Day after tomorrow
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
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 セフィロス
 

 

   

「それで、それで?兄さんたちは何に乗ったの? 魔法の絨毯乗った? まだ? あれは一回は乗るといいよ。けっこう怖いんだよ。身体が浮いちゃうような感じでね~」

「そう、カダなんか、ホントに浮いてんの。シートベルトしてんのに!」

「ロッズは重いから大丈夫だっただけだろ」

「あー、美味しい。たまには外食もいいねぇ。自分で作った物じゃないのを食べると新鮮だよ」

 さんざん、引っ張り回されてようやく夕食の時間になったのは、すでに夜の八時を回っていた。

 ホテルのディナーは経済的にバイキング形式のものを選び、全員揃って食べている。

 ゴハンはみんなでが基本という、わけのわからん家訓(?)に従って、わざわざ皆で落ち合ってこうして食事に来ているのだ。

「観覧車、綺麗だった~。ヴィンセントの言ったとおり」

「そうだろう。夜の景色が一望できて……とても美しいのだ」

「ホント。でもどっちかっていうと、恋人とふたりで来たい感じだね」

 ヤズーがすまし顔でそう言う。

「兄さんとヴィンセント、一緒に乗ってくればいいのに」

「いや、三人で昼間に乗ったから……」

 ヴィンセントがどうしてもというので、なぜか男三人で真っ昼間の観覧車に乗るという愚行に出たのだ。それなりに連中は楽しがっていたが、やはり昼間は夜に比べると微妙に思う。

「あー、眠い。おまえら、あんだけ騒いで眠くなんないの?」

 お子様のクラウドが大あくびを噛みしめながらそう言った。つられたように末のガキもあくびをする。

 そう、あくびとは伝染するものなのだ。

「いや、さすがに疲れたよ。今夜はサプリ飲まなくても眠れそう」

 と、ヤズーが笑う。

「今日は家からの移動もあって疲れたのだろう。風呂に入ったら、ゆっくりと眠るといい」

「ヴィンセントは寝ないの~?」

 末のガキが目を擦りながら訊ねる。

「いや……もちろん、きちんと休む。わざわざ個室をとったのだから」

 そう、今回の旅行では、ギンパツ兄弟は三人部屋だったが、残りはシングルしか空いておらず、オレたちはそれぞれ個室に入っている。

 それでも普通のホテルよりも、ゴーストハウスにこだわるのだから可笑しい。

「おまえら、べらべらしゃべっていないで、さっさと食え。いつまで経っても出られないだろ」

 そう言うオレに、しつこく食べ続けるクラウドとギンパツふたりが頬を膨らませる。

「バイキングだぞ。まだメニュー半分も制覇していないのに。セフィはもう食べないの?」

「おまえらがしゃべくり合っている間に食った」

「そう、でも待っててくれよな。ヴィンセントがまだなんだから」

「い、いや、私はもう……」

 空になった皿を重ねて、ヴィンセントが首を振る。こいつはこいつで、まったくバイキングの元が取れていない男だ。

「ほら、ヴィンセントもしっかり食べて。デザート取りにいこうか?」

 と微笑みかけるヤズーに負けて、一緒にデザートテーブルに取りに行く。皿にミニケーキだのゼリーだのをてんこ盛りにしてきたイロケムシとは対照的に、申し訳程度のフルーツを乗せて戻ってくる。

 まぁ、そんなこんなで、騒々しい一日目の晩飯は終わったのだ。

 ……明日からは、ひとりで食事にこようと思う……そんなにぎやかすぎるひとときであった。

 

 

 

 

 

 

 コンコン……

 

 風呂上がりにドアをノックされ、上半身裸のままで扉を開けた。

 時刻はもう夜の11時近い。

 まもなくアトラクションも終了するだろう。

 

「あ……す、すまない……シャワーを浴びていたのか?」

 そういう本人も風呂から上がったばかりなのだろう。まだわずかに湿り気のある髪を後ろで束ね、長袖のシャツを羽織っている。

「……今上がったところだ。なんだ、こんな遅くに」

 何か言いたげに、もじもじとしているところを見ると話があるのだろう。

 ため息を殺し、身体を奥へずらすと、ヴィンセントがおずおずと身を滑らせてきた。

「遅い時間にすまない……もう寝てしまったかと思って……返事がなかったら、帰るつもりだったのだけど……」

「別に。のんびり風呂に浸かっていただけだ。おまえのほうこそ、さっさと寝ろ。今日は疲れているはずだ」

 ぶっきらぼうなこちらの応対に、ややひるんだ様子を見せたが、彼は思いきったように口を開いた。

 

「よ、よかったら、一緒に観覧車に乗ってもらえないだろうか……?この前、ふたりで来たときに約束しただろう?また乗ろうって……」

「はぁ……?」

「だ、だから……その……夜の観覧車に……」

「アホかおまえは。何も着いた今日その日じゃなくてもいいだろう」

 風呂上がりにわざわざ服を着替え直して、部屋を訊ねてくるなどバカげている。もう真夜中と言ってよい時間なのに。

「だ、だが……その……先延ばしにしては……邪魔が入ってしまうかもしれないし……今日なら、皆疲れて休んでいると思って……」

「邪魔とはクラウドのことか」

「え、あ、い、いや、そういうわけでは……」

 このまま、部屋へ戻れというのは簡単だった。

 だが、わざわざ着替えまですませてやってきた手間と勇気を考えると、そう言い放つのも可哀想な気がした。

 ……オレはやはりヴィンセントには甘いのだろう。

「はぁー……」

 深いため息を吐いたオレを、びくびくとヤツが見上げる。

「あ、あの……セフィロス……?」

「しかたねーなー、本当におまえは…… 今回は譲歩してばかりだぞ」

「え、えと……では……」

「観覧車に乗るだけだ。湯上がりなんだからな。一回乗って気が済んだら、素直に部屋に帰って休めよ」

 そう言ってやると、無表情の顔に赤身が差した。