スポーツの秋物語<1>
  
 
 土浦 梁太郎
 

 

 

 星奏学園は秋に行事が多い。

 まぁ、どの学校も秋というのは、やれ体育祭だの文化祭だのというイベントが目白押しになりがちなのだが、星奏学園も例外ではないということだ。

 さんざんだった夏の合宿については、『真夏の夜の夢』を読んでくれた人たちはよく知っているだろう。夏休みの初っぱなにああいうことがあったので、その後も何となく調子がでないままに二学期が始まってしまった。

 しかし、こんなテンションをいつまでも引きずるつもりはない。

 オレ、土浦梁太郎にとっては、スポーツの秋、食欲の秋だ。

 当然、部活のサッカーでは、秋の新人戦があるし、夏休み明けの九月の終わりにはさっそく体育祭がある。

 ピアノは俺にとって、とても大切なものであるに違いはないし、その気持ちは今でも変わっていない。そうでなければ、定演のための合宿なんぞに顔を出したりはしねぇ。

 だが、身体を動かすことも、俺の日常生活にはなくてはならない、活性剤であるのだ。いざ、体育祭ともなれば、学年対抗になる場面も出てくる。やっぱり先輩相手に勝利を収めるのは、どんな競技であっても気持ちがいいもんだ。

 

 

 

 

 

 

「土浦、なんか楽しそうじゃない?」

 斜め前の席から、声が掛かる。

 二学期からの転校生である、加地……加地葵は、すでにすっかりクラスにとけこんでいる。初回のあいさつから気負う様子はなく、非常にフレンドリーに皆に接している。

 ツラもいい、勉強もできるとなれば、人に嫌われるはずもない。特に女子からの人気はたいしたもので、誰か特定の彼女がいないとわかると、女どものまなざしもさらに熱がこもるというものだ。

「まーな、やっぱ体育祭となりゃーよ。日頃、運動部で鍛えている腕の見せ所だぜ」

 ガッツポーズを見せて、俺はそう言った。

「わあ、土浦、熱いなぁ。でもいいよね、共学の体育祭って。花はあるし、競技の数は多いし」

「ああ、おまえ男子校だったっけな」

「そうだよ、もうなんていうか男臭くてね〜」

「俺はむしろそっちのほうが気楽でいいけどな」

 本音でそういったのであったが、加地はチッチッと指を立てて、ワイパーのように振って見せた。

「それは男子校の体育祭を知らない幸せ者のセリフだよ。それに土浦だって女の子が嫌いなわけじゃないだろ?」

「女はめんどくせー。怖がられるし、いちいち気ィ使うのが煩わしいんだよ」

 スポーツバッグに教科書を詰め込みながらそう応える。

「ああ、まぁ、その辺は土浦の場合は確かにね。でも、影で君に憧れている女子もかなり多いようだよ。なかなか面と向かっては口にできないんだろうけど」

「だからそういうのが面倒だってんだよ、言いたいことがありゃ、直接言やいいじゃねーか」

 口を尖らせてそういうと、加地は大げさな身振りで、やれやれと頭を振った。

「まぁ、そういうところも、君のいいところなんだろうけどね。ところで、明日は参加競技を決めるんだよね、体育委員さん?」

 そう、俺は体育委員なのだ。基本的に普通科は誰でも何らかの係を受け持たされる。学級委員だの、風紀委員だのと違って、体育委員の出番はほぼこの年に一度の体育祭に集約されているといっても過言ではない。もちろん、普段の体育の授業で準備を手伝ったりなどの軽作業はあるが。