Day after tomorrow
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<3>
 
 セフィロス
 

 

   

「適当にごまかしておけばいいだろう。それにわざわざゴールドソーサーに来てまで、そんな話題を口にするヤツがいるとは思えんがな」

「お子様組が不用意に話題にするかもしれないじゃない」

 そんなやり取りをしているときだった。

 唐突に携帯が鳴ったのだ。反射的に、オレはそいつを引ったくって電話口に出た。

「うおっ、なんだ、びっくりしたぞ、と」

「レノか。定時連絡だな。おせーぞ」

 あたりまえのようにして、ヤズーが受話器に耳を寄せてくる。

 長い髪が鬱陶しくてヤツを押し返すが、それでも内容が気になるんだろう。身体を寄せて話を聞き取ろうとするのだ。

「時間がもったいない。早く話せ。状況はどうなんだ」

「ああ、今日、ようやく、地下ホール……というか、DGソルジャーが多く閉じこめられていた場所まで、掘削作業が進んだぞ、と」

「それで?」

 続きを促す。

「この場所はずいぶんと頑丈にできているらしかったが、ホールの半分は崩落して原型を留めていない。あんたらが言っていたDGソルジャーの死骸はわんさかと出てきたがな」

「生きているヤツはいなかったのか?」

「そいつは無理な話だぞ、と。延焼はここまで進んでいて、何より酸素がなかったからな。崩落でつぶされた奴らと、炎に巻き込まれた連中……ひでぇもんだぜ」

 散々なありさまだったのだろう。レノの声がうんざりとした響きを持った。

「……ネロとヴァイスは?」

「まぁ、待ってくれや。さっきも言ったとおり、地下ホールまでしか掘削が進んでいないんだぞ、と。そこから先は火の海だったんだ。掘り返すも何も……」

「やはり連中の死骸は見つからないんだな」

「無茶言ってくれるぜ。とにかく何かわかったら知らせるぞ、と。悪ィけど、気長に待ってくれとしか言いようが……」

 オレは一つため息を吐くと、

「もういい」

 と言って電話を切った。

 

 

 

 

 

 

「聞いてのとおりだ。あの爆発の後だ。レノのいうとおり、ホールから先に進むのは難しいだろうよ」

 イロケムシはしばらくの間、下を向いたまま黙り込んでいた。

「ねぇ……」

 少ししてから、口を開く。小さな声だった。

「……あなたはどう思っているの。率直に言って」

「何がだ」

「決まっているでしょう。ネロたちがどうなったかだよ。本当に死んだと思う?」

 挑むような口調で訊ねてくる。

「……ヴァイスは死んだだろう。ネロが細胞移植などを考えるような有様だったからな」

「ヴァイスは……か」

「常識的に考えれば、ネロもあの怪我で大爆発の中だ。助かるはずがない。……だが、オレはこと連中に限っては、常識論では片付けられないと考えている」

 オレは考えていることを正直に口にした。イロケムシ相手に隠していても仕方のないことだ。

「……だから油断はしない」

「……そうだね。あなたの言うとおりだ」

「だが、家の連中には……」

 そう言いかけた言葉を、ヤツは片手で遮った。

「野暮なことは言いっこなしだよ。もちろん、うちの人たちにはそんな話、する必要ないからね。……ネロたちのことはあれでおしまい。そう思わせておいた方が良い」

「そのとおりだ。オレが気を付けていればいいことだ」

「俺たちって言ってよ。……俺も十分気にしておく。二度と今度みたいなことがないように」

 噛みしめるようにそういう男に、口を挟んでやる。

「おまえはいい。……よけいに過保護になって、うざったがられるだけだぞ。いずれにせよ、近々にどいうこうということはないだろ。安心してゴールドソーサーに行ってこい」

「えぇ、ちょっと、その話に戻るの?だったら、尚のこと、一緒に来てよ、セフィロス。あなただけ残るとなると、何か懸念事項があるんじゃないかと気を回されちゃうよ」

 いかにももっともらしいことを言ってくる。相変わらず頭の回る野郎だ。

「…………」

「ほんの気晴らしだと思えばいいじゃない。この一月、みんななんとなくこもりがちになってたし、あなただってそうでしょう」

「……遊びに行きたきゃ、他をあたる」

「素直じゃないなぁ。うるさい遊園地が嫌だっていうなら、昼間はホテルで昼寝でもしてりゃいいじゃない。ね?いいでしょ?決まり!」

 勝手なことをほざく男に、悪態をついてやる。

「なんで無理やりオレを誘い出す。てめぇは弟がいりゃそれでいいんだろ」

「なんでって、決まってんでしょ。ヴィンセントががっかりしているからだよ。カダの世話でもいろいろと頼っちゃったから。せっかく行くんなら、彼に楽しい思いをしてもらわないと」

「ったく、あいつはなんて物好きなんだろうな」

「その点については、オレも同感だね」

 ヤズーのヤツがぬけぬけとそう言った時だった。

 部屋のドアが不意に開いたのだ。