うらしまリターンズ
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<9>
 
 クラウド・ストライフ(AC)
 

 

 

 

 

 

 

 

「……っていうかさ。飛び出すのはいいけどォ? どこ行くかとか全然決めてないじゃん。クラウド、計画性なさすぎ」

 ひどく素っ気ない物言いで、もうひとりの俺がつぶやいた。

 とりあえず、バイクを街の駐車場に停め、俺たちは歩き出した。立ち止まっていても致し方ないからだ。

「いきなり街まで出ちゃってさァ」

「仕方ないだろ! それよりおまえ、何か心当たりとかないのかよ? ホロウバスティオンのことは、俺、よくわかんないし」

「心当たりがあるところなんて、とっくの昔に捜しつくしてるよ!」

 ムッとして、叩きつけるように『クラウド』が言った。まぁ、さもあろうというところだ。レオンが行方不明になった丸三日、こいつは寝食を忘れて駆けずり回っていたのだろうから。

「そりゃそーだろうけど、もう一度、回ってみようぜ。見落としがあるかもしれないし、ふたりなら気付くこともあるかもしれないだろ」

「……うん、いいけど」

「ええと……ぶっちゃけ、街は無関係だと思うんだよ」

「どうして?」

「だって、大げさな言い方すれば、時空移動みたいなもんだろ? この世界とはまったく関係のない、別次元の世界へ移動するわけなんだから」

「うん」

「だったら、そんな空間の亀裂が街中にあったら大騒ぎになってるはずじゃんか」

「うん……まぁ……そうかな……」

 思案顔のまま、『クラウド』は頷いた。

「……な、あそこ行ってみようぜ」

「あそこってどこ?」

「俺が最初に、この世界にやってきたとき、着いた場所だよ。水晶とかすごいたくさんあった、あの不思議な場所……」

「……や、闇の淵……?」

 奴の顔から、すっと血の気が引くと、恐る恐るそうつぶやいた。

「そう、そこそこ! なんかいかにも!って感じのところじゃん? 本当は城にも行きたいところだけど、今日は始動が遅かったからな。あの場所まで、ここからだとちょっとあるけど夜には戻れるだろ」

「…………」

「どうしたよ?」

「……闇の淵……まだ行ってないの」

 ボソボソと奴はつぶやいた。

「ハァ?なんで?一番怪しいだろうが」

「あ、ううん、正確には夜は行ったことがないの。なんか……怖くて……」

「怖いって……ただ人気がないだけだろ?」

 やれやれという口調で、俺は言い返した。

「一昨日……昼前に、シドたちに手伝ってもらって、様子を見に行ったけど……でも……」

「ああ、シド! そっか、こっちも、おまえやレオンの協力者はいるわけだもんな。だったら、そいつらにも手伝ってもらって……」

「ダ、ダメだよ……!」

 困惑した口調で、『クラウド』が俺の言葉を遮った。

「……ダメだよ……変だと思われる」

「何がだよ!一緒にレオンを捜してくれって頼むの、何がおかしいんだよ!?」

「シ、シドたちも再建委員の仕事……いっぱいあるし…… 街の見回りだってやってるし……そ、それに……」

「それに?」

「だ、だって……たった三日居ないだけなんだよ? レオン、以前はしょっちゅう旅に出たり、いろいろ動き回っていたらしくて……連絡が取れなくなった翌日、すぐ、シドたちに話をしにいったけど、まともに取り合ってくれなかったんだから」

 目線を落として、ヤツはつぶやいた。

「オレが一緒に居るようになってからは、そんなことは少なくなったようだけど、以前はかなり活動的だったらしいんだよ。だから、シドも『そんなに心配する必要はないだろ』って……」

「……で、でも、おまえのところに連絡がないのは、どう考えてもおかしいだろ? 黙っていなくなるなんて……」

「……い、言えないもん、シドたちになんて…… オレたち、ただの同居人ってことになってるし。あまり大騒ぎしたら変に思われるよ……だって外から見たら、男友達が無断外泊してるってだけでしょ? そんなのに血相を変えて捜し回ってるって……やっぱヘンじゃん……」

「なんだよ、それ? おまえら付き合ってんの秘密にしてんの? 別に隠すことねーだろ!? たまたま恋人になったのがレオンってだけであって、誰にはばかる必要ないじゃんか!」

 ついついキツイ口調でそう言い放った。レオンは俺に対して、ふたりの関係をごまかすような素振りなど一度も見せたりしなかったからだ。

 

「ダ、ダメだよ!おっきな声出さないでよ、クラウド。……そりゃ、知られたってオレはいいよ……でも、レオンは……レオンに迷惑が掛かったら……」

「あのなぁ! レオンがおまえに迷惑だって言ったのかよ? おまえとそーゆー仲だって知られるのはイヤだって言ったのか?」

「そ、そうじゃないけど…… でも、レオン、やさしいんだもん。もし、迷惑だって思っても絶対そうは言わないよ」

「…………」

「それに……コレ、ちょっとプライベートなことだから……あんまし詳しく言えないんだけど、レオン……なんていうか…… そ、その、上流階級の人なの。お父さん、有名人なの」

 ヤツは辿々しくそう言った。説明にも何にもなってやしない。

「なんだよ、それ? 政治家とか芸能人とかそーゆーこと? 息子がオトコと付き合ってるってバレたらヤバイの?」

「レ、レオンのお父さんにはどうしても知られたくないの! とってもいい人なんだよ、レオンのお父さん。やさしくて面白くて格好良くて……ずごい身分のある人なのに、全然エラそうな態度取らなくて。オレにも本当に親切にしてくれて」

「…………」

「ほ、ほら、見て、コレ。」

 そういうと、ヤツは胸のジッパーを降ろし、キラキラと光るものを見せてくれた。そのペンダントトップには変わった色合いの石が輝いていた。

「ふぅん……キレイじゃん。ジェイド……かな? 不思議な色合いだ……」

「へぇ、すごい、クラウド! よくわかったね。そう、これ翡翠なんだって。お守りになるんだってさ」

「……で? それがどうしたの? まさか……」

「うん、レオンのお父さん……ラグナさんからもらったの。『クラウドくんは綺麗で可愛いからよく似合う』って!」

 何の衒いもなく、ちゃはっ!とばかりに満面の笑みを浮かべる『クラウド』……

「……おまえな……」

「だ、だから、そんなふうに親切にしてくれるラグナさんを悲しませたくないの! やっぱショックじゃん……ひとり息子の恋人が野郎だなんて……さ」

「…………」

「ク、クラウドだってそうでしょ? ヴィンセントさんのお父さんに『恋人です!』って名乗り出られる!? 無理でしょッ!」

 詰め寄るように、『クラウド』が言葉を重ねた。

「……まぁ、ヴィンセントに身内はいないみたいだから、そういうの……考えたことなかったけどな」

「絶対、無理だよッ!」

 ビシリと『クラウド』は断言した。

「…………」

「だ、だから……その……話、逸れちゃったけど、なるべくみんなに知られたくないの……オレとレオンのこと」

 むっつりと黙り込んだ俺を横目に見て、やや言いにくそうにヤツはつぶやいた。

「ま、他人事だから、いいけどさ」

「そんな言い方しないでよ」

「……だってそうだろ。まぁいいや。とにかく時間が惜しい。闇の淵に行くぞ。シドや……他に頼りになりそうな連中には、積極的に相談するんじゃなくて、会ったときに適当に話を向けてみるってことでどうだ? もし何か知ってたならすぐに聞き出したいし、有益な情報があれば耳に入れておいた方がいい」

「う、うん……」

「よし、じゃ、行くぞ。……あそこはまともな道路がないからな……バイクは無理だ」

「……うん」

「歩きだと時間がかかるぞ、急げ、『クラウド』」

 そう言って、早足で歩き出した俺を、ヤツはタカタカと小走りに後を着いてきた。