KHセフィロス様の憂鬱
〜おまけのうらしま外伝〜
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 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 


 

 

 

 

 セフィロスの名を耳にし、煽られる焦燥感を押し込めて、俺は再び受話器向かった。

「すまん。いささか驚いたのでな」

『変なスコール。別にそんな大騒ぎするようなことじゃないでしょ』

「アンタは状況を理解していないから……! いや……だが、ふぅ……まぁいい。無事なら……よかった。しかし、なぜエスタなどに……よりにもよってラグナの…… ああ、いや待て……落ち着け……俺」

『……おまえ、何ぶつぶつ言ってんの? キショ!』

「……自分自身にだ。悪いか」

『い、いや、そーいうわけじゃないけど』

 苦笑を押し殺すような声が受話器から漏れてくる。不愉快きわまりないが、今はラグナに構っている場合ではなかった。

「おい、ラグナ。セフィロスの様子はどうなんだ?  なぜそんな場所に居るのかはともかく、具合が悪いようなことはないのだろうな?」

 俺は一番肝心なことを問いただした。真夏のコスタ・デル・ソルで別れ別れになってから、もっとも心配していたことだ。

『あ、そーそー、それがさァ。大怪我してんの、肩。ああ、もう治りかけだったけど、さすがに驚いちゃってさ〜』

「…………!!」

『元軍人の俺サマ的には、アレは銃弾の傷だと思うね〜。縫った痕があった。けっこう深手だったと思うよ〜 ほら、セフィって肌真っ白じゃん。治りかけとはいえ、どうしても目に付くんだよね〜。かわいそーになァ〜」

「……銃傷……」

『「痛い?」って聞いたら痛くないって〜。そんなはずないのにねェ、ハハハハハ』

 のんびりとした気楽な声音に、ブチッと頭の中で、何かが引きちぎれた。

「おいッ! 貴様、なにをほけほけと…… それで!? 彼は今どうしているんだ? そんなひどい怪我をして……まだ完治したふうでもなくて…… きちんと治療はされているんだろうな! アンタ、側に居るんだろうッ!」

『耳痛い〜。もうヤダ。電話切る』

 ガキのような物言いをするラグナ。

 こいつが大統領とは……エスタの民は冗談好きにもほどがあると思う。

「わ、わかった、わかったから……! ラグナ、それで? セフィロスは……」

『だーかーら。心配はないって。俺のとなりの部屋ってことは、大統領官邸で保護してるんだよ。どこで負った怪我なのかは知らないけど、少なくとも今はもう何の心配もいらないでしょ』

「……そうか」

『ただね、怪我のこともそうだけど、かなり疲れてるみたいでさ。今も倒れるみたいに眠り込んじゃって……』

「…………」

『口を開けば、ホロウバスティオンに帰るって、そればっかり』

「ホロウバスティオンに……」

『おまえに何か心当たりがないかと思って電話したんだけどさ。その分じゃ何も知らなかったようだな』

「……あ、ああ」

『ふんふん。ならいいや。そんじゃ、オヤスミ』

 などとあっさり言いやがるラグナ。

「あ、お、おい! それで? セフィロスはホロウバスティオンに戻ると言っているんだな!」

『うん、そうみたい』

「よし。俺が迎えに行くまでそこに止めていてくれ! それから彼には俺のことは告げるな」

『ハァ? 迎えに来るって、おまえにカンケーないじゃん』

 このクソ親父。へらへら笑いながら言いやがって!!

「関係なくはない!彼は大切な……その……友人だッ! すぐに迎えに行く! いいな、わかったな!?」

『あやすィ〜』

「怪しくなどないッ! 俺が行くまで、きちんと彼を保護してくれ。頼んだぞ!」

『へいへい。わかりましたっと。おまえねー、すぐガミガミ怒鳴るなよ。クラウドくんだって、あんまし口うるさく言われると可哀想だぞ』

「大きなお世話だ! とにかく彼の身柄は任せたぞ! いいな、目を離すなよッ!」

『んま〜、パパに向かって、エラソーに! ちょっと奥サマ、お聞きになりまして〜。最近の若い子ってコレだからねェ〜』

「いつまでもおちゃらけるな!! 俺からの要望は以上だ。切るぞ!」

 裏声で非難するラグナに、きっちりと言い返し、繰り返し自分の件は伝えてくれるなと念を押した。

 万一……俺が迎えに行くと話をした結果、ふたたびセフィロスが姿を消すようなことがあったら、目も当てられないではないか。彼がその気になれば、例え、大統領官邸からだろうが、国会議事堂の議長席からだろうが、行方をくらますのは容易だと考えられる。

 いや、別にセフィロスは、俺に対してなんら恥じるところも遠慮することもないのだが、どうも彼の感性というのは、無骨な俺には理解できない部分が多々あるようだ。

 俺はダメ押しとわかっていつつも、通話を終える最後に、もう一度だけ言葉を重ねた。

「よろしく頼むぞ。たまには親父らしく、こちらの希望を通してくれ」

『んもー、パパお願いって言ってくれりゃあ簡単なのによー。まぁ、おまえはクラウドくんと違って、ゴツゴツしてっから、そんなこと言われてもキショイだけかもしんねーけど……』

 ぶつぶつとくだらぬことをこぼすラグナを無視し、俺は受話器を置いた。

 風呂場に居るクラウドに聞かれる気遣いはなかったが、念のため浴室の様子を確認する。

 フンフンと機嫌良く鼻歌を口ずさんでいる彼は、まちがいなく風呂から一歩も出たはずはなかった。

 

 数分の後……

 

「あー、あったまったァ〜。レオン、ラグナさん、何だって?」

 冷蔵庫から愛飲しているイチゴ牛乳をひっぱり出すと、クラウドは大きなグラスになみなみと注ぎながら訊ねてきた。

「ああ。その……ラグナというよりキロスのほうからちょっとな。ホロウバスティオン再建委員会のことで」

「ふーん」

 ウソをつくのは苦手だから、俺は洗いものをしつつ、後ろを向いたままそう答えた。

 『悪気があってのことではない……』と自らに言い聞かせながら……