虎と狐
<13>
 
 
 加藤清正
 

    

 

 なおも帯に手を伸ばす三成から、俺は思わず後ずさって逃げた。

 なぜ俺が女役のように、焦って逃げ回らなければならないんだ。

「逃げるな、清正」

「い、いや、待て。やっぱり今は良くない」

 片手をあげて、三成を止めた。

「なんだ、この期に及んで。何か文句があるのか」

「ほ、ほら俺、最近全然自分でもしてないし……」

「だったら尚のこと溜まっているだろう。全部出せば気持ちいいぞ」

「ど、どうしておまえはそういうことを、いけしゃあしゃあと言うんだよ。恥ずかしくないのか」

 戦場で手を貸したり、もっと卑近な例でいうなら、泥道で手をとってやったりするときなどは、ものすごく恥じらって、ときには怒り出したりするクセに、どう考えてもおかしいだろう。

「恥ずかしい……?いや、俺は別に」

 頬を染めることもなく、彼はあっさりと否定した。魚の骨が上手く外せなくて、真っ赤になるようなヤツがどうしてだ!?

「ほら、手をどけろ。ああ、着物は脱いでおけよ」

 どこまでも上から目線で言われて、俺は覚悟を決めた。

 身体の欲求は事実だったし、こうまで言われて逃げ回るのもバカバカしいと感じたからだ。三成が俺を特別だと言うのだ。これからの行為は彼にとって、『したいこと』であっって、決して『嫌なこと』ではないであろうから。

「おい……言っておくけど、俺は本当に手、使えないぞ」

「知っている。今夜は特別だ。全部してやるから」

 そういうと三成は、するすると羽織物を脱ぎ捨て、下帯を外した。

 月明かりの中にぼうっと浮かび上がる白い姿態は、目を奪われるほどに美しかった。

 

 

 

 

 

 

 三成は俺の下帯もあっさり外してしまうと、迷わずそれを口に咥えた。

 半ば勃ちかけていたモノは、しっとりとした彼の口腔内で、すぐに固くなった。俺の股間に顔を埋め、口いっぱいに咥える三成だ。ずるりと喉の奥まで招き入れ、軟口蓋で軽くしごく。時折軽く歯を立てられると、それ以上はもう我慢が続きそうになかった。

 我ながら早すぎるとは思ったが、三成の頬に手を添えて、限界を知らせた。

「……もう、出るから……外せ」

 そう言ったのに、三成は口からそれを吐き出そうとはしなかった。

「……み、三成……ッ!」

 ズル、グシュ、ピチャと耳にするだけで、恥ずかしさで死にたくなるような水音が聞こえる。頭がぼうっと熱くなり、下肢に力が入らなくなった。

「くっ……あぁ!」

 ずっと我慢していたそれを、俺は三成の口の中に吐き出した。

「かはっ……げほっごほっ」

「ああ、すまん!」

 俺は慌てて手ぬぐいを渡し、三成の背をさすってやった。まさか嚥下しようと、そのまま口に入れているはずはないと思っていたのに。

「大丈夫だ」

 そういうと、ぐいと口を拭った。堂々としたその有様に、なぜか男らしさを感じてしまう俺であった。三成自身は、華奢な白い身体をしているせいか、ひどくなまめかしい雰囲気なのに、こういうときの行動がいちいち『しっかりしている』のだ。

「どうだ、よかったか?」

 と率直に訊ねられたので、俺は素直に頷いた。

「言っておくがまだ終わりじゃないからな」

 そういうと、今は萎えてしぼんでいるそれを手に取った。