うらしまクラウド
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<6>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 

 

 

 

 ……翌朝……

 

 昨夜はお互い疲労していたせいか、食事をすませ、簡単な情報交換をしてから、すぐに休んでしまった。

 ……というか、俺よりもクラウドのほうが疲れていたようだ。

 

 無理もない。

 なんの変化もない日常を過ごしていたところ、あまりに唐突にこんなところに飛ばされてしまったのだから。

 しかも、いきなり遭遇したのが、セフィロスだ。

 

 ……もっとも、昨日の一件は、クラウドよりもセフィロスのほうが押され気味であったが。

 

 シャワーを済ませ、朝食を作っているとき、クラウドが大あくびをしながら起きだしてきた。

 

「ふわぁぁ〜……おはよ、レオン」

「ああ、おはよう。……きちんと休めたか?」

「うん、爆睡した。……あー、いいにおい……」

 キッチンに立つ、俺のとなりまで、フラフラ歩いてくる。まだ眠いのだろう、目を片手で擦りながらだ。

 ……こんな仕草まで似ているのが、なんだか可笑しいような……可愛らしいような、不思議な気持ちになった。

  

 ……俺の知っているクラウドはどうしているのだろう……きちんと食事はしているのだろうか……昨夜はひとりで眠れたのだろうか……

 もともとマイナス思考型である俺は、ついつい悪い方にばかり物事を考えてしまう。

 彼が独りぼっちで泣いている姿や、居るはずのない敵に怯えて姿を隠している様子や……食事もできないほど疲弊しているところなど……考え出せばきりがない。

 

「レオン」

「…………」

「レ〜オン!」

 耳元で名を呼ばれて、ハッと顔をあげる。

「……あ、ああ、な、なんだ」

「……今、ウツになってただろ」

「……え?」

「……『クラウド』のこと考えて落ち込んでた。……違う?」

「……あ、いや……」

「ダメダメ、レオンは普段無表情だから、ちょっとでも顔つき変わると、すぐバレるよ」

 ひょいと両の手を持ち上げて、やれやれといったふうに頭を振るクラウド。

 ツンと立った、ツノがいっしょに揺れるのがご愛敬だ。

 

「……ああ、まぁな」

「ま、俺がこっち来ちゃってんだから、アンタの『クラウド』は、俺の生きてた世界にいるんじゃないの? アンタも昨日そんなこと考えてるって言ってたじゃん」

「…………」

 つい、マジマジと彼の整った童顔を見つめてしまう。

 ひたすら食べて、ノロケていただけに見えたのに……案外きちんと人の話を聞いているらしい。

「……大丈夫だよ、レオン。俺のまわりの連中、クセはあるけど、いいヤツばっかだし。きっと『クラウド』が帰れるように協力していると思うよ」

「……そうか」

「うん。俺も頑張るしね」

 にっこりと微笑んでクラウドが言った。そんな顔をすると、本当によく似ている……いや、同じ『クラウド』なのだから、『似ている』という表現はおかしいのかもしれないが。

 

「……じき朝食になる。シャワーを浴びてこい」

 そう促すと、彼は素直に「うん」と応えた。

 

 

 

 

 ふたりで簡単な朝食を済ませ、すぐに出掛けることにする。

 家にいても、手がかりは掴めないし、心当たりのある場所を手あたり次第に探ってみようということになった。

 とはいうものの、あやしい場所を見つけたとしても、何をすればいいのかがお互いにわかっていないのだ。

 

「ま、悩んでても仕方ないしね。とりあえず、色々案内してみてよ、レオン。歩いている間に、気になったところへは、その都度寄ってみよう」

 というクラウドの提案で、バイクはやめにして、ふたりで連れだって歩くことにした。

 それから、一応、事情を知らない者たちには、もとのクラウドとして話を合わせておくことにする。いちいち説明するのは面倒くさいし、正直、俺たち以外の手で、解決方法が見つかるようには思えなかったから。

 

「……クラウド、城へ向かおう」

 俺は言った。

「……城?」

「ああ。……そうか、まだこの土地に起こっている異変については、くわしく説明していなかったな」

「う、うん。そこらに出てくる化け物のことは聞いたけどね。なんだっけ、ハ、ハートレス?だっけ」

「ああ、それとノーバディだ。……そう言っている間に、ほら来たぞ」

 俺たちはウゾウゾと沸いて出たヤツラを、一挙に斬り倒す。

 

「……他愛ないなァ。でも、いちいち面倒くさくね?」

 生来の飽きっぽさは、両クラウドに共通しているのだろう。彼は化け物どもに興味を示すこともなく、鬱陶しいと言ってのけた。

「まぁな。数が多いから」

「もうちょい強きゃ、そこそこ楽しめるんだけどね」

「まぁな」

 

 城門前から城の入り口までは道が悪くなっている。

 なかなか進まない工事に苛つきを感じないこともないが、土地柄なので致し方ない。

 闇の淵などと命名されることからもわかるように、低地になったその部分は湿度が高く、水はけが悪い。雨など降れば、瞬く間に水がたまり、工事が中断してしまうのだ。

 

 俺たちは注意深く、ゆっくりと歩みを進めた。