KHセフィロス様の憂鬱
〜おまけのうらしま外伝〜
<5>
 
 ラグナ・レウァール
 

 

 


 

 

 風呂から上がると、テーブルの上には綺麗に料理が並べられてあった。

 キロス、GJ! 

 それらは今まさに盛りつけられたらしく、熱々と湯気を立てていた。

「おっ、グッドタイミーング! セフィ、ご飯食べよ」

 ソファに座ったセフィロスに声を掛ける。

 長湯をしたせいか、彼はひどく気怠げな様子で眠そうに見えた。

 銀の絹糸みたいな髪が、白い頬に降りかかり、その先端がローブの合わせ目に忍び込んでいる。

 ……ホントに綺麗な人だなァと思う。

「……少し休んでから」

 独り言のように彼がつぶやいた。

「どうしたの? 気分悪い?」

「……別に」

「んもー、また『別に』〜! 寝るのはいいけど、やっぱゴハン食べた方がいいと思うよ。体力落ちちゃうと、帰りの飛空艇キビシーから」

 しっかり空腹の俺は、下座に腰掛け、あつあつのスープをスプーンで掬った。うんうん、いつ口にしても、ここのコンソメスープは美味い!

「……飛空艇……か」

 と、セフィロス。

「うん! 見てのとおり、エスタの機械文明は進んでますからね〜。ホロウバスティオンなんて、そいつでも使わなきゃ、とても行き来できないよ」

「…………」

「ねぇ、セフィはやっぱホロウバスティオンの人なの? あそこにおうちがあるの?」

「……まぁ、そんなところだ」

 彼はどうでもよさそうにそう答えた。

「ふーん、どの辺? うちの息子んちの近く?」

「……近くもあり……遠くもある……」

 謎かけのようなセフィロスの言葉。氷の瞳は夢見るように、虚空に投げかけられたままだ。

 長い銀髪を掻き上げると、生乾きのそれらは少しずつの毛束にまとまって、彼の肩から背に滑り落ちた。

「セフィってば、秘密主義〜」

「……フン」

 いささか軽佻浮薄にすぎるかと思ったが、そんな風に言ってやると、彼は鼻先で軽く笑いようやく立ち上がった。

 テーブルに寄ると、

「……量が多すぎるな」

 とつぶやき眉を顰める。

「そぅお? 成人男子なら余裕でしょー。俺より若いんだし」

「さぁ……どうだろうかな」

 彼は低く笑った。

 その言葉は『成人男子なら食べられる量だろう?』という言葉に対してなのか、『俺より若いんだし』という年齢についての返答なのか、一瞬判断に迷った。容姿を見れば後者であるはずがないのに。

「……だが、有り難く頂戴しよう」

 素直にスプーンを取り、俺のすすめたコンソメスープを飲み始めた。

 さきほどからアレコレとしゃべりかけているのは、ほとんど俺で、セフィロスは時折相づちを打ったり、軽く頷くだけだ。ほとんど否定的な態度を取ることはない。

 ……多分それは、肯定ならば、それ以上深く突っ込まれることはなかろうが、反対意見を言えば、当然「どうして?」ということになって、話題が先に進んでしまう。

 寂しいことだが、少なくとも現段階では、セフィロスはそれほど多くを俺に語るつもりはないようであった。

「……ね、味はどう?」

 と訊ねても、

「ああ」

 とか、

「悪くない」

 などと言うだけだ。

 しかも、そう答えてくれるにも関わらず、それほど食が進んでいる様子でもない。

 例えば、スープやサラダ、魚料理の軽めのものなどは、手を着けるが、俺の大好きなチキンの揚げ物や、肉料理はさりげなく避けている。

「セフィ、お肉嫌い? 食べられないものとかあった?」

「……いや、そんなことはない」

「まぁ、疲れてるみたいだし、そんなにたくさんは入らないか」

「……これでも充分食べていると思うが」

 いささか素っ気なく、彼はつぶやいた。

 フツーの人間なら、この整った美貌から、冷たい言葉を聞かされたら、それだけで意気消沈してしまうだろう。だが俺様はラグナ・レウァールだ!

 あの無愛想な息子の父親なのだ。ちょっとやそっとクールな対応を取られたからと言って、へこんだりはしないのさ。

 

「ねぇ、セフィの好物って何?」

「何故、そのようなことを訊く」

 こちらを見もせずに、彼は聞き返した。

「だってさ、ホロウバスティオン行きの飛空艇が出るまではここに居るんでしょ?」

「……いったい、いつになるというのだ」

 やや苛立たしげに彼は言った。

「ほら、ホロウバスティオンはハートレスの問題が片づいてないじゃない? だから、安全を確認してから飛空艇を出すんだよ」

「…………」

「ホロウバスティオンからエスタ行きの飛空艇もあるけど、そっちなんて週に一度飛ぶか飛ばないかなんだから」

「…………」

「おまけにホロウバスティオンからは距離があるから。乗ってる時間長くなるし、君の体調がちゃんと元に戻ってからじゃないと搭乗させるわけにはいかないよ」

「…………」

「やっぱさ、途中で具合悪くなったら困るし、心配だし」

「…………」

「セフィロスは大事な友だちだもんね〜」

「……顔見知りだろう」

「友だちだよ」

「…………」

「で、最初の質問に戻ると! ここの食事でリクエストがあったら何でも言って。逆に苦手なものがあれば気を付けるし」

 にっこりと微笑みかけると、セフィロスはふぅと小さく吐息した。