スポーツの秋物語<2>
  
 
 土浦 梁太郎
 

  

「土浦、出る種目決めてあるの?」

 加地がそう訊ねてきた。

「まぁな。全部希望どおりってわけにゃいかねーだろうけど、走り系には出るつもりだ」

「あー、リレーとか?」

「長距離走は毎年参加希望者がなかなかいないからな。その辺は場合に寄っちゃ出るつもり。リレー? クラス対抗リレーは全員参加だろ」

「イベント系にも出ようよ。俺は大玉送りとか、玉入れとかも楽しみにしてるんだけど。それに騎馬戦や、障害物競走なんかもあったよね」

 ひどく楽しげに加地が言った。

 だが、加地はこのクラスにおいて、非常に重要な戦力なのだ。いわゆるイベント系の種目は、学年対抗などの要素が高く、クラス得点にはなりにくい。

「加地〜。おまえはリレー頼むぜ。全員参加のほうじゃなく、選抜リレーな。それから短距離の100m走も行ってくれ」

「なんだよ、体育委員横暴!」

「あー、もちろん、玉入れだの綱引きだのに出んのはかまわないけどよ。真剣勝負の種目もちゃんと考えておいてくれよ」

「まぁ、俺も走るの嫌いじゃないし、できるだけ協力するよ。二人三脚は?一緒に走る子決まってんの?」

 男子校出身だという加地は、子どものように目をキラキラさせながら訊いてくる。

「はぁ?そんな競技あったっけ…… ああ、余興の部分な。教師とかも出るヤツだろ。無得点だし、眼中にねーよ」

「おまえはホント、勝ち負けしか頭にないんだなぁ」

 呆れたように加地が言った。いつの間にか『君』が『おまえ』に変わっている。

「体育祭だぜ。やるからには勝つんだよ」

「そう、体育『祭』なんだよ? お祭りなんだからさ、楽しまなきゃ損じゃない。二人三脚は、下級生と組んでもOKだし、音楽科の生徒とでもいいんでしょ。それがきっかけで仲良くなるケースもあるんだから、土浦もお目当ての子がいるんなら……」

「あー、ないない」

 俺は加地の言葉を遮った。

 

 

 

 

 

 

「そーゆーのはマジで興味ない。まぁ、一応体育委員としては、種目にあるんだから、なるべく参加して欲しいと思うけどな。俺自身は役に立たねーわ」

「決めつけちゃうのもつまらないと思うけどね。でも、とりあえず土浦がフリーなのはわかったよ。いや、いろいろ訊かれちゃってさ」

「なんだそれ?」

「土浦が人気者だって話だよ。それじゃ、俺はこれで」

 そういうと、加地はさっさとカバンを持って退場していった。

 しかし、なにが『人気者』だ。このデカイ図体と、無愛想なツラのおかげで、女子生徒には避けられまくりなのをもう知っているくせに。

 ちなみに加地は二学期からの普通科への転校生で、俺とは偶然同じクラスになったのだ。見かけはチャラ男だが、なかなか根性の座った野郎で、俺はそれを夏の合宿で知ることになったのだ。

 先にもちらりと触れたが、夏のテスト休暇期間を利用して、俺たちコンクール出場者は軽井沢の山荘へ合宿に行ったのだ。地元のオケのコンサートで、前座として参加して欲しいという要請に応えてのことであったが、ここで俺たちはものすごい体験をすることになる。冗談ではなく生死を分かつ状況下をかいくぐり、無事こうして日常生活に戻れたのだ。

 まあ、その詳細については割愛するが、そのとき加地がずいぶんと周到に立ち回ってくれたのだ。ご存じのとおりコンクール参加者のメンツに鑑みれば、緊急下で実行部隊となって動ける輩は少ない。……というか、ほぼ皆無とさえいえるだろう。

 そんな中で冷静な状況判断と、その身体能力をいかんなく発揮してくれた加地には感謝しているのだ。

 

 ああ、そう、話は体育祭のことだったな。

 普通科は全員参加だが、音楽科については、有志のチームが一クラス分程度毎年出ている。火原さんなんぞは、一年のころから毎年名乗りを上げているらしい。星奏学院はそれほど生徒数の多い学校ではないから、体育委員のくじ引きという単純な方法で、毎年ランダムで紅白青の三色に分けるのだ。

 もちろん、一年生クラスが多く偏った組はやや不利になるし、上級生クラスで占められた組は有利にもなる。

 だが、今年は比較的まんべんなく学年別に分散され、なかなか良い勝負になりそうなのだ。俺としては白組優勝と、クラスの勝利を目指すのみだ。単独でのクラス優勝などはもちろんないが、各組への配点とはいえ、クラス対抗種目もあるのでそういったものにはやはり勝ちたいではないか。

 俺は頭の中でいろいろと種目別の振り分けなどをシュミュレートしながら、帰途についたのであった。