Day after tomorrow
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<6>
 
 セフィロス
 

 

   

「すまないが、一休みしてもよいだろうか」

 クラウドへともオレへともつかぬような物言いでヴィンセントが言う。

「好きにしろ。オレは自分の部屋へ行って寝る」

 そう告げて、イロケムシたちの三人部屋を出ていこうとするオレの腕を、ヴィンセントが慌てて取った。

「セ、セフィロス……そんな……まだ陽も高いのだから……」

「ここに来る間だけで疲れた。十分眠れるからオレのことは気にするな」

「だ、だが、せっかく皆でやってきたのに…… クラウドだって、君と一緒に行きたいはずだ。な……?クラウド」

「え、あ~、まぁね」

 ……ヴィンセントとふたりきりがいいくせに。

 正直にそう言えない、情けない男だ。

「ようやくうるさいギンパツたちがいなくなったんだ。おまえらはデートを楽しんでこい。じゃあな」

「あ、ちょっとセフィ!お茶くらい飲んでいけよ。それに少しくらい興味あるだろ。園内見て回るくらいはいいじゃん。つきあってよ」

 そう言っている間に、ヴィンセントが茶器を置いてくれる。テーマパークに備え付けの茶葉にしては、なかなか香りの良いそれを手に取り、啜ると、ようやく人心地着いたような気分になった。

「疲れてるというのは本当のことだ。行きたくなったら、ひとりで出掛けるからおまえらは気にせずに出てこい。あー、茶が旨い」

「セフィ、おじさんくさいよ」

「黙れ、アホチョコボ。おまえもハタチ超えて、よくこんな場所ではしゃげるな」

 嫌みではなく、本心からつくづくとつぶやくと、クラウドは顔を上気させて頬をふくらませた。

「家中みんなでテーマパークってだけで、テンション上がるだろ。俺だって、ここでゆっくり遊べるの、子どもの頃セフィと来て以来なんだぞ」

「…………」

 昔の話を持ち出され、すぐに言い返すことができなくなる。

 田舎育ちのクラウドは、やれ人工島だの遊園地、テーマパークが大好きなガキだった。イルミネーションの光に目を輝かせていた当時を思い出してしまう。

「あの頃は、セフィも一緒にいろいろ乗ってくれたじゃんよ。なぁ、出掛けよ?ヴィンセントもいるんだし、三人のほうが楽しいだろ」

「はぁ…… ったくおまえは……」

「お茶飲んでからでいいからさ。ね、セフィ」

 そう、こいつはガキの頃からおねだり上手の甘え上手だった。

「仕方ねぇな。少しだけだぞ」

 どうも、ヴィンセントとクラウド相手だと、譲歩ばかりしているような気分になる。

 だが、初日だけだ。翌日からは絶対に部屋で寝ていると心に決め、オレは重い腰を持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

「うっわぁ~……すごーい、ホントきらびやかだなぁ」

 今にも走り出しそうなのを我慢してクラウドが叫ぶ。

 子どもの頃は、オレの手を引っ張って歩き回ったものだ。

「昔よりも、ずっと派手になったよね、セフィ?」

「そうか。オレはよく憶えていない」

「なったってば、あの頃はこんなに花火上がってなかったし、ホログラムの数も増えてる」

 そういうクラウドに、興味深そうに、ヴィンセントが語りかける。

「クラウドがセフィロスと一緒にここへ来たのはいくつくらいの話なのだ?」

「ええっとねぇ……俺が15になったばっかのころかな。バカンスを利用して遊びに来たんだ」

「ふたりで?」

「ううん、ジェネシスとザックスってのが一緒だった。楽しかったよ~、一日中乗り物乗ってね~」

「おかげでこっちは疲労困憊だ」

「また、そういうことを言う。セフィだって、けっこう楽しそうだったよ」

 口を尖らせて文句を垂れるクラウドの頭を、がしがしと撫でくりまわした。

 

 ……そう、なんの悩みもないあの当時……確かにオレは、この子とここに来て、余暇を楽しんだのだろう。

 青い空に飛んでいく数多くの風船。

 ポンポンと七色に光り輝く花火。

 機械じみた……だが、桁外れに陽気なエレクトリカルパレード……ミュージック。

 どこまでも人工的に作られた光の洪水は、人々をその渦に巻き込んで、ひとときの夢を見させるのだ。

 

「ねぇ、セフィ。コースター乗ろうよ。ヴィンセントも。大丈夫大丈夫、これはそんなにスピードの出るヤツじゃないから」

 終わりのほうのセリフは、ヴィンセントのヤツに向けてで、クラウドはオレたちの手を引っ張って列の後ろに付けた。

 平日の昼間だけあって、どのアトラクションもそれほど長い行列ができているわけではない。

「まぁ、こんなことならジェネシスのヤツを連れてきてやってもよかったかな」

 クラウドがそんなことを言い出す。

「よく言うぜ。最後まで反対していた野郎が」

「だって、ヴィンセントにベタベタするんだもん。でもまぁいっか。今回はカダの快気祝いだもんね。家族だけで」

「……またの機会があったら、彼にも声をかけよう」

 ヴィンセントがやさしくそう言った。

「ほら、セフィってば、列から遅れないでよ」

 そう言って腕を引っ張られ、致し方なくアトラクションに付き合うこととなった。