KHセフィロス様の憂鬱
〜おまけのうらしま外伝〜
<11>
 
 ラグナ・レウァール
 

 

 

 

 

 

 

「ラグナくん。いいところのようだが失敬するよ」

 と落ち着いたキロスの声。

「急ぎの来客ということで、こちらにお通しした」

 言葉を重ねると、キロスはセフィロスに向かって軽く礼を取った。

 その補佐官殿のとなりで、しかめつらしいツラをしているのは、最愛の我が息子である。

  キロスとスコール登場で、セフィロスとふたりきりでいる時とは、ガラッと空気が変わる。

「よぉ、スコール! 早かったな」

 ヤツは無言のまま、ずかずかとこちらに歩み寄ると、じろりと俺をにらみつけた。どうやら、俺が無理やりセフィロスの手を取ったように見えたらしい。

「馴れ馴れしいぞ、クソ親父」

「久しぶりに会ったのに、ごあいさつだねェ〜。クラウドくん、元気ィ?」

「……おまえは……ホロウバスティオンの英雄……? 何故、ここに……?」

 ひとりだけテンポがズレているのはセフィロス本人だ。

 一応驚いてはいるのだろうが、どうも彼のリアクションはつかみ所がないのだ。それをからかわれたと感じたのか、ますますスコールのアホ息子は眉間の立て皺を深くした。

「ああ……ラグナはおまえの父親であったな。遊びに来たとて不思議はない……」

「セフィロスッ! アンタなァッ!」

 堪忍袋の緒が切れたとでもいうべきか、レオンはカッとなると同時に叫んだ。

「俺がどれほど心配したと思っているんだ! コスタ・デル・ソルで別れてしまってから、今日まで…… アンタのことを思い出さない日はなかった!!」

「…………?」

「どけ、ラグナ!」

 無礼にもスコールは、俺を押しのけると、セフィロスの真ん前に立ちはだかり、なおも言葉を重ねた。

「ホロウバスティオンに辿り着いた俺は、間違いなくアンタも一緒に来ていると思って…… ずっと姿を捜していたのに……! いつまで経っても戻ってこないから……アンタの身に何か取り返しの付かないことが起こったのではないかと……!」

 一挙にそこまで言うと、激したおのれを顧みるように、ようやく声のトーンを落とした。

「いや……アンタのことだから……俺などがいちいち心配する必要などなかったのかもしれないが……だが、さすがにあの状況では心配するなというほうが無理だろうと思う」

「…………」

「あ、ああ、もちろん、ああいった事態に陥ったのは、俺のせいでもあるから……責任も感じていたし……」

「……おまえは……ここへ何をしに来たのだ……?」

 いつもの冷ややかな声音でセフィロスが問うた。クールな中にも、わずかに困惑の色が読みとれる。唐突にやってきたスコールに、頭から怒鳴られるのが納得いかないのだろう。もちろん、セフィロスが呼びつけたわけでもないのに。

 だがスコールのヤツは真剣そのものだ。ふたりの間に何があったかはしらないが、セフィロスの身を案じるほどの重大事件が起きたのは事実のようであった。もしかしたら、彼の肩の怪我にも関係しているのかも知れない。

「ホロウバスティオンとエスタは、飛空艇とやらを使わねば行き来できぬ距離であると聞く。……父親に会いに参ったのでなくば、わざわざ私を叱りつけにでも来たのか……?」

「ち、違う……! そ、そんなつもりじゃ……」

「アホか、スコール。おめーのその言い方じゃ、ただ単に怒っているだけにしか聞こえねーだろ」

 絶対にセフィロスに対しては使わぬような下品な口調で、俺は言い放った。

「あ、いや……俺はセフィロスにこの前の礼を言いたいのと…… 負傷したと聞いたから……気になってしまって……」

 辿々しい言い訳に、少し離れたところに経っていたキロスがプッと吹き出した。

 到底、ここに着いてからのスコールの態度は「礼を言いに」という態度からは、かけ離れていたものだったからだろう。

「まぁまぁ、ちょっと待って。ゴメンね、セフィロス、こいつのこと話しておかなくて。セフィロスがどうしてもホロウバスティオンに帰りたいみたいだったから、スコールに迎えを頼んだんだよ」

「……迎え……?」

 セフィロスがこちらを見る。

「うん。前も言ったように、ホロウバスティオンは政情が不安定だからね。民間機では行けそうにない。そうなると大統領専用機を出すのが一番手っ取り早いんだけど、俺が同乗しなきゃならないわけ」

「……ああ、そう言っていたな……」

「でも、今のところ、仕事がバタバタでさァ。もうどこぞの補佐官さんのせいでェ」

 じろりとキロスを睨み付けてやるが、どこ吹く風でにっこりと微笑んでいる。

「と、まぁ、そんなら信用できる人物に、許可証発行して同行してもらえれば、そいつが一番手っ取り早いんだよ」

「…………」

「でも、誰にでもってわけにはいかない。なんて言っても大統領専用機の搭乗許可証だからね」

「……なるほどレオンは見張りか……私は信用に足らぬと言うことだな」

 皮肉な微笑を口唇に浮かべ、セフィロスは抑揚のない声音でつぶやいた。まったくもう、どうしてこの人は勝手によくない方へ考えてしまうのだろう。

「ちょっ……ちょっと、ちょっとォ! 何言いだしてんの、セフィロス。そんなはずないでしょッ? 俺たち友だちじゃん。君のこと疑うわけないでしょ?」

「……どうだか」

「やましいことは何にもないから! ほら、セフィ、俺の目を見て……」

「気色の悪い真似をするな親父」

「気味が悪いよ、ラグナくん」

 ったくこいつらは、どこまでシツレーなんだろう!

「うっせーぞ、おまえらッ! いい、聞いてセフィ! 君は肩に大怪我してるでしょ!? ほとんど治ってるとは言っても、最初に会ったとき、傷が元で発熱してたじゃない。そんな人をひとりきりで搭乗させるわけにはいかないよ。万一のこと考えたら……」

「大丈夫だ」

 と、素っ気ないセリフはもちろんセフィロスだ。

「いくらそうは言ってもね。もし、乗ってる間に具合が悪くなったら……」

「おまえが困るわけではなかろう……」

「セフィ! セフィは俺の大事な友だちでしょ!? そんな言い方しないでよ」

「…………」

「まぁまぁ、ラグナくん。それからお二方も。一度、部屋の方へ引き上げよう。スコールくんは長旅で疲れているだろう。セフィロス殿もずいぶんと長く外に居たのだろうし」

 助け船を出したのはキロスであった。

 午後からはしっかりと仕事が入っているから、いつまでも中庭なんぞでうろうろされては困るというのだろう。

 つまりはさっさと俺を引っ張って行きたいのだろうが、彼の物言いはこの場の誰にとっても、有用であった。

「時刻もそろそろ昼時だ。温かな昼食を取って、一休みされてはどうだろうか」

 キロスに言葉を重ねられて、俺たちはゾロゾロと引き上げた。

 最上階のプライベートルームに到着するまで、セフィロスもスコールも一言も口を聞かない。

 気まずいことこの上ないのに、補佐官キロスは、ごく普通に仕事の話をしてくる。

 空気を読めェェェェ!!

 と、俺は心の中で叫んだのであった。