うらしまクラウド
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<4>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 

 

 金に輝くチョコボ髪……そして深い海を思わせるマリンブルーの瞳をもつ彼は、まぎれもなくクラウドである。

 だが、俺の知っているクラウドではないらしい。

 

 しかし……どこからどこまでも似通っていて、別人と言われる方が無理があるくらいなのだ。

 それでは……目の前の人物があの『クラウド』でないのだとしたら、俺の知っている、今朝まで側近くにいた彼は、いったいどこへ行ってしまったというのであろうか。

 

 ……いや、逡巡していても仕方がなかった。

 何が何でも、もとの『クラウド』をここに連れ戻さなければ。ようやく落ち着いてきつつはあったが、未だに彼の精神状態は不安定だ。天候や体調などに左右されやすく、心許ないことこの上ない。

 

 そんなわけで、唯一の手がかりとも言える、行くあてのない彼を自宅に招き、顔つき合わせてメシを食っている最中なのだが……

 

「そうだよ! ホント、セフィロスにはめちゃくちゃムカついてるんだよね。勝手に居候決め込んだあげく、家ン中じゃ殿様気取りだよ。ホント迷惑な話だっつーの」

 彼は一挙にそう捲し立てた。

「……あ、ああ」

 気に障らないように相づちを打つ。

 

「あ、そうそう。ね、聞いてよ! レオンってば、いい人っぽいから教えちゃうけどさ、俺の好きな人っていうか、もう両想い?みたいなカンジの人、ヴィンセントっていうのね」

「……ああ」

「もう、ホント、『え、マジ?』ってほど、やさしくて、綺麗でさ〜。思いやりがあって、そんで綺麗でさ〜、あ、コレ、さっき言ったっけ。儚げなカンジで……とっても細身なんだよね。口数も少なくて、物静かな人で……」

「…………」

「こう……意地悪されてもやり返せないような大人しい人でね。だからかもしんないけど、セフィロスがすっごいちょっかい出してくんの。信じられる? 人のモノなのにだよ? あ、いや、『モノ』ってそーいう「物」みたいな意味合いじゃないから。ね、わかってる?」

「……ああ」

「レオンのメシも美味かったけど、ヴィンセントのもすごいよ〜。もうホント、あれは芸術の領域だね。そんなのに自分はあんまし食わないんだよね。セフィロスなんか、絶対お代わりするもん。もちろん俺もするけど。ちょっとばっか背が高いからってイバるなっつーんだよ、アノヤロー。なぁ、レオン? 男は身長じゃないよな?」

「え……あ、ああ、そうだな」

「あ〜あ……俺、いつになったら、家帰れるんだろう……ヴィンセントの顔見たいのに……キスして髪撫でて欲しいのに……」

 機関銃のように語り続けるクラウド。頷くのが精一杯だ。

 それでも、繰り返し口にする『ヴィンセント』という人物を、彼がどれほど大切に思っているのかは、とても強く伝わってきた。

 

「……おまえは、そのヴィンセントという人のことが本当に好きなんだな」

 黙って頷いてばかりいるのも何なので、わかりきったことだが、俺はそう聞き返してみた。

「もちろん。ヴィンセントは長い黒髪でさ、目が兎みたいに紅いの。肌が白いせいか、強い色合いの黒髪やルビーみたいな瞳がものすごく引き立つんだよね。あ、もちろん、容姿だけに惹かれたわけじゃないからね」

「……そうか」

「うん、さっきも言ったけど、とても気持ちのきれいな人なんだよ……俺、すっごく自慢なんだ、ヴィンセントのこと。素敵な人、好きになったな〜、見る目あるじゃん、自分ってカンジで!」

 そういうと、テヘ〜とばかりににやけるクラウドであった。

 

 

 

 

 

「……ところで、先ほどから気になっていることがひとつある」

 俺は声を改めて話題を切り替えた。

「なに?」

 と、クラウド。

「……セフィロスのことだ。なんだか今のおまえの話を聞いていると、不仲なようではあるが、それほど実害がある人物には思えないが……」

「ハァァッ!? ちょっ……なに言ってくれてんの? 実害ありまくりじゃん! 俺のヴィンセントに手ェ出そうとすんだよ? ふざけんなってカンジなんだけど!」

 ひどく不満そうに宣う。

 どうにもこうにも、彼の思考は想い人を中心にしか展開できないようだ。

  

「……いや、少し、ヴィンセントさんから思考を離せ。……そうではなくて、もっと深刻な……おまえ自身に何かトラウマを与えるようなことは……」

「……まぁね。昔は、その……イロイロあったけど、別に今は好きにしろってカンジ。ま、あいつが俺の家にいるのも、それなりの事情があってさ。話すと長くなるから省くけど」

「そうか……」

 どうやら、同じクラウドであり、双方の世界に『セフィロス』という人物がいるにも関わらず、互いの在りようはずいぶんと異なるらしい。

 

「どうしたの、レオン。深刻な顔して」

「ああ……いや……」

 ……なんと説明すればよいのだろう。

 だが、注意しないわけにはいかない。こちらの世界のセフィロス相手に、さきほどのような態度をとるのは危険きわまりないのだ。

 この場所を別天地と認識していなかったとはいえ、あの時のクラウドの態度は冷や汗ものだった。このクラウドはセフィロスを恐れてはいないのだ。

 なんらかのきっかけで、ふたたび対峙するようなことがあったとしたら、俺にはフォローする自信がない。

 いや、必ずしも、俺がその場に居合わせられるとは限らない。むしろ今日、こういった形の三竦みになったのは、彼にとって幸運とさえ言えるのではなかろうか。

 

「……話の途中だが、クラウド……」

 俺は居ずまいをただして、彼に話しかけたのであった……