〜Second impact〜
 
<9>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安っぽいブリキのアナログ時計……

 

 長針と短針が重なり、昨日から今日へと時が移る。

 

 食事の後、湯に浸かり、疲れを落とせたと思っていたのだが……逆に目は冴え、あれほど多くのことが起こった一日にもかかわらず、一向に睡魔が襲ってこない。

 

 何もかも忘れてゆっくり眠りたかったのに……

 こんな時間に、ベッドの上で、ひとりでできることといったら考え事しかないだろう。そうなれば、必然的にセフィロスの言葉を反芻することになってしまう。

 

『変化は歴史の必然だ』

『星が内的要因で変化するのは、それはもう「そうなるべくして」変わったということだ』

『この場所が闇に落ちたこと、アンセムという人物が現れたこと……これは「歴史の必然」だ』

『アンセムを生み出したのはこの星ではないのか?』

『星の名さえも遠い過去のモノになってしまったのはこの土地の出来事ではなかったのか?』

『アンセムを滅ぼしても、それはひとりの『人物』を消しただけのことだ。思想や思念は永久に生き続け、次のアンセムを生み出すだけのこと……』

『この場所が闇に落ちたこと、アンセムという人物が現れたこと……これは『歴史の必然』だ』

 

 苦いものが口の中にこみあげてくる。

 あの男の言っていることは……そう、まさしく以前、俺がそう考えていたとおりのことだった。

『仕方がないこと……』

 俺はそう思っていた。

 見知った多くの人々が、俺の目の前で、塵芥に帰したあの日までは……

 

 そう、現在の俺の行動は、ひどくパーソナルな理由なのだ。星の命だの、世界の存亡などという大義名分を、いくら掲げても自分の心はごまかせない。

 

 ただ単に、人のよい気さくな人々……おとなしい羊たちが、何故にああいった形で消滅させられなければならなかったのか。

 俺などより、遙かにこの星を愛おしんでいた人々が、どうしてこの地で無慈悲に命を奪われねばならなかったのか……

 

 それを知りたかった。

 理不尽で不合理な力が働いているなら、それを排除し、彼らの愛したもとの形に戻してやりたかった……ただそれだけなのだ。

 

 だが、それらすべてのことが、セフィロスのいうとおり『歴史の必然』ならば……

 おとなしい羊たちが無為に殺されたのも、ハートレスが生み出されたのも……すべて『歴史の必然』ならば……

 

 

「……よそう」

 俺は口に出してつぶやいていた。

 自然に大きな溜め息が漏れる。

 セフィロスの問いの答えの半分は、すでに心の中にある、今の感情で、もう半分は目的を達した後でなければわからない。

 そのとき、俺がどう思うか。なにを感じるのか……

 そして、おのれの行ったことが……『歴史の必然』を変えようとすることが、誤っていたのか否か……

 

 無理に目を綴じ合わせる。

 

 次に浮かんで来たのは、クラウドだった……

 ……可哀想なクラウド……囚われの狼……

 

 いったい彼はこれまで、どれほど過酷な生を歩んできたのだろう。

 ほんの少し素直になれば……そして笑うことができれば、周囲の人々はいくらでも彼を愛することができるのに。

 彼の生い立ちだの、生育歴だの、そういったことはまったく聞いていない。

 いったいどういう経緯でセフィロスとかかわるようになったのか……軍人になるつもりであったということから、その当時知り合ったという見当は付くにせよ……

 なぜ、彼でなければならないのか……

 

 他人の好意や思いやりを、『最初からなかったことに』にしなければならない人生とは……どのようなものだったのか……

 やわらかな人の好意をなかったことにしながらも、あれほど残虐な仕打ちをするセフィロスを、唯々諾々と受け入れるのは……クラウドのなにがそうさせているのだろう。

 

『……セフィロスがいなくなったら、オレはひとりになる』

『オレの内側に入ってきて、オレにだけ特別な言葉をかけてくれる人は……いなくなる』

『……オレは……永遠にひとりになってしまう』

 

 ……「孤独」

 自ら独りになっているくせに、そんなにも「孤独」を恐れているのだろうか。

 セフィロスがいなくなっても、決してクラウドは孤独ではない。

 いや、それとも、「そういった意味合いで」彼の身も心も愛してくれる人……ということなのか?

 ……ならば、セフィロスが彼の『身も心も』満足させてくれているという、絶対的な自覚がクラウドにあるのだろうか。

 

 バカな……

 肉体的な満足はともかく、クラウドの怯えきった心を満たしているようには思えない。だから彼はあれほど用心深く、臆病で、そして脆いのだ。

 

 …………

 

 ……いやいや、よそう……

 ……もう……眠らなければ……

 

 カーテンの隙間から覗き込む、月明かりさえわずらわしい。

 俺は片腕を、目の上に載せると、深く吐息した。

 

 

 ……そのときだった。

 

 ひどく遠慮がちなノックの音が耳に入ったのは……