KHセフィロス様の憂鬱
〜おまけのうらしま外伝〜
<14>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 

 

 

 

「チュース! 遅くなりますた!」

「しっ! 騒々しいぞ、ラグナッ!」

 結局夕方……いや、もう夜にもなろうかという時刻に、ラグナはセフィロスの部屋に戻ってきた。

 セフィロスはずっと眠ったままだ。

「なんだよ、セフィ、寝てんの〜?」

 デーブルより奥に行かせまいと通路を塞ぐ、俺の肩口からにょこにょこと顔を出し、寝台を眺める。

「そうだ。よく眠っている」

「おいおい、スコール。いつから寝かせてるんだよ。昼寝が長すぎると夜眠らなくなっちゃうだろ」

 赤ん坊を扱うような物言いをするラグナ。

 確かに、長すぎる午睡は良くないのかも知れないが……

「いや……風呂に入って食事をしたら、そのまま……」

「え〜!? じゃ、もう何時間だよ! おいおい、おまえ、ホント、アレな。使えねーのな。父親にはなれんわ、そりゃ」

「何故そんな話になるんだ!  で、なんだ、どうすればいい」

「あー、もういいから、どいてろ」

 ヤツはネクタイを外し、ソファに放り投げると、あろうことか寝台のセフィロスの上ににじり登った。

 いや、本当に「にじり登った」のだ。

 当然、彼が眠っている場所は小山のように盛り上がっている。そこににじにじと登ると、ギューッとばかりに抱きつきやがった。

「お、おいッ ラグナ!」

「セフィ〜、もう夜でちゅー。夜ゴハンになっちゃいまちゅよー」

 なんというおぞましい男なのだ。幼児語が気色悪い!

 わざとらしくも甘えた声音で、横たわる長身を遠慮なく羽交い締めにしたのであった。

「……ん……む……」

 夢うつつで起こされたセフィロスが、動物のように低く唸る。

「セフィー、ただいま〜」

「う〜……」

 覆い被さってきた男から顔を背けるセフィロス。鬱陶しそうな声を聞きつけて俺はハッと正気に返った。

「よさんか、くそラグナッ! どきやがれッ!」

 言葉だけでなく脚も出た。

 ついつい怒りのあまり、勢いに乗って飛び膝蹴りを繰り出したのだ。

「ぬおッ! パパに蹴りを入れるか、スコール!」

 腐っても大統領というか、一応俺の親父というか。

 ヤツは寸でのところで、跳び蹴りをかわし、逆に俺の足を取った。そのまま勢い余ってベッドにから転がり落ちる。

 男ふたりの体重がモロにぶつけられたのだ。

 ドッシーンという騒音は、きっと地響きをすら伴っていたことだろう。

「くっそー! いってーなッ! スコール、ムカツク!」

 ガキのような文句を垂れるラグナ。

 俺は起き上がろうとしたが、思い通りにはならなかった。先ほどの弾みで、寝ていたセフィロスまで巻き込んでしまったらしい。

 長身の彼の身体は、ちょうど俺の身体に折り重なっていて、すぐに立ち上がれなかったのだ。

 いや、それよりなにより、ローブ一枚の肉体が密着していることに、俺はひどく困惑した……いや、興奮しかかってたというのが正直なところだと思う。

 だが何故だッ!?

 俺はどこかおかしいのだろうか?

 自分よりも長身の……それも最強の剣士といわれている男と肌が密着したところで、興奮するいわれはないだろう!?

 だが、心に反し、ドクドクと心臓は波打ち、背に震えが走る。そんなおのれを自覚してどん底まで落ち込んだ。

「なんだよ、スコール、うぜーヤツ。紅くなったり蒼くなったりよ〜」

「うるさい、なんでもない! おい、セフィロス、どいてく……」

「スー……スー……スー……」

 驚いたことに、セフィロスはくったりと脱力したまま、ふたたび眠り込んでしまったのだ。しかも俺の身体の上で。

「セフィロス……おい!」

「スー……スー……」

「あーあ、もう、セフィは赤ちゃんみたいで可愛いなぁ〜。クラウドくんとはまた別の愛らしさだよね〜」

 のんびりとつぶやくラグナ。彼の白い頬を、ちょんと指先でつついてみせる。

「おい、よせ、ラグナ! ばい菌がつく!」

「なにソレ! おまえ、ホント可愛くないねー。もう、俺、クラウドくんかセフィのパパになりたかったよ。そしたら、綺麗な服着せて美味しいもの食べさせて、一緒にお出かけしてさ〜。なんだったら、夜も同じベッドで……」

「妄想はいいかげんにしろ! とにかく彼をどけてくれ、ラグナ!」

「わかったよ。はい、よいしょっとォ」

 ラグナはグイとセフィロスの身体を抱きあげ、元のベッドに戻してやった。その様を見て、少しばかり驚いてしまう。

 ラグナも背は高いほうだが、セフィロスはさらに長身だろう。しかも剣士だ。

 その彼をあっさり抱き上げるとは、なかなかの腕力である。もちろん、俺だとて出来ないことではないが。

「スー……スー……」

「はは、あっきれたァ。まだ気持ちよさそうに眠ってるぜ、スコール」

「あ、ああ、そうみたいだな」

「どうしたんだろ。ここんところ睡眠は落ち着いてたんだがなァ」

 顎をつまんでラグナがつぶやいた。自分にも同じくクセがあることを思い出し、不快な気持ちになる。

「ここに来たときには、本当によく眠っててさァ。食事もまともに取らないで寝てばっかいたから心配したんだよねー」

 額にかかった銀の髪をそっと撫でつけ、ずり落ちた毛布を元のとおりかけ直す。ラグナもわざわざ彼を起こす必要はないと考えたようだ。自然に目覚めるまで待てばよいと。

 さすがに時間が経てば、腹も減るだろうし、勝手に目を覚ますだろう。

「しょーがねーな。どうすっかな。先にメシ食う? スコール」

「……別にどうでもいい」

 無愛想に俺は答えた。