うらしまリターンズ
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<6>
 
 クラウド・ストライフ(AC)
 

 

 

 

 

 

 

 

「……でさァ、まぁ、そういうカンジだったわけ! だからセフィに対してはやっぱね、アコガレが強かったんだと思う、俺的には。え〜? 今? ……今はまぁ、そりゃ、スゴイなと思うことはあるけどさァ」

「……でも、昔は好きだったんでしょ?」

「だから、それは昔。若気の至り。時間は流れてんの。俺はもう23だしね」

「でも、やっぱ、好きだったんじゃない」

「憧れてたの! 子どもだったから。人間性とか全然そーゆーこと考えないで、側に居るだけで満足だったんだよなァ」

「フーン」

 

 月は既に沖天を過ぎている。時刻にして午前0時過ぎ。

 あの後、どうにか晩飯を携えて帰ってきた俺に、『クラウド』は風呂を勧めてくれた。一応、それくらいのことはできるらしい。

 メシを食い、なぜかふたりして窮屈な思いでバスタブに浸かり、ようやくベッドに潜り込んだのは、すでに22時を回っていた。

 勝手知ったるレオンの家だ。ベッドがふたつあることはわかっていたが、今日は『もうひとりの俺』と一緒に眠ることにした。

 口には出さなかったが、ヤツはなんとなくそうして欲しそうに見えたし、何より一人きりになることをひどく怯えたのだ。なんせ、あの状況の中でわざわざ晩飯に菓子類まで買って戻ってきた俺に「遅い!」と怒鳴りつけ、泣きついてきたのだから。

 手間が掛かると言ってしまえば、そのとおりなのだが、何だか放っておけない気持ちになる。きっとレオンも同じように感じているのだろう。

 

「ねぇねぇ、クラウド。初体験っていつ?」

 体育座りのまま、きょろきょろと青い目を見開いて、ヤツは訊ねた。

「アホか、おまえは。女子高生の修学旅行じゃないんだぞ」

「いいじゃん。いつ?いつ?」

「……どっちの?」

 こう訊ねなければならないこの身が少し悲しい。

「どっちでもいいよ。とにかくそーゆーことの初めて」

「……15」

「相手は?」

「…………」

「……ねぇねぇ、相手はッ?」

「……おまえな、なんでそんなこと聞きたがるんだよ……カダージュみたいだぞ。ガキじゃあるまいし」

「だって聞きたいんだもん。教えてよ。いいじゃん、同じ『クラウド』なんだから。ね、ね、誰?」

「……セフィだよ。しかたないだろ。14のときにはもう神羅に入社したんだから」

 溜め息混じりにそう答えてやった。

 

「あ、やっぱ、セフィロスなんだね……」

「憧れてたって言っただろ」

「でも、そこまでいっちゃうってことはさ……」

「もちろん、その……ちゃ、ちゃんと、セフィの気持ちも聞いてから……だから。少なくとも遊びとか、そんな気持ちじゃ……」

 やや虚勢を張ってそう言ってやる。

 『遊び』どころか、そんな余裕、俺にはなかった。ただセフィロスが側にいてくれるだけで、声を掛けてくれるだけで、髪を撫でてくれるだけで……もう本当にそれだけでひどく満足だったし嬉しかったのだ。

 『遊び』というのなら、セフィロスのほうがそういうつもりなのではないかと、ずいぶん疑心暗鬼にかられた。もっともあの当時の俺は、本当に子どもで、そんな気持ちをぶつける方法さえわからず、とにかく必死に彼にまとわりついていた。

 トップソルジャーだった彼は、会社の期待も大きく、いわゆるVIP待遇で、俺みたいな一兵卒は側に近寄ることさえ、難しかった。

 恋人という立場になってからも、あちこちの激戦場に赴く彼を眺め、ひどく不安にかられたものだ。

 もし、セフィロスになにかあったら……?

 ちゃんと無事に帰ってきてくれるだろうか……?

 ……俺じゃない、他の誰かを好きになっちゃったら……?

 

 今思えば、なんて子どもっぽく、また鬱陶しいヤツだったろうと感じる。でも、あの当時は本当に必死で……自分自身の出世と、セフィロスの気持ちをつなぎ止めておくことに、全力を注いでいた。客観的におのれを見るような余裕はなかったのだ。

 きっと、彼が俺のことを『クソガキ』と宣うのは、その当時の感覚が残っているのではないかと思う。

 

 

 

 

「今はさ、ヴィンセントのこと大好きだから。愛してるから!!」

「ヴィンセントさんかァ……」

 もうひとりの『クラウド』は、俺の大切な人の名をつぶやいた。

「ヴィンセントさんって綺麗だよねぇ〜」

「ですよねッ!」

「おとなしくてやさしくて……」

「ですよねェッ!」

「なんかこう……不思議な雰囲気」

「おまえ、よくわかってんじゃん!」

 俺は勢いよくそう叫んだ。やはり自分の思い人を誉められるのは気分がいい。

「そりゃ……会ったことあるわけだからさ。自分だって、アンタのこと心配でたまらないはずなのに、オレの前では全然そんな素振り見せないで、すごく親切にしてくれた」

「うんうん……あ、ヤバ、泣きそう」

 しみじみとヴィンセントの話を聞かされ、思わず涙腺が緩みかける。

 

「あ、でもさ、レオンもイイヤツだよな。けっこう世話焼きでさ。俺、こっちに居たときはずっと厄介になっていたけど、メシとかいろいろ面倒見てくれて。あいつ料理上手いもんな」

「ははは、レオンはね、誰にでもそうなんだよ。困ってるヤツとか放っておけないんだ」

「ぶっちゃけ、鈍感で気が利かねーとか思うこともあったけど、真面目で誠実といえないこともない」

 うむうむと頷きつつ、やや固めの単語を拾い出してヤツを誉める。やっぱ、自分の好きな人を誉めてもらったのなら、相手の恋人にも言及するのが、かしこい大人の処世術なのである。