スポーツの秋物語<3>
  
 
 土浦 梁太郎
 

  

「おーし、次〜。100m走な。男女五名ずつ〜。希望者は挙手!」

 慣れない司会進行をつとめるのはしんどい。

 しかし、これも、体育委員のシゴトだ。他の委員会と違って、一年の通してこの時期だけ働けばよいので、俺と同じ目的で、体育委員を希望する輩は存外多いらしい。

 もっともウチのクラスでは、幸い競合する相手がいなかったので、すんなりと俺に決まってくれたわけだが。

「おい、みんな、なるべく立候補してくれよな〜。この前の50mタイム良かった奴、前から順番にキメてくぞ〜」

 俺がそう言うと、「体育委員、横暴!」だのと、おもしろ半分にブーイングをかましてくる輩もいるが、ちらほらと立候補者もあらわれる。

 女子も、タイムが良いと自覚している運動部の連中が、素直に手を上げてくれたので、彼女たちはそのまま決定ということにさせてもらった。

 男子の方は、一応俺が自薦すると、加地もへらへら笑いながら手を上げてくれた。

 

 ……よし、これで計十名。なかなかよいメンツが選ばれたのではないかと思う。

 その後、俺は1500m走、騎馬戦などにエントリーすることになり、まぁ、体育委員としてのメンツは立ったのではないかと思う。ちなみにクラスリレーでは、加地がスターター、俺はアンカーだ。

 責任は重いが、やり遂げる自信がないわけではない。

 

「えーと、後、大玉送りと玉入れは、もう出席番号とかでいいか?出たい奴いる?」

 そう訊ねると、100m走だの、1500m走だのの選手を決めたときとはまるきり異なり、驚くほどに、ハイハイと手が上がるのだった。

 もっけの幸いということで、次々に参加者を決めていき、もたつくことはなかった。

 

「えーと、それじゃあ、残りは二人一組の障害物競走だな。こいつは自由エントリーだから、参加希望者は、ペアを決めてからエントリーしてくれ。この競技は色分けの組さえ同じなら、他のクラスの奴や学年が違う奴と組んでもOKだ。チーム点はつくし、なるべく参加してくれよ〜」

 人ごとのようにそう呼びかけると、俺はさっさとホームルームの時間を終了させた。

 

 

 

 

 

 

「なんていうかあっさりだったねー」

 黒板を消して、席に戻ると呆れた風に加地が言った。

「いいだろ、さくっと決まったんだし」

「なんか圧力かけてなかった。特に運動部に」

 からかうような加地の言葉に、

「体育祭だからな。ここはひとつがんばってもらわんと」

 と応える。

「ま、1500m走まで引き受けている土浦相手に反対意見は出ないだろうけどさ」

「おう、加地、おめーもマジで走れよ」

「わかってるよ。ああ、そういえば、白組は音楽科の有志クラスも入ってるんだよな。どっちかっていうと、火原さんたちとは競争したかったけど」

 そうなのだ。

 前にも言ったとおり、音楽科の体育祭参加は強制ではない。希望者のみの有志チームが、紅、白、青の三組のうち、どれかにランダムで配置されるのだ。今年は俺たち白組の一員ということで、一緒に戦う仲間ということになる。

 おそらく今年も、火原さんなどは参加しているに違いないから、味方になるよりも、ライバルとして競争したかったと加地は言っているのだ。

「ああ、確かに火原さんとは球技大会でもぶつかったしなー。でも、あっちは三年だし、最後の体育祭で味方同士っていうのも、悪くはないんじゃないのか」

「まぁね、そう言う考え方もあるけど」

「……あ、ヤベ。これから体育委員会なんだ。なんかいろいろ細かい役割分担決めるらしい」

「ああ、ご苦労様、体育委員さん」

 加地のおどけた物言いに、

「まぁ、一年でこの時期だけだからよ。じゃ、さっさと行ってくるワ」

 といって、席を立つ。

「いってらっしゃーい。あ、俺、この後図書室寄って学食行くから、よかったら来てよ。数学の宿題やってちゃおーよ」

 気軽に加地が誘ってくる。こいつは自称、『完全文系男』だそうで、数学だの物理だののたぐいは好きでないらしい。その反対に、古文の課題を訊きたかった俺とは、相互補完というか……なかなか、お助かりな友人なのだ。

「あー、時間掛かるかも知れないけど終わったら寄るわ。俺は古文な」

 加地にそう言い置くと、カバンに教科書だのを詰め込み、委員会の行なわれる教室に足を運んだ。