〜Third conflict〜
 
<4>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

「くぉ〜、やめやめやめ〜。今日はもう終わりだぜ〜」

 最初に音を上げたのはシドだった。

 

「う〜、目がしぱしぱする……」

 そういいながら、ずりずりと席を離れる。

「もぉ、シド、若い子と張り合うからだよ」

 と笑いながら、目薬を差してやるティファ。

「ちっげーよ、いててて……」

「そぉそぉ。あとは若いお二人に任せて」

「ちょっと、ユフィ、それ何のセリフよ〜」

「あははは!」

 などという和気藹々としたやり取りに、フッと笑みをこぼすリクであったが、すぐに視線を画面に戻す。

 

 昼にここに来てから6時間以上経つ。その間、ここに座りっぱなしの俺たちだ。

 クラウドは、押しつけられた資料の解析を嫌々やっていたようだったが、すぐに飽きてソファで居眠りしている。なぜかそのとなりにくっついてソラまで寝入っているのが、まるで兄弟のように見えるのだった。なんとなく髪型も似ているせいかもしれない。 

 

「……リク、疲れないか?」

「いや、大丈夫だ。レオンこそ……」

「ああ、俺も割と平気な方だが……」

「……ここにはアンセムの資料が安置されているだが……研究室は城の中だったと思うが……無事なんだろうか?」

 ようやく画面から目を離して、リクが訊ねてきた。

「ああ、発見した当初のままで保存してある。もっとも資料はこうして分析に回しているが」

「……そうか。そうだな……こちらからも、いろいろ話をしなければならないことがありそうだ、レオン」

 真剣な眼差しに、彼がより多くのことを知っているのだと俺は確信した。

 

「ふぁ〜〜〜、あー、おれ、寝ちゃってたのか……あれ? リク? リクは?」

 ぴょこんと頭をもたげて、ソラが彼を呼んだ。

「ああ、ここだ。もうちょっとかかりそうだ」

「ちぇ〜〜ッ」

 口をとがらせるソラ。

 一年経って背は伸びたといっても、まだまだ子どもだ。しかし、この状況で平気で眠っているクラウドも、クラウドだ。

「……いや、今日はこのあたりまでにしておこう。もう外も暗い」

「……何時?」

「……19時を回るな」

「……そんな時間か」

 ふぅと彼はため息をついた。

「レオン、このデータって、ネットアクセス可能なのか? それともシークレット?」

「問題のなさそうな資料はオープンだ。だがアンセムの私室のほうに収められていたものはセキュリティを掛けている。……こっちのファイルだ」

「……そうか。ちょっと……ゆっくり読みたいな」

 形の良い指を口元に宛い、思慮深く彼はつぶやいた。

「そうしてもらえると有り難い。むしろ君にはこっちのシークレットを読んでもらった上で話を聞きたいんだ」

「アウトプットは?」

 とリク。

「すぐにできる……そうだ、ふたりはどこに滞在しているんだ?」

「え……? あ、ああ……ソラ?」

「あ、ゴメン。泊まるトコ、考えてなかった。まぁいいじゃん。グミシップの中でも寝られるし、どうせそんなに長く居られるわけじゃないんだし」

 ぼりぼりと頭を掻いてソラが言う。

 ヤレヤレという様子で、リクはひょいと両手を広げた。

 

「だったら、うちに来ないか? クラウドも居るし、狭いところだが、おまえたちの寝る場所くらいなら用意できる」

「へぇ、クラウドも一緒かぁ! 楽しそうだなッ!」

 ぴょんと跳ねるようにして、こっちに飛びついてくるソラ。子犬のようなヤツだ。

「でも……迷惑じゃないのか?」

 思慮深い発言はリクのほうだ。

「いや、そんなことはない。ただでさえ、ここに居られる期間が少ないのなら、時間は有効に使いたい」

「……ああ、そういうことなら……俺たちにとってはありがたいが……」

「いいじゃん、行こうぜ、リク! クラウドも一緒だってさッ! 楽しそうっ!」

 

 その後、ようやく目覚めたクラウドに事情を話し、俺たちは帰途についた。

 

 

 

 

 家に着くまでの間、正直、気が気ではなかった。

 クラウドが眠っている間に、勝手に彼らの滞在を決めてしまったのだ。

 もちろん、限られた時間の中で、協力を得るという大義名分はあるものの、あの人見知りの激しいクラウドが、素直に了承してくれるとは到底思えなかったからだ。

 

「あ、そ。別にいいんじゃない。ソラたちなら、オレ、全然かまわないよ」

 とあっさり頷いたクラウドに、俺は自分の目と耳を疑った。

「いいのか、クラウド?」

 と小声で確認する。

「だって、もともとアンタの家なんだし。ソラとは久しぶりに逢えたんだし、あの親友っていうのも、いいヤツそうじゃん」

「あ、ああ……おまえがそう言ってくれるとありがたい」

「ふぁ〜あ……寝たら腹減った……なんか食ってこーぜ」

 そんなこんなで外で食事を済ませ、俺たちは帰宅したのだ。 

 

「悪いな、レオン、クラウド、迷惑をかけて」

 簡単な着替えを詰めたバックを置くと、リクがそう言った。

「あー、いーのいーの。子どもはそんなこと心配しなくて。お兄さんたちに任せなさい! な、レオン?」

 と、この上なく、子どもっぽく言うクラウド。

「なんだと、クラウドより、おれのほうが背ェ伸びたんだぞ!」

 つま先立ちでソラが言う。リクのほうは笑っているだけだ。

「バーカ。それはまだおまえがガキだからだよ。オレはもう大人のオトコなのッ!」

 ……『大人のオトコ』が聞いて呆れる。

 

「……クラウドって、何かソラと気が合いそうだな」

 リクがこっそりと、俺にそう耳打ちした。

「ああ、まったくだ」

 オレは深く深く頷いた。