Day after tomorrow
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<2>
 
 セフィロス
 

 

   

「……何、その話。俺、聞いてないんだけど」

 案の定、クラウドが疑念の目を向けてくる。

「あ、ああ、クラウドは一緒ではなかったからな。……セフィロスとその……ルクレッツィアのことで、旅行に出掛けたとき、帰りにゴールドソーサーに寄って、それで……」

「あぁ、皆まで言わんでいい、そういうことは!」

 真面目に説明しようとするヴィンセントを遮って、オレは声を上げた。

「とにかく、オレのことは放っておけ。おまえらみんなで行ってこい」

 強引に話を切り上げて、オレは自室に戻った。

 ヴィンセントの手を振り切るのは、少々可哀想に感じたが、そういつもいつも言いなりなってはいられない。

 

 私室に入ると、ベッドの上に放り出したままの携帯を手に取り、着信がないか確認する。

 事態に進展があれば、レノから連絡が入るはずだ。

 地下崩落の事故現場では、状態の確認にも時間がかかるだろう。それはわかっていた。

 わかっているはずだった。頭ではだ。

 

 とにかくオレは、一刻も早くネロとヴァイスの骸が見つかることを願っていた。

 この目で、もう二度と、DGソルジャーと相まみえることはないと認知したかった。

 連中に対し、心のどこかで同情しているヴィンセントは、一時的に悲しむかもしれない。だが、それで後顧の憂いは消える。ヤツがふたたびDGソルジャーの影に怯える必要はなくなる。

 

「チッ……この手でしっかりととどめを刺してきさえすれば……オレもヤキが回ったもんだぜ」

 そうぼやいたときだった。

「誰のヤキが回ったって?」

 と涼しい声が追いかけてきた。イロケムシだ。

 どうやらオレの後を付けてきていたらしい。

 

 

 

 

 

 

「ノックも無しに、ドアを開くな」

 文句を言うオレに、

「普段、みんなのプライバシーの侵害ばかりしているあなたに言われたくないけど」

 と、やり返してくる。

 そのまま、ツカツカと部屋に入ってくると、オレの前のソファに腰を下ろした。

「……ね、レノから連絡ないの?」

 オレの心境などお見通しというように、懸念事項を訊ねてきた。まったくもってかわいげの無いヤツだ。

「今のところはまだだ。……なんといっても地下崩落だ。状況の確認に時間がかかるのは致し方あるまい」

「……なんだか、あなた、自分自身に言い聞かせているみたいだね」

「別にそんなんじゃない。話がないなら出て行け」

 しっしっと手振りで追い払ったが、ヤツは出て行こうとはしなかった。

 

「……ねぇ、ゴールドソーサーのことなんだけどさ」

「一緒には行かねーぞ」

 先手を打ってそう言い放った。

「どうしてよ。カダの快気祝いなんだよ?」

「そんなのは、もうウチで嫌というほど、パーティだのなんだのとやったろ」

 実際、前回の採血の際、もうほとんど大丈夫だろうと言われて、この家では盛大なお祝い会とやらをやったのだ。カダージュの友だちまで呼んでだ。もちろん、オレはいきつけのバーに逃げていたが。

「これまでのパーティとはまた別口だよ。うちの人間だけで行くんだから」

「…………」

「献血までしてくれたあなたが一緒に来てくれないんじゃ、片手落ちじゃない。ヴィンセントなんて、可哀想なくらい気落ちしているし」

「いちいちあいつを引き合いに出すな。……オレは人混みが嫌いなんだ。何が悲しくて、自ら騒音と混雑の海にダイブしなきゃなんねーんだ」

 これは本音である。

「まぁ、あなたにゴールドソーサーが似合いだとは俺も思わないけど……今度ばかりは付き合ってよ。ネロたちの話題が出たとき、俺じゃ、まともに返事ができなさそうだ」

 ……こっちもヤズーの本音なのだろうか。ヤツにしてはめずらしくへこたれたことを口にするのであった。