うらしまリターンズ
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<14>
 
 クラウド・ストライフ(AC)
 

 

 

 

 

 

「……あ……おは……よ……」

 音を立てぬよう、扉を開けたのに、ヤツは目覚めていた。ガサガサに乾いた声音でそうつぶやくのがひどく痛々しく目に映った。

「ああ、目、覚めてたんだな。ちょうどよかった」

 そう言いながら傍らの椅子に腰掛ける。

「昨夜よりは少し落ち着いたかな。まだ食欲はないだろうから、あったかい飲み物作ってきた」

「……うん……」

「ほら、ホットレモン……砂糖いっぱい入れておいたから」

「ありがと……クラウド……作ってくれたんだ」

 微かに笑みを浮かべる『クラウド』。

「ああ。これなら飲めるだろ?」

「ん……」

 自分で身体を起こそうとするのを制止し、俺はヤツの背中を支えて起きあがらせてやった。熱と疲労で一晩中うなされていたせいだろうか。同じ『クラウド』とはいっても、俺より繊細そうに見えた彼の身体は、たった一夜でずいぶんと細くなってしまったような気がした。

 

「背中にクッション宛てるから……これなら楽だろ?」

「うん……」

「熱いからな……気をつけろよ」

「うん……」

 言われるがままに、カップに口を付ける。熱いといってやったせいか、ヤツは怖々……それでも、一口飲む。

「……甘い」

「だろ? おまえ、甘いの好きだしな。ホットレモンだから、多めに砂糖を入れたんだ」

「……おいし」

「ちゃんと全部飲めよ。レモンはビタミンCだからな。風邪のときはよけいに必要なんだ」

 ヴィンセントからの受け売りをそのまま口にすると、ヤツは素直に

「うん……」

 と頷いた。

 薬の苦みをごまかすために、相当量の砂糖を投入したのが返ってよかったのかもしれない。甘党の『クラウド』は、ゆっくりとだが、きちんとそれを飲み干してくれた。

 

「ハァ……美味しかった。こういうの、初めて……ハァ……」

 苦しげな息づかいをしているくせに、そんなことを辿々しくつぶやく『クラウド』。

「簡単だから、今度レオンにでも作ってもらえよ」

「レオン……うん……帰ってきてくれたら……言ってみる」

「バァ〜カ、すぐだよ。ほら、横になれ。身体温まってすぐに眠くなるはずだぞ」

「うん……」

 風邪引きの俺やカダージュに、ヴィンセントがよくしてくれるように、前髪をそっと撫で上げ、額にキスをする。

 おとなしく横になった彼に、もう一度口づけると、用意しておいた氷水で濡れタオルを絞った。

 そっと額に置いてやると、『クラウド』がふぅ……と深く吐息した。

「冷たすぎたか?」

「ううん……キモチイイ……ハァ……」

「さ、寝ろ。バラすとさ、さっきのホットレモン、薬混ぜてあったんだ。でも苦くなかったろ?」

 わざと茶目っ気たっぷりにそう言ってやる。熱に浮かされうるんだ双眸が、楽しげに細められた。

「うん……甘かった」

「な? ちゃんと薬も飲んだわけだし。すぐに楽になるから、いい子にして、ちゃんと眠れ」

「……ふふ……なんか、クラウド……レオンみたいな言い方……ハァ……ハッ……」

「なにが?」

「いい子にして〜しろって……レオン、いつもそうやって……オレのことなだめて……ハァ……ハァ……」

「そっか。……もうしゃべるな。疲れちゃうだろ?」

 掛け布団を肩口まで引き上げ、噛んで含めるようにそうささやいた。

「ん……ありがと……クラウド」

「礼なんていいって。安心して寝ろよ。……おやすみ」

 最後にもう一度だけ、ヤツの額に口づけると、俺はそっと室を後にした……

 

 

 

 

 この時点で、俺はあるひとつの決意を胸に秘めていた。

 大げさな言い方かもしれないが、そういってやるのにふさわしい決意だった。

 

 本当ならば、病床の『クラウド』の側に着き、彼の回復を待ってからレオンを連れ戻しに行くべきなのだろう。

 だが、それにはあまりに時間が掛かりすぎる。

 『クラウド』にはレオンがいないとダメなのだ。いくら俺が側について看病しても、身体の病は癒えるだろうが、心の疲弊は回復しない。

 俺は『クラウド』のことをまだ理解し切れていないのかも知れなかった。なんせ、ここにやってきて、今日でようやく三日目なのだ。

 この世界のセフィロスとの関わりの在り方……そして、『クラウド』にとってのレオンの存在の大きさ……

 すべて想像するくらいのことしかできはしない。

 

 高熱にうなされた夜中……ヤツがいったい何度レオンの名を呼んでいたか……

 額のタオルを代えてやったとき、涙の軌跡が痛々しく目に映った。

 

 ……レオンを連れ戻す。

 それも今すぐだ!

 

 できるかどうか……などと考えてはいなかった。

 『するんだ』と決めていたのだ。そして、それは決して不可能ではないと、説明のつかない確信を持っている俺であった。