〜Third conflict〜
 
<16>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

 

「……ホントだよ、名前聞いてさ。万一人違いだったらヤバイだろ」

 口を尖らせて、不平そうにつぶやくソラ。

「……そうなのか?」

「セフィロスか?って聞いたんだよ。そしたらいきなり斬りかかって」

 ……いくらキーブレード使いとはいっても、子どもにすることじゃないだろう……セフィロス。本当にあまりにも唐突なヤツだ。

 

「……そうだったのか」

「『キーブレードの勇者か』って言って笑ってさ。あの人、人の話聞かないね」

 やや辟易した口調でソラが言った。

 こんな場合でありながらも、俺はつい吹き出しそうになってしまった。

  

 どこか夢見るようにうつらうつらとたゆたうセフィロス。まるで夢の世界と現実世界を、勝手気ままに行き来しているようだ。もっとも、それで斬りかかられた者どもにとっては冗談事ではなかろうが。

 

「勝ったのか?」

 すでに知っていることを、俺は訊ねた。

「うん。……っていうか、あの人、本気だったのかなァ。まぁ、こっちは三人居たし……どっちかというとおれの力を試してみたかったみたい。『油断した』って嗤ってたよ。……負けたくせにムカツク!」

「そ、そうか……おまえは強くなったからな」

「えっへへへ〜、それほどでも。でも致命傷じゃなかったと思うよ。フツーに姿消したし。それにクラウドだって納得しないだろうしね」

「それはそうだな。やはりクラウドは自分の手で決着をつけたいだろうから」

「だろ。まぁ、前哨戦ってヤツかな!」

 そういうと、フフンと鼻を鳴らせて得意げにソラは笑った。

 

 ……『致命傷じゃなかった』『フツーに姿を消した』か。

 バカな……とんでもない深手じゃないか。冗談抜きで、あのとき、おれが偶然彼を見つけ、止血していなかったら、どうなっていたかわからないような傷口だった。正直、縫合の必要性があったのではないかと、今でも気になっている。

 プライドの高いヤツだとは思うが、それで命を落とすようなハメに陥っては元も子もない。そんなことも考えない人間なのか? あまりにも刹那的というか……つかめない男だ。

 

 ……ああ、いや……これではまるで、セフィロスを心配しているような発言になってしまう。

 そうではない……そうではなくて……敵であると認識は変わらないのだが……なんと言えばよいのだろうか……

 

 ……『そうじゃないだろう? そうして欲しいわけではないんだろう?』……『アンタはいったい何をどうして欲しいんだ?』……到底本人に問いかけられるはずのない文言が、喉元までせり上がってくる。

 

 セフィロスと接触した回数は少ない。クラウドに比べれば、ほとんど彼のことなど知らないとさえ言える。

 だが、彼のことを思うと、常に感じる違和感がある。

 それは……異常なまでの不調和……ピアノ線一本がちぎれてしまったら、そのまますべてが崩落してしまうような切羽詰まった緊張感……あれほどまでに強い男だとしっていながらも……だ。

 

「……レオン?」

「…………」

「レオンってば!」

「え、あ、ああ……スマン」

 ああ、いかん。彼のことを考え出すと、思考が止まらなくなる。次から次へと疑問符が浮かび上がり、止めどなく溢れてくるのだ。

「どうしたの? セフィロスとなにかあったのか?」

「まさか。……俺はあの男とは無関係だ」

 自分でも滑稽なほど、早口でそう応じていた。

 

 結局この日は、終始、リクは資料との格闘、クラウドは横になりっぱなし、そして、残された俺がソラの相手をするような形になった。

 なんだか大人びた弟と、本当に子どものような弟、ふたりの兄弟が居るような気分だ。クラウドにこういう言い方をすると怒るので、彼を「兄弟」の列に入れるわけにはいかない。

 驚くべき事に、今日一日であらかたの資料を読み終えたリク。明日にでも城を案内するという約束をし、今日はもう休むことにする。

 昨夜と同じように、俺の部屋をソラとリクに提供し、クラウドの部屋へ足を運んだ。もちろん、彼は先に休んでいる。

 クラウドは、夕食を一緒に取っただけで、その後、すぐに風呂を済ませ、早々に眠りに着いたのだ。昨夜の一件が理由でないとなると、他に心当たりはないのだが、ごくまれにこういうことがある。普段は元気すぎるほどに元気なのだが。

 もし、それが本当に肉体の交わりだけが理由なのならば、いささか考えを改めなければなるまい。やはり一方の身体にそれほど負担になるような関係のあり方は好ましくない。

 

 いやいや、さすがに俺も、体調のよくないクラウド相手に、こんな話をするつもりはない。今日はゆっくり休んでもらって、できることなら、明日も一日、ここで大人しくしていてもらいたい。明日はなんとしてでもリクを城に連れて行きたいところなのだ。

 ……大丈夫。アンセムの寝室の存在は口にしなければわからないはずだ。必要な資料はすべて書斎に揃っているのだから。

 ……そして……そして、もし可能ならば、少しでもセフィロスの様子を見ておきたい。昼はリクやソラと一緒であることを考えれば、ゆっくり会話する余裕はなかろうが、一言、夜にまた来ると告げられれば、今度は傷の予後の確認、そしてもう少しマシな手当ができるのではないかと期待しているのだ。