うらしまクラウド
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<3>
 
 クラウド・ストライフ?
 

 

 

 

 

 

 

 

 レオンの家は、街の郊外にあった。

 ここに到着するまでに、嫌というほど、この場所が俺の知っている世界とは異なるのだと認識させられた。

  

 街のあらゆる場所……特に住宅地や城門付近に、異形の化け物が徘徊し、人を襲うのだ。そいつらを撃退する街の有志グループ……そして特殊な警護システム……

 なんて……なんておかしな世界なのだろう。

 それこそ、本当に物語りめいた……童話の中での出来事のようだ。

 

 レオンは感嘆の言葉も見つからないほど鮮やかな剣技で、そいつらを斬り払い、薙ぎ倒し、先に歩いていく。

 彼はそいつらのことを「ハートレス」だの「ノーバディ」だのと呼んでいた。

 よくよく観察すれば、一体一体の戦闘力はたいしたことはないとすぐにわかるのだが、こうも数が多いと鬱陶しい。俺も背にした剣で、数体を追い払ったが、彼の家に到着するとこれまでの疲れがドッと出るような心持ちになった。

 

「……あ〜、疲れた……到着?」

「ああ、ここだ。遠慮せず入ってくれ」

 レオンが先に立って、扉を開けてくれた。 

「へぇ〜……なんか可愛い家。あ、いい意味でだよ? 静かで落ち着いた場所だしな」

「……はは、そうか? 俺の知っているクラウドも似たようなことを言っていたな」

 レオンが応えた。

 心なしか、彼が『クラウド』という名を口にするとき、なんとなくやわらかな面差しになるのが印象的であった。

 

 促されるままに中に入る。

 簡素な作りの家は、飾り気のない彼によく似合っているような気がした。

 

 それでも、居間はなかなか広く、日当たりのよい庭がのぞける。俺は窓際まで歩いていくと、正直、それほど手入れがされているとは言い難い、庭を眺めた。

「ふぅん、なんか、いいな。ここ。庭も自然がいっぱいって感じで」

「はは。ほとんど構っていないからな。草花が好き勝手に群生しているだけだ」

「雰囲気あっていいんじゃない? あ、あの花、カワイイ。なつかしいなぁ、シロツメクサだよね、あれ」

「……クラウドもそう言っていたな……」

 わずかに口元を緩め、彼はそうつぶやいた。

 

「ソファにでも座っててくれ。腹、減ってるだろう」

「うん。……ってゆーか、アンタが作るの?」

「そうだが?」

 ごく当然のように、レオンは応えた。ヴィンセントと違って、台所など似合うようなタイプには見えないのだが。

「へぇ……意外」

「なにがだ?」

「なんでもないよ。あ、俺、生野菜の苦いのダメだから」

「……やれやれ」

 苦笑しつつ、手を動かす彼。                               

 ものの20分後には、遅めの昼飯には十分なメニューが、テーブルに並んだ。

 

「へぇ、すごいじゃん」

「……味の保証はないが」

「いただきます!」

 人間、腹が空いている時は、よくないことばかり考えてしまうものだ。まずは腹ごしらえをして休息をとり、帰るための方法を探し出さなければならない。

 

「おいしい。うーん、なんかこういう料理っていいよね。男の食彩ってカンジ?」

 俺は遠慮なく、出された料理を頬張った。

 

 トマトと茄子のパスタ、ビーフピラフ、カニのサラダ、ジャガイモのスープ。

 どれもこれも、平均以上に十分美味い。また量沢山で、腹を減らした男にとっちゃ、ありがたいことこの上なかった。

 

 ……もっとも、ヴィンセントにはかなわないが。ふふふ。

 ヴィンセントの料理は、本当に手が込んでいるのだ。もちろん愛情も籠もっている。

 

 ちなみに昨日の夕食を思い浮かべてみようか。

 チキンの香草焼き、白身魚のムニエル欧州風、プレーンオムレツ(俺はオムライスにしてもらった!)、アボガドとエビのサラダ、スープは顔が映りそうなほどに澄んだコンソメスープ、そして焼きたてのカンパーニュだ。

 どーだ! すごいだろう!

 

「レオン、お代わり、ある?」

「ああ……おまえは食うのが早いな」

「いや、もう兄弟多いもんで。食卓は戦場だから」

 冗談でもなく俺はそう応えた。

「そうか……同じクラウドでも、おまえは周りに恵まれているのだな」

 空の皿に、パスタとピラフをよそってくれると、彼は小声でつぶやいた。もっとも、レオンの声は、いつでも低くて小さいので特別なことではなかったが。

 

「いや、まぁ、恵まれてるっつーか……好きな人とは一緒にいるけどね。他はもう、なんつーか、迷惑っつーか。出ていって欲しいっつーか。……特にセフィとかね」

 フォークを口に突っ込んだまま、片手をふって、うんざりという表現をしてみせた。レオンがいぶかしげな表情をする。

「……セ、セフィ? セフィロスのことか……?」

「そうそう。もう、なんつーか、超迷惑なんだよね、アイツ。すっごいワガママでさ。乱暴だしな! エロイし。居候のくせにさ!」

「……い、居候……? 一緒に住んでいるということか?」

 めずらしくも、どもったように、レオンが聞き返してきた。

 俺はたまりに溜まった鬱憤をはらすがごときに、セフィロスの悪口を縦並べたわけだが、レオンは終始無言のまま、珍妙な面もちで耳を傾けていたのであった……