〜Second impact〜
 
<14>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

「……クラウド?」

 彼の整った白い顔を見つめる。

 

「ちゃんと気持ちよくしてあげられるから……」

 そういうと、ふたたび彼の唇が降りてくる。

 やわらかな接吻を繰り返した後、今度は薄い舌が口腔に滑り込んできた。 

 

 自由になった両手で、クラウドの頬を包む。

 急に触れられて吃驚したのかもしれない。びくっと重なり合った部分が震えた。

 乱暴な動作にならないよう、細心の注意を払って、俺に口づけるクラウドを引き離した。

「……レオン……?」

 不平そうに……だが、どこかに怯えを隠したような表情で俺を見つめる。

 

「……クラウド」

 俺は口を開いた。いや、ようやく話す機会を与えられたといったカンジだった。

 これまでずっと、彼の口唇でふさがれていたのだから。

 

「レオン……やっぱ……」

「違う。すぐそういうふうに考えるな」

「…………」

 困惑したように俺を見る、白い顔。

「おまえは俺のことを好いてくれているんだったな?」

「え……な、なに……急に……」

「違うのか?」

 俺は確認した。

 

「何言ってんだよ……最初にそう言ったの……オレの方なんだからな……」

 照れ隠しなのか、目を逸らせて、ブツブツと口の中で文句を言う。

「そうだな……さっきも『大好き』と言ってくれたしな」

「ちょっ……なんなの、アンタ! そんな恥ずかしいこと、繰り返して言うなよッ!」

「……クラウド」

 少しばかり口調を改めて、彼の名を呼んだ。

 それが彼にも伝わったのだろう。顔を上げて俺を見る。

 

「……俺のことが好きなら、今日は大人しくして居てくれないか?」

「……え? なに……ソレ?」

「俺に任せて欲しい」

「……レオン……?」

 綺麗な蒼の瞳が大きく瞠られる。こちらの真意が読めないのだろう。

「で、でも……レオン……」

「……いいな?」

 白い顔をのぞき込んで、含めるようにそう言って聞かせると、彼はおずおずと頷いた。

 

 ……クラウドにセフィロスのことを、一片たりとも思い出させたくはなかった。

 それに、セフィロスに教え込まれたという性癖は、通常、想像される交わりとは異なるものだろう。

 もっとも不慣れな俺が、それを矯正するには時間がかかるだろうが、少しずつでも知ってもらいたい。

 身体の交わりは決して相手を傷つけるものではなく……慈しみ、慰め合い、そして愛おしむものだと。

 

 主導権が握れないとなると、とたんに彼はおとなしくなってしまった。

 おそらく、セフィロスとの時は、一方的に、命じられるがまま、為されるがままに受け入れていたのだろう。

 所在なさげに、視線を泳がせる彼に近づき、眉を寄せそっぽを向く顔を、こちらに向けてやった。

 

 ……気の毒に、真っ赤だ。

 いや、笑ってはいけない。

 俺自身、心許ないが、クラウドの緊張と不安には比べものにならないだろう。

 

「クラウド、目を閉じてくれ」

 さっきのお返しとばかりに、そう言ってやる。

 軽い口調で笑みを誘おうとしたが、彼は至極真面目に、ぎゅと目を瞑った。

 

 その表情がひどく可愛らしく見えて、ついつい吹き出しそうになる。

 だが、この場面で吹いたら、ただじゃすまないだろう。

 可笑しくてにやけてしまう口元を押さえ、気を落ち着かせた。

 

 そっと彼の口唇へ接吻する。

  

 軽めのキスを何度か繰り返した後、クラウドがしたように、歯列を割り口腔に舌を忍び込ませた。

 そっと……だが、決して弱くはない力で両の頬を押さえ、何度か角度を変え、彼の内側の感触を味わう。

 長くて深い口づけの間に、さっきまでは上に乗っていた彼を、今度は抱き込むように身体の下に組み敷いた。

 自分よりも一回りは小さな身体に、負担を掛けないように注意する。

 

 長い長い口づけの後、俺はようやく彼の口唇を解放した。

 瞳の淵に涙を溜めたまま、ぼぅと惚けたように俺を見上げるクラウド。

 

 舌で眦のしずくを舐め取り、薄い耳朶を愛撫する。

 彼の真っ白な首筋……それが繋がる肩の線はとても綺麗だ。

 

 俺は邪魔になったパジャマのボタンに手をかけた。もっともブカブカなので、そのまま引っ張れば抜け落ちてしまいそうではあったが。

 むき出しになったしなやかな肩……思いの外薄い、胸から腹のライン……とても綺麗なのに、セフィロスに刻まれた傷跡が生々しい。

 俺はそれを消してやりたいような心持ちで、そっと唇を滑られた。

 

 そのときだった。

 クラウドの身体がビクンと撥ねた。

 さきほどまで、大人しくしていたのに、急に起きあがろうとする。

 

「……クラウド?」

「や、やっぱり……ヤダ! ダメだ!」

「どうした……滲みたのか?」

「……オレ、オレ、バカみたい……忘れてた……ダメだ、レオン、やめよう!」

「おい?」

 ……ここまで来てそれはないのではなかろうか。

 しかも、クラウドのほうから、望んだことなのだろう。もちろん、俺だってそのつもりになったのだから、言い訳する気など全くないが……

 ようやく覚悟が決まったところ、出鼻をくじかれて、俺はいささか拍子抜けした。

 

「ダメだよ……オレ、今は……何、考えてるんだろ、オレ……」

「なんだ、どうした?」

 またもやイラついた声を上げそうになって自制した。

 どちらかというと忍耐強い方だと自負しているのだが……

 

「だって……オレ……体中……痕が……」

 ギュッとパジャマの前合わせを握りしめて、クラウドがつぶやいた。

「……痛むのか?」

「そういうことじゃないよ……痛みはもう全然ない」

「ならば……」

「だって……! は、はじめて……アンタと……なのに……オレ、こんな身体……」

 ぐすぐすと鼻水を啜るクラウド。

 

 こんな身体もどんな身体も、クラウドの身体なのだから関係ないと思うのだが。 

 ましてや女じゃあるまいし、気にするほどのことではないと感じる。

 「デリカシーがない」と罵られそうだが、実際、俺にとってはその程度のことなのだ。

 

 確かにセフィロスにつけられた傷を、他人に見られたくないという気持ちはわからないでもない。

 だが、彼がここにきてから、ずっと手当をしてやっているのは俺だ。湿布を貼り替え、包帯を取り替えて……まったくもって今さらだと思うのだが。

 

 ああ、いけない。

 こういったところが、「無神経」なのだろうか。

 危うく、「どうでもいいだろ、そんなこと」などと口走りそうになり、慌てて口を噤んだ。