うらしまリターンズ
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<7>
 
 クラウド・ストライフ(AC)
 

 

 

 

 

 

 

 

「レオンは真面目で誠実かァ。……うん、そうだよね。オレさぁ、不真面目で不誠実だからさ……」

 立て膝にした両足に顎を乗せて、『クラウド』はつぶやいた。

 冗談めかしているのだろうが、力無い本音がかいま見えた。

「お、おいおい、さっき言ったこと気にしてんのかよ? もう済んだことだろ?」

「いいんだよ。クラウドは悪くない。……セフィロスと付き合ってたアンタにあんな話したの、無神経だったと思う。ゴメンね」

「お、おい! バカ! な、なに謝ってんだよッ! そんなの全然気にしてねーよ! っつーか、むしろ、俺のほうが、あのヤロウの無神経さに苛立ってるだけだってば!」

「そっちのセフィロス、無神経なんかじゃないよ。……すごくやさしくて強い人。クラウド、うらやましい」

「よせったら! おまえにはレオンが居るだろ!」

 覆い被せるように、俺は言った。

 

「オレ……弱いから。弱々だからさ…… ひとりじゃ居られないんだよね……不安で。『セフィロス』に捨てられて、レオンまでいなくなっちゃったら、もうホント死ぬしかないって思っちゃって……怖くて怖くて」

「誰だってひとりは怖いよ。だから誰かを好きになるし……その人が居なくなったらつらくてたまらなくなるよ。おまえがおかしいわけじゃない」

 一言一言噛んで含めるようにそう言った。不安に苛まれる『クラウド』を慰めてやりたかったし、また俺自身も覚えのある感情だったから。

「ありがと。……アンタ、やっぱやさしいね。レオンもやさしいけど、クラウドもやさしいよ」

 ヤツはそんな風に言った。同じ『俺』同士なのだが、意気消沈しているせいだろうか。こっちの世界の『クラウド』は、俺自身よりも、ずっと儚げに可憐に映るのであった。

 

 

 

 

「……コスタデルソルの家に置いてもらってたとき……ずっと感じていたけど……アンタは本当にみんなに愛されてるんだなぁって思ってた。ヴィンセントさんだけじゃなくて……さ。街の人たちもオレにしょっちゅう声をかけてくれたし、ヤズーやカダージュやロッズや……セフィロスだって……アンタのことを大切に思ってる」

「セフィ〜? それはない。全然無い。セフィは俺に意地悪するだけ」

 妙に神妙な様子のヤツに、ややおどけた調子でそう言ってやった。

「愛情表現みたいなもんじゃないの? ふたりで居るところ見たことないけど、どうせじゃれあってるようなもんだろ?」

「……セフィロスはヴィンセントにちょっかい出すんだ。カンペキに敵じゃあッ! 討つべし!討つべし!」

 有無を言わさぬ勢いでそう告げると、『クラウド』はキョトンとした表情で俺を見つめた。次の瞬間、思わずと言った様子で吹き出す。

「ぷっ……あはははは!! クラウド、正直だね。やっぱ、いいなぁ。ヴィンセントさん、幸せだね」

「ヴィンセントはすごくやさしいからな。気配りの人だし。だからセフィが無理やり言い寄っても、邪険な扱いができないんだ。おまけに、その……ちょっと色々あって、ヴィンセントはセフィロスに救われたと思ってる部分があるし」

「……へぇ」

「クッソーッ! 俺の役目を取りやがってセフィロスめーッ!」

 パンと拳を手の平に叩き付けて、俺は悪態をついた。

 

「…………」

「……まァ、そうはいうけどさ。やっぱ、セフィって強いから。 ……ホントに強いからさぁ。俺の目標であり、理想である……ってことはかわんないよ、昔からね」

 そこだけは正直に口にする。

 ヴィンセントがあの一件で致命的な傷を負わなかったのも、ああして我が家に帰ってこられたのも、セフィロスのおかげといっても過言ではない。俺だってそれくらいのことはわかっているんだ。

「ホント、化け物みたいに強いからね。体力もパワーも精神力も……まだまだ全然かなわないよ」

「……クラウド」

「あ、ただし、あのエロエロのところはサイテー。学ぶつもりないからね、ソコは。紳士だからね、俺は」

「うふふふ」

「笑うなッ!」

「あー、おかし〜、クラウド。でも、なんかアンタと話してると元気出る。さっきまで本当に死んじゃいたいような気分だったから」

 クスッと自嘲すると、『クラウド』は疲れたような笑みを浮かべた。

「おまえな、簡単に『死ぬ』とか言ってんなよ。仮にも剣士ならな」

「……うん、ゴメン」

「あやまんなって。……もう一度、レオンに会いたいだろ? だったら腹括って、なんとか元に戻す方法を探らなきゃ。オレも早く帰んないと……うごぉぉぉぉ」

「……どしたの?」

「いや……ちょっと……おのれの置かれている状況を思い出した」

 『へぇぇ! 浮気!?』

 『やはり女のほうがいいか。ゴムは着けろよ』

 『残念だがな、クラウド。ヴィンセントはもうおまえとは、口を聞きたくないそうだ。可哀想に……泣いているぞ』

 『まぁ、アレだ、クラウド。ヴィンセントのことはオレに任せろ。ちゃんと慰めて抱いて寝てやる』

 立て続けに、セフィロス語録を思い出し、内臓を抉られるような痛みが俺を襲う。

 ……クッソ〜!クソクソクソクソ! 魔王セフィロスめ!! ヴィンセント姫、誤解でござる! 勇者クラウドは、永久に姫を愛して御座りまする〜ッッ!!

 

「……クラウド……大丈夫?」                 

「大丈夫で御座りまする、姫……」

「ハァ?」

「あ、いや……何でもない。ちょっと世界に入っちゃってた」

 頭を押さえ、低くつぶやく。

 時計を見れば、早深夜の一時……

 

「な、もう寝よーぜ。明日からフル回転で動かなきゃなんねーし」

 ふぅと大きく吐息すると、となりの『クラウド』にそう言った。こいつはずっと膝をギュッと抱えたままの格好を崩さない。

「おまえもここんとこ、まともに眠ってないんだろ? とりあえず、目の下のクマを消せ」

「……ふふ、うん、そうだね。ありがと、おやすみ」

 思いの外、素直に頷くと、ようやく先ほどまでの姿勢を解き、すんなりと寝台に横になった。レオンの部屋のベッドは、それほど大きなものではないので、大の男ふたりが横になると、いっぱいいっぱいだ。

「おい、平気か? 落ちるなよ」

「大丈夫だよ。となりに誰かいると思うと……すごい……落ち着く……」

 そうささやくと同時に、ヤツはまるで気絶するように眠り込んだ。

 スースーという深い吐息が、こいつの疲労を物語っていた。狭いベッドなのに、すり寄ってピッタリとくっつく『クラウド』。

 起こさないようにそっと布団を持ち上げ、俺は小さく縮こまる肩を抱いてやった。

 

 ……なんとなくセフィロスの気持ちがわかるような気がした。