〜Third conflict〜
 
<12>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 商店街のみやげ物屋で、クラウドの好物を購入し、もちろん子どもふたりの分も買ってゆく。

 この程度のことでごまかされてはくれないだろうが、きっと彼はひどくふて腐れているに違いない。

 以前、やはりクラウドが目覚める前に外出してしまった俺に、帰って来るなりクッションを投げつけてきた記憶がある。ちゃんと彼の分の食事を用意し、メモを置いておいたにも関わらず、だ。 

 

『どうして、オレのこと置いて行っちゃうのッ!? なんで起こしてくんないんだよッ!』

『レオンのバカッ! いっつもいっつも、ひとりで何でも決めちゃって……! オレのこと独りぼっちにして……!』

『……オレ、自信無くなっちゃうよ……レオン、オレのこと何とも思ってないんじゃないの? オレなんて居ない方が……いんじゃないの……?』

 クラウドはまだまだ不安定なのだ。

 ……うっかりしていた。

 

『オレ……レオンのこと好きなんだよ? レオンもそうなら……もっとオレのこと欲しがってよ……オレばっかだと……切なくなるよ……』

 昨夜の言葉が思い出される。

 

「まだ……眠っていてくれると助かるのだが……」

 時計は既に昼過ぎ……さすがにそれは無理な願いだろう。

 俺は大きくため息をつくと、意を決してバイクを飛ばした。

 もちろん、頭の中でありとあらゆる言い訳を考えて。

 

 

 

 

 バイクを止め、大急ぎで家に飛び込む。

 ……こういうふうに表現すると、さぞかしこの俺が、あわてふためいて行動しているように伝わってくれていると思われる。だが、クラウドがいうには、いくら急いでいるつもりでも、まったく表情に現れないし、困惑していても、全然困っているように見えないというのだ。

 これはもうキャラクター的なものであって、致し方ないと思うのだが、彼にとってはひどく不満らしい。

 俺とは正反対に、クラウドは思っていることがすぐに顔に出る。言葉を交わさなくても、比較的望んでいることがわかってしまうのだ。

 もっとも俺は、クラウドに『無神経ヤロウ』と命名されたように、普通の人々よりも気が利かない人間なので、正確に理解できているかと言われれば自信はないのだが。

 

「すまない、遅くなった……!」

 そう言いつつ、部屋に飛び込む。

「おかえり、レオン。お疲れ様」

 とリクが応じてくれた。

「おっかえり〜」

 と、TVの前のソラ。テレビゲームがお気に入りらしい。

 クラウドは朝食……というか、朝食兼昼食を食べているところだった。見ればまだパジャマのままだ。もう少し早く帰ってこられればよかったのだが……

 

 案の定、クラウドは機嫌を損ねているらしく、俺の姿を見るなり、プイと顔を背けた。

 

「わざわざ申し訳ない、レオン。時間がかかったようだが……」 

 そう言いながら、クラウドと俺の分のお茶を淹れてくれる。

「あ、オレ、ミルクもね。サンキュ」

 リクには愛想のいいクラウド。紅茶にドバドバとミルクを投入し、砂糖もたっぷり入れる。

「レオンは?」

「あ、ああ、俺はストレートで」

「どうぞ」

「すまん、ちょっと……な。急いだつもりだったのだが、いささか手間取ってしまった」

 クラウドに聞かせるように、そう答えた。もちろん、そんな言葉で納得してくれる彼ではない。

「データは?」

「ああ、アウトプットしてある。……ほら、これだ」

「助かる。先を読んでいたのだが、やはり抜けの部分が気になってしまって」

「かなり量があるのだが……」

「うん。じゃあ、これ、借りておく」

 リクに、ダウンロードCDとクリップで留めた印刷物の束を渡す。

 

「さーて、ごちそうさま! 悪いけど、オレ、もうちょっと休んでる。なんか具合悪くて」

 当てつけがましく言い放つクラウド。

「クラウド、風邪じゃないのか? 薬飲んだ方がいいんじゃ……」

 リクがわざわざ資料から目を離してそう言った。

「平気だよ。シャワーも浴びたし、メシも食ったし。ちょっとダルいだけ」

「怠け病だ〜、クラウド!」

「なんだと、コノヤロ!」

 ソラとじゃれあうクラウド。それを横目に見ながら、リクがソファの定位置に戻る。

 

「じゃーね!」

 そういうと、クラウドはバタン!と扉の音もにぎやかに部屋から出て行ってしまった。

 ……やれやれだ。

 

「……朝、レオンがいなかったから。クラウド、すごくつまらなさそうだったよ。ふて腐れててさ」

 クスッと吹き出し、リクがささやいた。

 ソラは相変わらずゲームに熱中している。

「ああ、すまん、面倒掛けた。クラウドは少しばかり難しいところがあってな……」

「ははは、そうみたいだね。なんていうか、可愛らしい人だよね。俺より年上の人に失礼だけどさ」

「……ああ、まったくだ。おまえと話しているのが一番楽だ」

 ため息混じりに頷いた。

「あーあ、そんなこと言っちゃって。耳に入ったら大変なことになるぞ」

「……告げ口するなよ」

「ははは、しないしない。それより早く行ってあげたほうがいいんじゃないのか? 部屋」

「……ああ、そうだな。やれやれ」

 重い腰を上げ、俺はクラウドの部屋に向かった。