Day after tomorrow
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<10>
 
 セフィロス
 

 

   

 

 ドンドンドンドン!

 

 騒々しく扉を叩く音で、オレは起こされた。最悪の目覚めだ。

「セフィ~!いつまで寝てんの!もう朝ゴハン行く時間だぞ~!」

 ドンドンドンドン!

「セフィってば~!」

 言わずもがな、クラウドのガキである。

「うるさい! 朝飯なんぞ勝手に食ってこい! オレはまだ眠いんだ!」

 ボスンと扉に向って、枕を放り投げて威嚇する。しかしヤツはそんなことでめげるような可愛らしいタマではない。

「なんだよ!食事はみんな揃ってが基本だろ!わざわざ呼びに来てやったのに!」

 ドンドンドンドン!

「ああ、うるさい!わかったわかった。後から追いかけるからゆっくり食ってろ!」

「もう、仕方ないな~!ぜったい後から来てよね!ヴィンセントたちも待っているんだからな!」

「わかったわかった。うるさく言うな!」

 ようやく諦めたのか、連中の気配が扉の向こうから無くなった。

 あの家に行ってから、妙に健康的な毎日を送るようになっている。飲みにでかけて夜更かしをした翌日も、なんとなく朝の七時を過ぎると食堂へ足が向くようになっている。

 ……恐るべしヴィンセントだ。

 なぜ、ヴィンセントかと言うと、結局美味いメシにつられて起きるようになっているからである。それゆえ、こうして家以外の場所になると、てんで朝が弱くなるのだ。    

 

 のろのろと起き出し、ようやく食堂へ赴いたときには、連中はすっかり食事を終えていて、なぜか急かされながら物を口に運ぶことになったオレである。

「なんでセフィ、こんなに寝坊スケなんだよ。家にいるときは俺より早く起きてくるのに」

 こんな場所でまで、身長が伸びるようにとイチゴ牛乳を飲んでいるクラウドが訊ねてくる。

「夕べ、夜更かしでもしたの?ヤラシー」

「バカ野郎。こんな場所のホテルに、エロビデオが設置されているか。残念だったな、クラウド」

 そう言い返すとどうやら図星だったらしく、顔を真っ赤に上気させる。

「べっつに俺はそんなもん期待してなかったよ!」

「あー、そーかそーか。オーディオルームに行けば、それらしきものは借りれるんじゃないのか。今夜にでも行ってこい」

「うるさい、ばかセフィ!ヴィンセントの前で変なこと言うな!」

「もう、兄さんもセフィロスもやめてよ。それより早く食べて! アトラクション、予定しているヤツ、全部回れなくなっちゃう!」

 末のガキがぶぅぶぅと苦情を申立てる。

 幼い幼いと思っていたが、こんなところはまるで本当の子どものようだ。

 

 

 

 

 

 

「今日はカダとロッズ、それに兄さん、一緒に行ってきたら?俺は少し疲れているから、アダルトチームと一緒に行くよ」

「だれがアダルトチームだ、誰が!」

 しらじらとそう言ったイロケムシに向って、訂正を求める。

 もともとオレはアトラクションの類には興味がない。ゆえにどこの『チーム』とやらにも所属していないつもりだ。

「もう、ヤズーってば、すぐ疲れた疲れたって!仕方ないなぁ」

「カダたちが元気すぎるんだよ。ほら、行っておいで。こうしている間にも列ができちゃうだろ」

「わかった。じゃ、ロッズ、兄さん、行こう!」

 大好きなヤズー相手でも、待っていられないのか、末のガキはぴょんと席から立ち上がると、あっという間に飛び出していってしまった。ロッズとクラウドが律儀にも後を追いかける。

 

「はぁ~、ようやく、うるさいのがいなくなった。ゆっくりお茶しよう」

「よく言うなおまえ。チビガキが居る前では、絶対に漏らさないのにな」

「あたりまえでしょ。カダに嫌われたくないもの。それよりふたりとも、昨夜はお楽しみだったようですねぇ」

 ニヤニヤしてヤズーがそう言う。

「……ドラクエの宿屋の親父のようなセリフを吐くな」

 渋い顔をしてオレは言った。

「ヤズー……私たちが出掛けたのに気付いたのか?」

 ヴィンセントがのほほんと訊ねる。こいつは茶化されているのを理解していない。

「うん、セフィロスの部屋で、小さな声がしたからヴィンセントかなって」

「そ、そうか。安眠妨害をしてしまったな」

「ヴィンセント、いいからもう黙っとけ」

「え?……だが……」

「ふふふ、いいんだよ。全然大きな声じゃなかったし。ふとした拍子に聞こえてきたんだ。ふたりでゴンドラにでも乗ってきたんでしょう?どうだった、楽しかった?」

 まるでコイバナを聞き出す女子高生のように、身を乗り出してヴィンセントに迫る。

「いや……それが……その……」

 口ごもるヴィンセントに、ヤズーが意外そうな顔をする。

 昨夜の話は『楽しかった』という種類のものではないだろう。返答に困惑しているヴィンセントを置き去りに、オレは口を出した。

「昨日は大分遅い時間になっちまったからな。途中でライトアップが消えた」

「途中で?そんなことがあるの?」

「勤勉でない係員にでも訊いてみろ。おかげでホテルに戻るとき、暗闇を走らされた。まぁ、また機会を改めるさ」

 そう言うと、ヴィンセントが嬉しそうに頷いたのであった。