うらしまリターンズ
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<8>
 
 クラウド・ストライフ(AC)
 

 

 

 

 

 

 

 

「起床〜っ! 起床〜っ!」

 ガンガンガン!

「す〜……」

「起床ーッ! 起床〜〜〜〜ッ!!」

 ジリリリリリッ!

 耳元で、アナログ時計のベルを鳴らす。それにも関わらず、『クラウド』の野郎は、ぐっすりと眠り込んでいるのだ。

「起きろ、このヤロッ! おらおらーッ!」

 俺は『クラウド』の襟首を掴み締め、ガクガクと揺すってやった。だが寝汚いコイツはむにゃむにゃと寝言を唱えつつ、未だに夢心地だ。

「オイィィィ! 『クラウド』! 起きろ!」

「う〜……」

「ちょっ……『クラウド』! おい、起きろよ、何時だと思ってんだ!コノヤロー! 」

「んぅ〜…… ……や……」

「もう、ホンット、俺たちダメダメっぽいぞ! ヤバイぞ! 読者にやる気あんのかって思われちゃうぞ!」

 ほとんど泣きつくように、俺はそう叫んだ。もちろんヤツの首根っこを引きずり上げたままだ。

 ……ああ、俺というヤツは……いや、俺たちは、パートナーがいなければ、こうも自堕落な人間に成り下がってしまうのだろうか。

 時計はすでに正午を過ぎ……正確には午後二時前といったところだ。確かに昨日は様々なことがあった。俺も『クラウド』も疲労困憊していたと言えるだろう。

 だが、眠りに着いたのはその日のうちだったし、夕食だってきちんと取るくらいの余裕はあったのだ。

 それにもかかわらず、この緊迫した状況の中、こうまで惰眠を貪るとは……!

 ああ、ヴィンセントに顔向けができない。

 やさしいあの人は、きっと俺の身を案じてくれていることだろう。一刻も早く手がかりを見つけ出さなくてはならないというのに!!

 

「『クラウド』!おい、『クラウド』ってば! いいかげん、目ェ覚ませ! ぶん殴るぞ!」

「ん〜…… ふあぁぁ〜…… なに……もう朝……?」

「朝じゃねーよ! 午後だよ!後一時間で三時のオヤツの時間だよッ!」

 情けない気持ちでそう怒鳴ってやった。

「そぉなの〜……目……開かない……チューして……」

「おまえ、殴られてーのかッ!」

「ふーんだ、クラウドのケチ…… レオンはちゃんとしてくれるもん……」

「俺はおまえのレオンじゃねーんだよ! ったく、レオン、甘やかしすぎ! ちゃんと教育しろよ! ただのワガママなクソガキじゃんか!!」

 叫んでみてから、ウッと詰まる。よくよく考えてみれば、こいつはまぎれもなくもうひとりの『俺』だし、『ワガママなクソガキ』というフレーズは、常日頃から耳にしている。……というか言われている。この俺自身が。

 

 いかん……いかんよ! この逆境の中、唯一の味方であり、協力者の『クラウド』を追いつめてはいけない。

 なんとしてでも協力して、互いに一番大切な人を取り戻さなくては……!

 

「ほらほら!とにかくさっさと起きて! メシ食ったらすぐに出掛けるぞ! 風呂沸かしてあるから、目ェ覚ましてこい! ただでさえ、時間ないんだからな!」

「……ふぁ〜……わかってるもん……」

 大あくびをひとつすると、ずるずると足を引きずりながら、バスルームに姿を消す『クラウド』であった……

 味方だの協力者だのという前に、「お荷物」という不穏な言葉が浮かんでくる……

 

 

 

 

 パァン……!

「きぁ!」

「おいおいおいおい!ちょっ……何してくれてんの、おまえェェェェ!」

「だって……クラウドが卵頼むって言ったんじゃん……だから、ゆで卵でいいかなって……」

 ブツブツと頬を膨らませて言い訳する『クラウド』。

「ゆで卵ってゆーなら、茹でろや、コルアァァァ! 電子レンジで何爆発させてんのォォォッ?」

「卵が砕けるなんて……レオンの身に何かあったんじゃ……」

「生卵、レンジで加熱すりゃ爆発するわ!! レオンの身もクソも関係あるかッ!」 

「クラウド、下品。……だって、時間ないから、レンジでチンすればいいかなって思ったんだもん」

 いけしゃあしゃあと言いやがる……おのれの愚行を自覚することなく、まるで電子レンジのほうが壊れているとでも言わんばかりのその思考……なんて恐ろしいヤツ!

 哀れな卵は、電子レンジの中で、すでに原形をとどめてはいなかった。

「いい! もういいから! ここは俺がやっから、おまえ、先に食ってろ! トーストにバターぬって、マスタードあんだろ? そこに野菜とハム挟んで食うんだぞ!」

「……レタスとハムだけでいい。タマネギとかキライ。ピーマンの薄切りもイヤ。」

「好き嫌いを無くせ! ガキじゃあるまいし!」

「ハチミツ入れよう!」

「おいおいおい! ちゃんと肉も食えよ! ベーコンあるだろ!!」

「うん」

「チッ……やれやれ」

 食いかけの即席サンドを口にくわえたまま、レンジの爆発卵を埋葬する。正直、料理の心得などまるきりないが、サンドイッチやサラダくらいは作れる。

 気楽な物で、もうひとりの『クラウド』は、言われるがままに、モシャモシャとパンを喰らっていた。昨日、セフィロスと一緒に居たときとは別人のようだ。

 きっとこいつは『一人きり』という状況が極めて苦手なのだろう。いや、苦手などというレベルではない。ほとんど恐怖に近い感情なのだと思われる。

 その証拠に、俺が側についてからは、きちんと人間らしく食事もしているし、睡眠もとっている。ワガママいっぱい元気も出てきたようだ。

 だが、逆にその姿を見ていると……なんといえばいいのだろうか。

 普段の姿は、ごく普通の男なのに、側についている人間がいないと、あれほどまでに心の調和を乱してしまうのは、彼の内側の異常をありありと物語っているようで切なく、また哀れであった。

 

「何ぼさっとしてんの、クラウド」

 そう声を掛けられてハッとする。

「時間ないんでしょ? 早くでかけなきゃ」

「……おまえな……」

 おまえのことを心配してやってんだろーが、コノヤロ。

 まぁ、なにはともあれ時間がないのは、本当のことだ。

「よし、行くぞ、『クラウド』」

 俺たちは、すぐさまバイクで家を飛び出した。