うらしまリターンズ
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<18>
 
 クラウド・ストライフ(AC)
 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんで……? どうして、そんな」

「……そのようなこと、私にだとてわからぬ」

 ひどく素っ気なく『セフィロス』が言った。

「お、落ち着け、俺! よ、よし! そんで? ホロウバスティオンが何か不安定っぽいつーことは理解した。そのせいで、本来別次元にある世界や空間が繋がるんだな?」

「そう……その通り」

「で? 結局どうすればいいの? コスタ・デル・ソルに帰るためには、俺は……」

「……まもなく、さきほどの空気の対流……あそこが口を開き、おまえの帰るべき世界へと繋がるだろう」

 その言葉は、まるで神の啓示のように俺の頭の中に響き渡った。

「俺の……世界へ……繋がる……」

「そう。……だが喜ぶのはまだ早いぞ」

 前を見ていた『セフィロス』が、隣に立つ俺を見下ろした。……身長差があるので、側に近寄ると、本当に『見下ろされて』いるような感じで癪に障る。

 

 俺の世界へ繋がる空間……!

「喜ぶのは早いって……どういうこと? この中に飛びこめばコスタ・デル・ソルに辿り着くんでしょ!?」

「いかにも。……この空間はおまえの世界へ繋がる。……そうまもなくだ。だがな、クラウド……」

 彼は一度言葉を切った。そのおもてに何の感情も見取れぬままに、冷たく整った白い顔を眺めていた。

「……いつまで『この出入り口が開いているか』は私にもわからぬし、おまえが飛び込んだその瞬間、口を閉じるのかも知れない」

「そ、そんな! そしたら、レオンを……」

「……そう。あの男をここへ連れ戻すのは本格的に難しくなるだろう」

 平坦な口調で彼は言い放った。何の感慨も感じぬというように……

「おまえには、空間の連結を見つけ出す目は、備わっておらぬようだからな」

「……そ、そんな……」

「ああ、もちろん、『この空間の接点』が2、3時間、そのままである可能性もある」

「か、『可能性』って……そんなものに賭けろっていうの? そりゃ1時間もあれば、何とかレオンを探し出すことはできるかもしれないけど…… でも……」

「別に迷うことはあるまい?」

 そうささやいた『セフィロス』の声音はいっそやさしいほどに、穏やかであった。

「おまえは元の世界に恋人がいると言っていたではないか……その者のもとへ帰るのだと……以前もそう話していたな」

「そ、そりゃ……そうだけど」

「ならば、そろそろ準備をしろ。もう少しで空間が開くぞ」

 すっと右手をあげて、空気の対流にかざした。

「ちょっ……ちょっとォォ! 待ってよ! そ、そんな……俺だけ帰れたって、レオンは!? レオンを連れ戻してやらなきゃ、『クラウド』が……! あ、あいつ待ってんだぞ!? 今、体調崩して寝てるけど、ずっとレオンのこと……」

「……他人事だろう」

「『セフィロス』ッ! いい加減にしてよッ!」

 これまでのどの時以上の、大声で、俺は彼を怒鳴りつけた。

「………………」

「ア、アンタ、なんでそんなヒドイこと言うの? 『クラウド』のこと、気に入ってたんでしょ? 少なくともアンタと親しかったヤツの話だろーがッ!」

「………………」

「俺は、絶対にレオンを連れ戻す!絶対にだ! あいつに約束したんだッ! 必ず元に戻してやるって!」

「……だから……それは他人事だろう? 『おまえ』ではなく『クラウド』の……?」

「そうだよッ! 俺はあいつの友だちなんだよ! いや、もうダチっつーか、兄弟っつーか、弟みたいなモンなんだよ! 同じ『クラウド』同士だからな! そんなあいつがこっちの世界で不幸になったら、夢見が悪くて落ち着かなくてしょうがねーんだよッ!」

 ダンダンと、ガキのように地団駄を踏んで言い返した。

「……では、どうする……? このまま空間が開き……また閉じてゆくのを眺めているか……?」

「くっ……」

「……決めるのはおまえだ」

 『セフィロス』は厳かにそう言った。

「くっ…… ど、どうしよ…… ね、ねぇ、空間の連結って、どれくらいの間隔で起こるの? これ見逃したら、次はいつ?」

「……さァ……? 一時間後か……一週間後か……一月後か…… 二度もおまえが行き来しているところをみると、コスタ・デル・ソルという場所はここと磁場が近いのだろう。……ならば一年後ということはなかろうがな……クックックッ」

「もぉ! 笑わないでよ! イライラすんじゃん!」

 怒鳴りつけて『セフィロス』を黙らせ、俺は頭を抱えた。彼に八つ当たりしても仕方がない。この人の言っていることはすべて事実なのだろう。

「……ねぇ、この場所がコスタ・デル・ソルと繋がっているんなら、コスタ・デル・ソルにもここへ繋がる空間があるってことだよね」

「……もちろん」

「……アンタ、この場所でそれを見つけられるってことは……」

 俺は言葉を続けた。

「……なんだ?」

「……万一、この空間がすぐに閉じてしまったとしても、コスタ・デル・ソルからでもアンタなら、空間の連結を感じることができるんじゃないか?」

「……まぁ……そういうことになるな」

 『セフィロス』は静かに応えた。俺の意図を読み取ろうともしていないのだろうか。

 風の対流がいよいよ激しくなってきた。鈍感な俺でさえも微かに感じ取れるのだから。 風にあおられ、『セフィロス』の長い銀の髪が、ふわりと舞った様を見て、確信した……もう、悩む時間すらもない!

 

「セ、『セフィロス』!」

 俺は意を決して、彼の名を呼んだ。

 そして願いを口にする直前に、部屋の中央が陽炎のようにゆらめいた。

「……空間が……繋がった」

 『セフィロス』がささやいた。

 もう、迷っている場合ではなかった。

 この機会を逃したからといって有用な策はなかったし、なにより、次に空間が繋がるのがそれこそ一年後ではたまらない。

 俺はまさしく狩人に追いかけられた兎のように、『セフィロス』に飛びつくと、思いの外骨ばった二の腕を、両腕でガッシとばかりに絡み締めた。

「む……ッ なにを……!」

「ご、ごめん! ごめん、ホント、ごめんなさいッ! でも、もうこれしかないのーッ!」

 そのままのイキオイで、揺らめく空間に身を投じた。当然『セフィロス』も一緒にだ。

「ごめんなさーいッ!」

「……おいッ!」

「ヒヤァァ! 落ちるーッ!!」

「クッ……あああッ……!」

 俺たちの身体は、慣性の法則に従い、まっすぐ無為の空間を落ちて行った…

 


  

 

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