うらしまリターンズ
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<12>
 
 クラウド・ストライフ(AC)
 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クラウド……?」

「え、あ…… な、なんでもない」

 惚けていた俺は、声を掛けられハッと我にかえった。

「……ゴメン……怒ってる?」

「バカ言うな……自分のダメさ加減に呆れていたところだ」

「え……? な、なに言ってるの……? そんなことないよ、クラウドは一生懸命やってるじゃない。ダメなの……オレの方だよ」

「そんな言い方すんな」

 きつい口調にならぬよう、十分に注意して、俺はそう告げた。さきほどよりも呼吸が苦しそうだ。この分だときっと熱が上がっているのだろう。

 もはや一刻の猶予もなかった。

 俺は乱暴にならぬよう、ヤツの肩を引き寄せると、背中に腕を回して身体を支えてやった。

 

「へ、平気だよ……歩けないってほどじゃないから……」

「いいから。大人しくしてろ」

「ゴメン……こんなときなのに……足手まといになって」

「そんなことない……俺のほうこそ、すまなかった。全然、おまえの状態、理解できていなかったみたいだ」

「……え?」

 ハァハァという息づかいが、耳元で響く。

「……おまえ、俺と会う前、ほとんどひとりきりで丸三日、レオンを探し回ってたんだもんな。体調崩すのも道理だ」

「そんな……こと……」

「いいから、もうしゃべるな。身体、キツイだろ? すぐ家で休ませてやるから」

「……うん……ゴメ……あ、いや……ありがと……」

 そうつぶやくとヤツはぐったりと寄りかかってきた。

 素肌に触れたヤツの頬が、まるで炎を含んだように熱かったのが印象的であった……

 

 

 

 

 やっとの思いで町外れの小さな家に帰り着くと、昼、抜け出したまま、放りっぱなしの寝床を、急いで丁寧に整える。

 『クラウド』のヤツはシャワールームだ。発熱しているし、寒気がすると言っていたので、すぐさま横にさせようと考えていたのに、どうしても湯に入ると言って聞かなかった。

 気持ちはわからなくもない。長時間、闇の淵に居たせいですっかり身体は冷え切っていたし、いろいろと歩き回りもしたからそのままベッドに潜るのは気が引けたのだろう。

 よろよろと風呂から上がってきた姿は、お世辞にも具合がよくなったようには見えなかったが、少なくとも蒼黒く染まった唇は、もとの桜色に戻っていた。

 

「ほら、そのまま、さっさと横になれ。後で簡単なもん作ってくるから、そしたら薬飲んで眠るんだぞ」

「う、うん……」

 ぐいぐいとベッドに押し込み、こんもりと小山のように布団を掛けてやる。

 

「……お風呂、入ったら、あったかくなった……」

 ポソリとヤツはつぶやいた。

「そうか。おまえ真っ青だったからな。でも、本当は熱のあるときに入浴はよくないんだぞ。体力なくなるし、貧血になりやすいしな」

「……ん……」

「じゃ、俺も風呂済ませてくる。どうも服がほこりっぽくて……」

「うん……けっこう歩いたからね」

「そうだな。……今度から具合の悪いときは、すぐ俺に言うんだぞ? 遠慮なんかすんなよ」

 くどいくらいに、俺は繰り返した。

「……ありがと」

 とヤツはささやき、ほんの少しだけ微笑んだ。

「よし、いいから寝てろ。すぐにまた様子見に来るから」

「……うん」

「ちゃんと毛布掛けたままだぞ? きちんとあったかくしてろよ」

「うん、わかってる」

「よし!」

 俺はすぐに風呂場に直行した。

 いささか乱暴な勢いで湯浴みを済ませ、熱湯のようなシャワーを頭から浴びる。

 昔、セフィロスがこんなふうな熱い湯に浸かっていたが、一緒に風呂に入っていた俺は、ずいぶんと抗議したものだ。

 でも、こうしていると気を落ち着けるためにはすごくいいようだし、シャワーだけで終えても満足感があるのだった。

 

 

 ……だが数分後、俺はすぐさま、『クラウド』をひとりで放置していたことを後悔することになった。

 帰りがけに入手した熱冷ましと風邪薬、それを手に出来合いのスープを温めて、彼の寝室に持っていった。

 だが、彼はスープどころか、薬さえも飲めるような状態ではなかったのだ。

 

「……ハァッ……ハァハァ……」

 せわしない息継ぎに、俺は飛び込むようにして寝台に駆け寄った。

「ハァッ……ハァッ……ハァ……ハァ……」

「ク……『クラウド』……? お、おい?」

「あ……ハァッ……ハァッ……ハァ……ハァ……」

「ウ、ウソだろ……? さっきはまだ落ち着いてたのに……」

 ぐったりと双眸を綴じ合わせ、肩で息をする『クラウド』。とりあえず、急いで汲んできた冷たい水に手布を浸す。それで汗を拭き、額を冷やしてやりながら、思いめぐらせた。

 この情景、前にもどこかで見た気がする……

 

 ……ああ、そうだ。

 ヴィンセントがモンスターから人々を助けるために、おぼれかけた時のこと……あのときはショック症状で熱が出たのだ。

 家に戻し、風呂に入れた直後は、落ち着きを取り戻したが、数分後容態は激変した。一挙に高熱が出て、物を食べるどころか、横になっているだけでさえつらそうだったヴィンセント……

 何度熱冷ましを飲ませようとしても、ほとんど意識の無かったヴィンセントはすぐに吐き戻してしまって要領を得なかったのだ。

 

「え、ええと……あ、あのとき、セフィが看てくれたんだよな…… お、俺……どうすれば……」

 あのときは、人事不省のヴィンセントに、セフィロスが熱冷ましを飲ませたのだ。結局俺は命じられるままに氷枕を作り、額を冷やすための氷水を汲んできただけであった。

 

「あ、ああ……そうだ。氷枕もいるよな……あ、あと……もっとタオル……」

 ガタガタと手が揺れ、せっかく汲んできた水をこぼしかけてしまう。

「バカッ! 落ち着け、俺!!」

 洗面器の氷を取り替えにキッチンへ行く。熱が高くて、何度もタオルを浸すとすぐに水になってしまうのだ。

 新しい氷を砕く指先が、情けなく震えているのを見取って、俺は自身を強く怒鳴りつけた。