うらしまリターンズ
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<5>
 
 クラウド・ストライフ(AC)
 

 

 

 

 

 

 

 

「え……え……? な、なんだよ、何のこと……?」

 不安げな眼差しの『クラウド』。

 そうか、オドオドとした俺は、こんなにも頼りなげに可愛らしく見えるのか。今度、ヴィンセント相手の泣き落としに使ってみようと考える。

 いやいや、今はそれどころではなかった。

「あー、ええとさ! レオンが三日間、戻っていないって言ってたよな?」

「う、うん……」

「……もしかしたら、また入れ替わったのかもしれない」

 認めたくはないが何となく予感めいたものがある。以前の入れ替わりも似たようなシチュエーションだった。バイク飛ばしてて、すっ転んで……

 今、この家にやってきて、レオン不在が明らかになって、さらにその可能性が濃厚になったのだ。

 

「ウソ……」

 『クラウド』が呆然とつぶやいた。

「だって、レオン、三日間も帰ってこないんだろ?」

「うん……」

「あいつ、ただでさえ、帰宅時間だのなんだのは口うるさいじゃんか。そんなのに自分が黙って居なくなるなんてあり得るかよ? 帰ってこないんじゃなくて、帰ってこられないんだ!」

「……そんな……」

「だとしたら、行き先はコスタ・デル・ソル。俺がここに来てるんだから」

「な、なんでだよ、そんなこと……わからないじゃないか。も、もし、本当にホロウバスティオンじゃない、別のどこかに行っているとしても、必ずしもコスタ・デル・ソルとは限らないじゃないか」

「……絶対だ。」

「どうして? 何でそう言いきれるの?」

「俺の勘が告げている」

「…………」

 きっぱりとそう言ってやると、『クラウド』は深いマリンブルーの瞳を、呆れたように大きく見開いた。我ながら……本当に『我ながら』だから気恥ずかしいが、こんな表情は可愛いなぁと思う。

 だが次の瞬間、ヤツは今までのどの時より、落ち着かなげにソワソワと目線を身動きした。

 

「ホント……? レオン……コスタ・デル・ソルに?」

「多分な。……なんつーか、俺たち、特別なんじゃない? 普通ならあり得ないじゃん。別の世界を行き来するなんて。この前の一件だってそうだよ。おまえ、俺の家、行ってたんだろ?」

 身振りを加え、俺は覇気のない『オレ』に、語りかけた。

「ヴィンセントやセフィロスたちと逢ってたんだろ?」

「……うん」

「その間、俺はこの家に来ていた」

「うん……知ってる」

「だったら、今回も同じなんじゃないか? 俺がこっちに来ちゃったってことは、『こっちの誰か一人』が俺のほうへ行ったんじゃない?」

「……それが……今度はレオン?」

 びくびくと怯えたように、彼はつぶやいた。

 

「……多分。理由はわからない。でも……とにかく俺と入れ替わったのはレオンなんだよ。あまりにも状況が揃いすぎてるだろ? ……三日前から行方不明、携帯も通じない、連絡も入らない……普段絶対にヤツがしないようなことばかりじゃんか」

「じゃ、じゃあ……レオン……今頃、アンタんちへ行って……」

「多分な」

「アンタの家の人たちと……逢ってる?」

「だから、多分な!」

 やけくそ気味で俺はそう叫んだ。

 

「ど、どうしよう、『クラウド』……」

「今さら、オタオタすんな! 浮気するなら気合い入れてやれ!」

 めちゃくちゃなことを俺は叫んだ。

「どうしよう……」

 その声が掠れたかと思うと、ヤツはまたもやグズグズと落ち込んでいった。

「あのなぁ! ヘコんでも仕方ないだろ。俺も早く家へ帰んなきゃなんねーんだよ。とにかく一刻も早く手がかりを掴むぞ! まずはゴハン!それからお風呂!ベッド!!」

「……な、なに……それ……」

「腹が減っては戦ができないっていうだろ! どうせ、おまえもここのところ、まともな生活していないんだろう?」

 目の下にくっきりと浮いたクマ。色が白いからよけいに目立つ。その様を見ていれば、食事だとてきちんと取っているか知れたものではない。

「だって……食欲ないもん……」

「バカヤロウ! しっかりしろ! おまえがそんなんでどうするんだよ! レオンはな、おまえが居なくなったとき、フルパワーで動き回ってたぞ!! 空間移動の磁気測定したり、文献調べたり!そこら中歩き回ったりしてな!!」

 ……結局、どれもこれも役には立たなかったわけではあるが。それは伏せておくことにする。

「でも……」

「デモもストもないだろう! 根性みせろ、『クラウド』!」

 がっしとばかりに、ヤツの肩を掴み締めて怒鳴りつけた。同じ『クラウド』でも、なんとなくコイツのほうが俺よりも細いように感じる。丸三日のハンストが原因なのかは知らないが。

 

「わ、わかったよ…… でも、どうすればいいの?」

 上目遣いで俺を見つめる『クラウド』。なんて頼りない……仕方のないヤツ!!

「だからそれをふたりで考えるんだろッ? そのためにはまずは腹ごしらえ、休息、睡眠! おまえだって、そんなにボロボロじゃ、何もできないだろう!?」

「うん……」

「よしッ! じゃあ、メシッ!」

「作れないもん」

 何のとまどいもなく、『クラウド』のヤツは言い放った。

「おまえなぁ!」

「……作ったこと、ないもん」

「……別に手の込んだもの作らなくてもいいから、とりあえず在り合わせのもので何かこさえるしかないだろ」

「それじゃあ、オレ、アンタのこと手伝う。何すればいい?」

「何すればいいって……おい……」

 ああ、情けない!

 俺たちはパートナーがいなければ、まともな食事にありつくことすら出来ないダメ人間であった。

「ってゆーか、おまえンちのキッチンじゃん。部外者の俺が……」

「そんなこと、気にしないで。好きに使って」
 
 ギュッと膝を両腕で抱えたまま、それこそ子どものように『クラウド』は言った。

 ……俺も生活能力は皆無だが……ここの『クラウド』は、本当に無知無力なヤツであった。剣の腕は相当のものとレオンに聞いていたが、その他の能力は平均以下らしい。

 

「いや、でも……」

「それにオレ、食欲ないもん。どうせそんなに食べられないもん。……レオンいないし……」

 怒鳴りつけそうになるのを寸でのところで、押さえる俺。本当の本当にコイツってヤツは……!! レオン……俺がいうのもなんだけど、おまえ……物好きだな。こんな手の掛かるヤツ、一緒に暮らしていたらノイローゼになりそうだ。

「ああ、もういい!わかった! とりあえず外に食いに行くぞ! ちょっと歩けばいろいろ店あったもんな」

「……ヤダ。だって、オレたち、そっくりなんだよ? 他人が見たら絶対変に思う」

「服とか……変えていけばいいだろ、別に!」

「……それにセフィロスに遭ったら怖いもん」

「浮気しようとしてたくせに!」

「さっきのは違うもん!」

「向こうの『セフィロス』とはしたんだろ。ったくおまえら、本当に本能に忠実だよなァ」

 いささか嫌みっぽく、そう言ってやった。

「……そっちのセフィロス、やさしいから」

「そうそう、エロエロだからね、気に入ったヤツには」

「……後から……レオンには悪かったなって……すごくそう思ったけど、あのとき、ああしてくれて……すごく嬉しかった。……安心できた」

 膝を抱えたまま顎を乗せ、虚ろに開いた瞳でそうつぶやく、『クラウド』。こんなふうに言われると、なおのことそれを引き合いに出すのは憚られた。

 

「……レオン……セフィロス……」

 またもやグズグズと鼻水を啜る。

「あー、いい、いい! もういいからッ! 俺がなんか買ってくるから! おまえ、そこに居ろ! 小銭借りるぞ!!」

「…………」

「その代わり、好き嫌いとかワガママ言うなよッ! いいなッ!」

 ビシッと指を突きつけてそう言うと、意外にも素直にヤツは頷いた。

 ドカドカと出て行く俺に、

「……お菓子、甘いの買ってきて」

 などと、ぐずりながらも宣うあたりが、可愛らしいのか憎たらしいのかわからない気持ちであった。