うらしまリターンズ
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<11>
 
 クラウド・ストライフ(AC)
 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、その日は、なんの収穫もなかった。

 

 まぁ、昨日の今日だし、だいたい動き始めたのがあの時間だったのだ。そうそう都合よくヒントを得られるほど甘くはないということだろう。

 完全に真っ暗になってしまった夜の街を、俺たちは駐車したバイクのところまで、トボトボと歩いていた。

「チッ、くそ〜。あの場所は絶対に怪しいと思っていたんだけどなぁ〜」

「ん……」

「後は城かな〜。でも、闇の淵っていかにもな名前だし、絶対手がかりがあると踏んだんだがな……まぁ、今日は時間も足りなかったし。また日をあらためるしかないか……」

「うん……途中から暗くて……あんましよくわかんなかったし」

 力無く『クラウド』がつぶやいた。

「まぁ、いいや。明日は朝から頑張ろうな! 早くヴィンセントのとこ、帰らないと……」

 そう『クラウド』に言い放ち、自分自身にも確認した。

「腹減った〜。結局、朝と昼一緒のメシしか食ってないもんな、俺たち」

「……ん」

「どうする? どっかで食ってくか……それとも何か買って帰ろうか?」

「……オレはいい」

 ぼそりとヤツはつぶやいた。まださっきのことを気にしているのだろうか。『クラウド』同士とはいえ、こいつはずいぶんとグジグジ考え込むヤツだ。

 

「おいおい、いいって家でメシ食ってから9時間くらい経ってんだぞ? 腹減ってないの?」

「……あんまし」

 その物言いが、あまりにも気怠げで、俺は後ろを振り返った。

 そして思わず、ビクリと目を見張ってしまったのだ。

 

 『クラウド』は、あきらかに普通の状態ではなかった。

 

 不自然に上気した頬……早い呼吸、そのくせ、ずるずると苦しげに足を引きずって歩いている。

 一目見て、発熱しているとわかる。

 

「お、おい、『クラウド』? どうした、おまえ!」

「……なんでもない」

「なんでもないってこたないだろ!」

 ついついきつくなる声をやわらげ、俺は言葉を続けた。

「どう見ても具合悪そうじゃんか。熱あるだろ?」

「…………」

「まったく……どうしてこんなになるまでガマンしてんだよッ!」

「……だって……オレ……」

 

 俺はズンズンとヤツの側に近寄ると、腕をとって、額に手を当てた。まさか殴られるとでも思ったのか、ヤツはビクリと身を竦ませた。

「バカ、何もしないよ。熱計ってるだけ……」

「……大丈夫だったら……」

「大丈夫じゃないだろ。……かなり熱高いぞ」

「…………」

「どうして黙ってたんだよ。体調が悪いなら、すぐに俺に言えよ!」

「……ゴメン」

「ゴメンって……おまえ…… ……ああ、いや……その……」

 いや、反省すべきなのは俺の方だろう。闇の淵で真っ青な顔をして震えていたとき……そして彼とずっと手を繋いでいたのだから、身体の異変に気付いてやるべきだったのだ。

 それにさんざん「家でヴィンセントが待っている」と口にしてしまった。ヤツが言い出せなかったも理解できるというものだ。

 

 ……それに、どうしても、ふたりで居ると、俺のペースでヤツを引っ張っていくことになってしまう。『クラウド』もそれを承知のようだし、むしろそうして欲しいようにも思えた。

 それはレオンの不在と『セフィロス』の出現で、平常心を無くし掛けていたヤツにとってもよいことのように思えたのだ。

 

「そうだよな……俺のペースなんだよ、これは」

「……え?」

 ボソリとつぶいた言葉に、ヤツは顔を上げた。歩くのが苦しかったらしく、俯いたまま突っ立っていたのだ。

 丸三日、ほとんど飲まず食わずどころか、まともに睡眠さえとらず、レオンを捜し回っていたと聞いた。おまけに『クラウド』にとって、あの『セフィロス』は恐ろしい存在らしい。唯一の保護者であり、想い人を失った彼は、どれほどの不安に苛まれていたことだろう。少し想像すれば容易に気づくはずだ。

 きっと今日も、朝から体調が優れなかったのだろう。それにまったく注意を払わず、俺は無理やり探索に駆り出したのだ。

 

「な、大丈夫か? 少しだけ、歩けるか?」

 俯いた顔を覗き込み、噛んで含めるように、さっきよりもずっと優しい声で問いかける。

「え……」

「バイク、停めてるところまでもうちょっとだろ。家までは俺が運転するから、後ろ、乗れそうか?」

「うん……」

 コクンと頷く『クラウド』。熱に浮かされた潤んだ瞳が痛々しい。

 同じ『クラウド』でもコイツは俺よりもずっと繊細だ。怒鳴り声やキツイ物言いに竦んでしまうし、緊張に弱い。

 きっと、ヴィンセントならば、彼の特性を即座に察知し、相応の対応をしてやったことだろう。彼を不安に陥らせたばかりか、こんな風に体調を崩させてしまう俺とは段違いだ。

 

 

 

 

 かつての忌まわしい事件……ヴィンセントがDGソルジャーに狙われ、俺たちの前から姿を隠した一件を思い起こしていた。

 あの時はほとんどセフィロスに救われた感じだった。もちろん、俺だとて自分に出来ることは精一杯やったつもりではあったが。

 だが、人ひとり守るというのは『精一杯やった』だけではダメなのだ。それはあくまでも俺自身の気持ちであって、そこから発露する行動すべてが、どれだけの効能をもたらしたか……堅苦しい言い方をすればそういうことなのである。

 

 セフィロスは普段あんなに乱暴で自己中心的なヤツなのに、いざというとき、相手にとって何が一番いいことなのか、即座に見極め、合理的に行動できる。俺はすぐに自分の感情を優先させてしまう。

 姿を消したヴィンセントが、唯一連絡を取ってきた相手がセフィロスだということも、それを示唆していると考えるべきだろう。

 俺は誰よりもヴィンセントを大切に思っているが、結果的に、ヴィンセント自身が俺よりもセフィロスを頼りにしたとしても、異議の唱えようはないのだ。