夜明け前
<22>
 
 
 石田三成
 

  

 

 急げ……急げッ、早く!

 俺は振り落とされないように、必死に馬にしがみついた。

 孫呉の軍勢を率いて、一刻も早く曹丕の加勢をしなければならない。

 追いつかれるのはある程度想定していた。なんせ、この地には遠呂智軍のほうがずっと多くいるのだから。

 孫呉の軍勢と合流した後は、この大陸でも遠呂智軍が支配していない北方の土地を、我らが軍の拠点とする予定なのだ。もちろん、そうできるように、遠呂智の軍勢との戦線を南に押していかなければならない。

 つまり、我々は南東の旧拠点から軍を率いて、北西の海岸を目指して北上してきたのだ。

 そして、そのわれらに、遠呂智軍が気付いて追ってきた構図になっている。ただし、本隊ではなく、遠呂智軍の一部だけだ。

 想定内だ。

 十分想定内の動きだ。

 

 曹丕がやられることはない。必ず生き残るはずだ……!

 

 戦場から半刻も走っただろうか。

 

「殿ーッ!」

 という聞き慣れた声が、唐突に俺の耳に入った。

「さ……左近ッ!左近ーッ!」

 丘陵の下で軍を展開しているのは、間違いなく呉軍だ。

 左近だ、左近が生きている……!

 

 我らが軍勢に気付いた孫呉の軍が、一斉に後に付いてきてくれる。

 思った以上に数が多い。

 よし……!十分だ。これならば、すぐに曹丕の軍と合流すれば、味方の被害を最小限に……

 

「殿、ご無事で」

 ……左近。

 島左近が、馬を駆けて俺に並んだ。

 ああ、左近だ……よかった無事で……

「左近……遅いぞ」

「すいません、ひとりにして」

「バカ……」

 俺は悪態を吐いたが、左近は見慣れた笑顔で、笑い返してきた。

「殿に怪我がなくて良かった」

「お、俺は大丈夫だ。曹丕が孤軍奮闘している。急ぐぞ!」

「そのお人が殿を守ってくださった御仁なのですな。よし絶対死なせるわけにはいきませんね」

 と、左近が言った。

「ま、守ってやったのは俺の方だ!行くぞッ」

 そう怒鳴り返すと、一気に馬を駆けた。