うらしまクラウド
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<10>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 

 

 

「あ、レオン、俺、おかわり! シチューね、シチュー! セフィロスは?」

「……もう十分だ」

「こっちのセフィは少食だねぇ!デカイのに」

 本気で吃驚して様子で彼を見つめるクラウド。

 

「俺ンとこのセフィなんて、すごいよ? ヴィンセント、かなりの量、用意してくれるけど、簡単になくなっちゃうからね。ま、うちは兄弟多いから仕方ないんだけどさァ」

 空いた皿にゆうに一杯よそって手渡すと、何の躊躇もなくガツガツと食べ出すクラウド。となりの席の『セフィロス』が、おもしろい動物でも眺めるような目で見ている。

  

 ……もし……ここにいるのが、別の世界のクラウドではなく、俺の知っている彼だったら、どれほどよかったろう……

 ああ、また……馬鹿なことを考えている……

 

 だが……もし……もしも、俺の知っている『クラウド』が、こんなふうに、セフィロスとごく普通の関係を築けており、彼の影に怯えたり、その声に震えなくてもよい状況だったら、どれほど、『クラウド』も俺も楽に居られただろうか……

 

 ……『共依存』

 この言葉は、以前俺がクラウドに話して聞かせた、心理学の症例だ。

 まさしくセフィロスとクラウドは、その関係にあると感じていた。

 

 そして、今、この時を持って、さらに確信めいたものが俺の心に芽生えた。

 

 セフィロスは……目の前に座っている、長い銀髪の青年の求めているものは、あの『クラウド』と同じだ。

 おのれの在りようを理解・認識し、受け止めてくれる存在を心の底から求めている孤独な魂……

 

 彼らふたりだからこそ、強く惹かれ合い、ある種、異常な関係にまで発展していってしまったのだろう。

 その因子のない、別世界のクラウドとならば、こんなにもごく普通の……ありふれた関係が築けるのに、たまたま病因を持った魂同士が惹かれ合い、現在の状況にまで進行してしまったのだ。

 

 ……可哀想な『クラウド』……そして、『セフィロス』……

 

 なぜ、彼らは『こう』なのだろう。

 何が、普通の人間と、最初から負の因子をもつ生き物とに分けてしまうのだろう。

  

 ……『クラウド』……

 俺は本当に、彼を受け止められるのだろうか?

 彼に心の平安を、取り戻してやれるのだろうか?

 そしていつか、『クラウド』が何にも怯えず生きられる、平和で安寧な生活を保障してやれるのだろうか……? 

 この俺のかたわらで……

 

 では『セフィロス』はどうなる……?

 『クラウド』が俺と生きることを選んでしまったのなら、共依存関係にあるはずの『セフィロス』は……?

 むしろ『クラウド』が『セフィロス』を求める以上に……異常な性癖を植え付けてまでも、『クラウド』を必要としていた彼は……?

 

「……オン」

「…………」

「……レオンってば!」

「………………」

「ねぇ、レオン!」

「……どうした、ホロウバスティオンの英雄……」

 

「……え? あ、いや……ああ……なんでも、ない」

「……なんでもないという顔には見えないがな」

「……気にしないでくれ。……それよりセフィロス」

 俺はやや唐突に切り出した。

「……そろそろ、いきなりこの家へやってきた理由を、聞かせてもらいたいのだが?」

「友だちとかじゃないの?」

「……クラウドはおとなしくしててくれ」

「なんだよ、それ。ブーブーブー!」

「異議は却下だ」

 あっさりと言い放つ。

 

「……何か手がかりがあったら教えてくれと、言っていたのではなかったか?」

 整った白い面に淡い笑みの色を浮かべて、セフィロスはささやいた。

「え、ウソ? マジでッ!? そんでわざわざレオンちに来てくれたんだ!」

「……フフフ」

「もう、さっすがセフィロス! ね、どうすりゃいいの? どうすれば、ヴィンセントのとこ帰れんのッ?」

「…………」

「ねぇってば! もったいぶんないで早く教えてよ〜ッ!」

 それこそ、子どものような勢いでセフィロスに飛びつくクラウド。彼を適当にいなして、セフィロスは俺に向かってつぶやいた。

 

「……本当にあの子をこの世界へ連れ戻すのか……?」

「…………」

「それが一番良いことだと、おまえは考えるのだな、レオン……」

「……俺は……」

 ……言葉が出てこない。

 『クラウド』にとって一番良いこと……彼が一番、楽に……幸福に生きられる方法……

 

「……ふふ、まぁいい。少し時間をやる」

「ちょっ……! いいったら、時間なんて! 早く入れ替わらせてよ! ね、セフィ、早く!」

 せっつくクラウド。

「……まぁ、待て。……ホロウバスティオンの英雄は、未だ決心がつかぬらしい」

 嬲るように、セフィロスは嘲笑した。

「レオン? アンタ、なに今さら迷ってんの? 『クラウド』、アンタの恋人なんでしょ? 一緒にここに住んでんでしょ? ラブラブなんでしょッ?」

「…………」

「レオンってば!」

「……そう詰め寄るな。せっかく面白い場所へ来たのだ。のんびりさせてもらおう」

「え? あ、どうぞどうぞ!ご随意に! だから早く元に戻してよ!」

 とクラウド。

 いや、ここは俺の家なのだが……

 

「……湯を沸かしてくる」

 俺はセフィロスと目線を合わせず、立ち上がった。

 そのままバスルームの仕度を口実に、居間を出る。

 

「……変なレオン……なんだってんだよ、今さら……」

 クラウドのつぶやきが耳に刺さった。