うらしまリターンズ
〜クラウド in ホロウバスティオン〜
<19>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

 

 

「……うん、大分落ち着いてるから……薬、効いたみたいね」

「ああ、本当にすまなかった。迷惑をかけた」

「迷惑なんかじゃ、ないよ。クラウド……友だちだし。うふふ、両方の『クラウド』とも、ね。レオンも仲間じゃない」

「あ、ああ……ありがとう、エアリス」

「じゃ……こっちの……これ、洗濯済んでるから。目、覚めたら着替えさせてあげて。汗、大分かいてるはずだから」

「わかった」                                           

「お薬、こっちね」

「ああ」

「……じゃ、お大事にね」

 そうささやくと、エアリスは緑色の大きな瞳を、やわらかく細めた。淡い光がこぼれ落ちるかのようだ。

 必要なことのみ、きちんと伝え、何の詮索もせずに帰ってくれた彼女に、俺は心から感謝した。

 

 自宅に到着したのは、今からほんの10分前くらいだった。

 案の定……というか、コスタ・デル・ソルから辿り着いたのは、ホロウバスティオンの城の中であった。いわくありげな寝室の、絨毯の上に放り出される形となったのだった。

 だが、俺のすぐ後に続いたはずの、『セフィロス』の姿が見えない。

 彼のような人物に万一のこと……は考えにくいが、いやだからこそ、ああいった人は、とんでもないハプニングに見舞われるのではないか。瞬間的にそう感じただけだ。直感のようなものである。だいたいあのクラウドの人質(?)になって、コスタ・デル・ソルにやってきたことこそ、予想外の展開だったはずだ。

 憮然として、ほとんど口を聞くことの無かった『セフィロス』。普段からしゃべる人ではないが、『不快』をあそこまであからさまにした姿は、初めて見たような気がする。

 

 あちらの世界のクラウドから、『クラウド』のただならぬ状況を聞きつけた身としては、どうしてもすぐに家に帰らざるを得なかった。そこまで切迫した状況でなければ、あのまま『セフィロス』の姿を探し求めていたことだろう。

 だが、今は、クラウドに言われたように、自宅に戻るのが最優先である。なにより『クラウド』のことが心配でたまらなかったし、『セフィロス』の行き先についても、一旦落ち着いてから、よく考えるべきだろう。無表情の無関心男といわれる俺だが、今回ばかりはさすがに色々と在りすぎた。冷静とは言い難い精神状態である。

 無為にフラフラと宛てもなく捜し回っても、時間を無駄にするだけかもしれない。

 そう考え、城門の近くに停めてあったバイクを飛ばし(おそらく、クラウドのものだろう)、即座に帰宅したのだ。

 

 

 

 

 エアリスが出ていってしまうと、なんとなく家の中が殺風景になったような気がした。いつもと変わらない、自分の家なのに。

 やはり女性が居るのと居ないのでは華やぎが違うのだろうし、ここ数日世話になっていたのが、南国コスタ・デル・ソルの家だったのだ。大人数でにぎやかだったし、ハウスキーパーを自任していたヴィンセントさんは、いつでも家の中に花を絶やさなかった。調度品、ひとつをとっても工夫と調和を大切に、心が尽くされていた。

 正直、俺自身、到底フレンドリーな人間とはいえない。四角四面で、融通の利かない、さらには気も利かないつまらぬ男なのに、あそこは何と居心地のよい場所だったことか。

 それはあの家自体の在りようと、住む人々の人柄があの素晴らしい空間を作りだしているとしか考えようがなかった。

 

 

「……ん……あ……」

 掠れた声が耳に入って、俺は弾かれたように、彼の枕辺に駆け寄った。ずっと眠り込んでいた『クラウド』がようやく目覚めたのだろうか。

「クラウド……?」

「ん……あ……ハァ……ハァ……」

 寝言だろうか? 夢を見てうなされているのか……?

「ハァ……ハァ……ん……あ…… レオ……ン…… ……レオン……」

「クラウド……? クラウド? しっかりしろ!」

 安らかならばよいのだが、悪夢にうなされているなら起こしてやったほうがいい。エアリスもずっと眠りっぱなしといっていたし、いっそ起こして薬を飲ませてやろうと考える。

「クラウド? クラウド……! 目を覚ませ! おい、しっかりしろ」

「ハァ……ハァ……ん……」

「クラウド!」

 ためらいながらも、やや強い力で俺は彼を抱き起こした。

 すると、熱に浮かされていたクラウドも、ようやくぼんやりと目を開けてくれた。見慣れた海の色の瞳が、おぼろげに光を得た。