ!」

「ったく、CPの調子も悪りぃってのによォ」

 シドのとなりにティファもいる。

 

「……今日はずいぶん、揃っているな」

「おう、みたいだな。俺サマはちょっとコイツのことが気になって……」

 守備システムの不具合を言っているのだろう。さきほどから騒々しいほどに話しかけてくるが、デスクから動こうとはしない。

  

「はい、お疲れさま、レオン。どうせすぐ出掛けちゃうんだろうけど、少しくらい休んで」

 そういいながら、ティファがお茶を運んでくれた。

「ああ、すまない」

 礼を言いつつ、テーブルに座る。

「シド、資料の続きがあるなら、受け取っておきたいんだが。俺が預かった分は持ってきている。気になる部分には印をつけておいた」

「おうよ。ユフィ」

「あいよっと。はい、これ、レオンの次の分ね」

 そういうと、ユフィが書類袋を手渡してくれた。

 ……もはや書類袋などというカワイイものではないが。俺は手提げに入った書類一式を預かった。またしばらくはコイツと格闘になるだろう。

 

「……ああ、そうだ」

 俺はふと思いついて口を開いた。彼らにはひとこと、クラウドのことを言っておいたほうがいいだろう。

「なに、レオン?」

 女性陣がこちらを見る。

「皆には一応、知らせておく。クラウドのことだが、今、うちにいる。それだけだ」

「……ちょっ……レオン、それじゃ全然意味、わかんないよ」

 ユフィがいきなり突っ込んできた。

「あ、ああ、そうか。以前の怪我の予後がよくなかったようなので、うちで休んでもらっている。ホロウバスティオンに住まいがあるわけではないらしいし、しばらくは俺のところに滞在する予定だ」

「……怪我って? ひどいの? どうして言ってくれないのよ……クラウド……」

 ひどく深刻な顔をしてつぶやくティファ。

「いや、もうずいぶんといい。心配はいらない」

「みんなでお見舞い、行く?」

 とエアリス。

「……気持ちは嬉しいだろうが、正直、クラウドはあまり人に会いたいようには見えない。俺も世話をする以外はなるべくかまわないようにしている。彼が自分からここに来るまでは待ってやったほうがいいだろう」

「そっか……そ、だよね。レオン、クラウドのこと、よくわかってるねぇ」

 不思議な笑みを浮かべてエアリスが言った。

「いや……気むずかしい男だが、思考や行動は単純だ」

 他意もなくそう答えると、シドが爆笑した。

 

「ブッ……ブハハハハハーっ! そう、そのとおりだぜ、あの小難しいガキはよ! ガキならガキらしく人を頼れっつーの!」

「あっははは! おっかしい! でも、レオンとクラウド、キャラ合ってるかもね。天然ボケとワガママ小僧!みたいなカンジでッ」

 つられたように、笑うユフィ。

「……? なんだ、それは……俺は別に……」

「まぁまぁまぁ、いいからよ! じゃ、とりあえずクラウドのガキの心配はいらねーな。よろしく頼んだぜ、レオン」

 と、シドが言うと、ティファ、エアリスも納得したように頷いた。

「はぁぁ〜……同情するよ、レオン、アンタも苦労性だよねぇ……」

 何故か、ユフィにはそんなことを言われ、ぽんと肩を叩かれてしまう。

「……よくわからないが……そういうことだ。クラウドに用件があるときは、俺に言ってくれ。きちんと伝える」

「おうよ」

「オッケー」

「はい、よろしくね」

 などと口々に応えてくれたのを見届けると、俺は腰を上げた。

 そうそう、ゆっくりはしていられない。これから城まで行って来なければならない。先日の大雨で、工事が遅延していると聞いたし、コンピュータールームの不具合も気になる。

 それに、クラウドに「夕食までに戻る」と約束してしまった。遅れればきっと不愉快に思うだろう。

 

 カップをソーサーに戻し、ジャケットを羽織った。

「もう、行くの?」

 とティファ。

 彼女は勇ましい格闘家だが、三人の中で、一番女性的なキャラクターかもしれない。

「ああ、飲み逃げで悪いな」

「そんなこと気にしないで。……気を付けてね、レオン」

「ああ」

「それから……クラウドのこと、よろしく」

「? ……ああ」

 俺はひとつ頷くと、マーリンの家の外に出た。

 待ち構えていたように向かってくるハートレスを蹴散らし、道を急ぐ。

 本当ならバイクで行きたいところだが、道が悪いところが多すぎる。

 

 早足で住宅街を抜け、俺は城へ向かった。