〜Third conflict〜
 
<17>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで綿密な計画を頭の中だけで組み立てる。

 気がつけば、時刻はすでに午前1時に近い。子ども達はとっくに眠ってしまっている。どうも、自己の考えに没頭すると、時間の感覚が無くなってしまうのだ。」

 足音に気をつけつつ、クラウドの部屋へ向かう。もちろんソファベッドを借りるためにだ。

 

 極力廊下の灯りも入らぬよう、細く扉を開き、そっと身を忍ばせる。

 だが、うかつにも俺は、ソファベッドに潜り込もうとしたときに、テーブルのグラスを倒してしまったのだ。中身はカラだったが、カタン!と硬質な音が響いた。

 

「……ん? レオ……ン?」

 それほど大きな音ではなかったが、敏感なクラウドはすぐに目を覚ましてしまうのだった。

「あ、ああ……すまない。気をつけたつもりだったのだが……起こしてしまったな、悪かった」

「ん……ううん……平気」

 未だに夢見現なのだろう。ぼんやりとした声音でそう応える。

「レオン……まだ寝ないの?」

 少し高めの甘えたような声は、クラウドの容姿によく似合っていて、彼の魅力の一つだと感じた。

「いや、休みに来たんだ。おまえを起こさないように気をつけていたんだがな」

「ん……平気」

「クラウド、体調はどうだ?」

「うん……なんともないよ」

「ならいいんだ。さ、眠ってくれ」

 出来る限り優しい声でそう言ってやる。

 

 すると、

「ごめん……今日、オレ……役立たずだ」

 ボソリとクラウドは独り言のようにそうつぶやいた。

 

 ……いや、いつもと変わらないと思うのだが。

 具体的に言わせてもらえば、クラウドは資料読解も投げ出すし、家事もできないし、こうして大人しくしていてくれるほうが、俺としてはありがたいわけだが。もちろん、そんなことなど到底口にはできない。

 

「ゴメンね……レオン」

 ごろりと寝返りを打って、俺の方へ顔を向け、小さな声でそう言った。

「気にするな」

「うん……みんなは?」

「もう寝ただろう。おまえも眠れ……何の心配もいらないから」

「……うん」

 コクリと頷くクラウド。ランプの幻想的な輝きの中、白くて細い、彼のおもてがぼんやりと浮かび上がる。

 その様子がたいそう頼りなげで、寂しそうに、俺の目に映った。

 

「クラウド……どうした? なにか嫌な夢でも見たのか?」

「ううん……どうして?」

「いや……ただ何となくそう思っただけだ。……すまない」

「なに謝ってんの? ヘンなレオン……」

 そういうと、彼はクスリと笑った。

 

「……クラウド、そっち行っていいか?」

 僅かな間隙の後、俺は小さな声でそうささやきかけた。

 

「え……?」

 案の定、戸惑うクラウド。

「……え……なに、レオン?」

「だから、そっちのベッドで一緒に寝てもいいか?」

「……え……あ……う、うん……」

 消え入りそうな声で、彼はそう応じた。かなり驚いているのだろう。彼のマリンブルーの瞳に疑問符が浮かんでいる。

 ……確かに、俺の方からクラウドに、積極的なボディコミュニケーションを求めることはほとんどない。だが、こうして不安そうにしているときに、抱きしめてやるくらいのことならばしてやれる。

 

 俺はソファから身を起こすと、クラウドが壁際へ寄ってくれた、そのとなりに潜り込んだ。さっきまで彼が横になっていたせいかほんのりと暖かい。

 

「レオン……どうしたの?」

 不思議そうにそんなことを聞いてくるクラウド。

 『自分ばかり求めているのは切ない』と言ってくれたばかりなのに、実際に、こちらの方から側に寄ってみると不審者扱いだ。

「別にどうもしていない……いつもと同じだ」

「ウソ……」

「なんだそれは?」

 あまりに彼のつぶやきが可笑しくて、言葉を紡ぎつつもついつい吹き出してしまう。

「だって……いつも……オレのこと……放っておくくせに……」

「そういうつもりはないんだがな」

「あ、ご、ごめん。でも、なんか側に居てくれると……ホッとする」

 掠れた声で彼はつぶやいた。

 

 気が強くて我が儘で、凄腕の剣士でもあるクラウド。だが、生身の彼は本当に脆い。側にいる俺の方が不安になってしまうほど、幼くて繊細で脆いのだ。

 俺の腕は、彼を守る分だけの長さはある。

 クラウドが俺を必要としなくなるまで、側に居て支えになってやりたいと思う。それは義務感などではない。クラウドという人間に対して、俺自身がそうしてやりたいと願っているのだ。

 

 俺は腕をのばし、何となく落ち着かない素振りを見せていたクラウドを抱き寄せた。もちろん性的なニュアンスを含まずにだ。

 背を抱き、一方の手で腕枕をしてやり、金の髪をそっと撫でる。彼が安心するまで、何度でも、やさしく静かに撫でてやる。

「レオン……?」

「おやすみ、クラウド」

 そう告げると、ようやく安心したように双眸を綴じ合わせ、腕の中で規則的な呼吸をし始めた……