Day after tomorrow
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<11>
 
 セフィロス
 

 

「ところでさ」

 イロケムシはそう切り込んでくると、ずばりと言ってのけた。

「問題はジェネシス相手になんて話すかだよね」

「…………」

「…………」 

 オレとヴィンセントは虚を突かれて黙り込む。

「何よふたりとも、急に黙り込んで」

「……鼻が効くにもほどがある」

 思わずそうつぶやいてしまった。

「何だよ、それ。ちょっと考えれば想像つくよ。せっかくふたりでゴンドラに乗りに行ったのに、楽しくない話したんでしょ。それなら、ネロたちがらみで問題あるのはジェネシスじゃない」

 呆れた風に腕を組んで、ヤツはそう言った。

「ま、まぁ……そんなところなのだが」

 ヴィンセントが口ごもりながら頷く。

「結果的に倒したことには何も言わないでしょ。カダを人質に取られていた話をすれば尚のこと」

「それは……私もそう思うが」

「一応、劣化の問題があるだろ。今のところは大丈夫そうだが」

 オレの言葉に、イロケムシは形のよい唇に、折り曲げた指先を押し当て、

「う~ん」

 と唸った。

「今の彼を見ていると、その心配はなさそうだけどねぇ。なんだか日々充実しているって感じじゃない」

「まぁな。ヴィンセントの後、追っかけてりゃ、幸せそうだからな」

「そうそう。うちに来るときなんて、肌つやつやだもんね。おみやげ袋抱えてさぁ」

「あいつ、最近は週一じゃねーのか。まぁ、カダージュのときは来ないように、こっちがし向けていたわけだが」

「あ、あの……ふたりとも……」

 言いたい放題のオレたちに、ヴィンセントがおずおずと割って入る。

「その……充実しているのか……はわからないが、仮にそうだからといって、劣化が起こらないというものでも……」

 

 

 

 

 

 

 ふたたび、イロケムシは、

「う~ん」

 と唸ったが、止めたと言って、両手を挙げた。

「考えてもしかたないことは考えない。まぁ、大丈夫でしょうよ」

「お気楽だな、おまえは」

「だって、ジェネシスは元気だしさ」

「だったら、おまえが、ヤツに話をつけろよ。もう、ネロたちはいないんだから、劣化したら手の施しようがないぞとな」

 乱暴なオレの物言いに、ヴィンセントが困ったような顔をする。

「そ、そんな言い方は…… ジェネシスが不安に思わないように、山田先生のことも話しておいたほうがいいだろう」

「ああ、そういえば、セフィロス。山田センセにホランダーの資料見せたんだって?」

 イロケムシに訊ねられ、別に隠す必要もないので、頷き返す。

「まぁな。一応、保険みたいなもんだ」

「資料だけでどこまで対応できるかは怪しいけどね」

「あの医者はなかなか有能なようだ。万一、ジェネシスに何かあっても、あいつに診せれば、それなりに対処してくれるだろう」

「その資料は?燃やしたとか言ってたけど?」

「……隠してある」

「そう。それならいいよ。さすがに用意周到だね、神羅の英雄は」

 パチパチと気の抜けた拍手をするイロケムシに、

「嫌みか、貴様は」

 と返す。                                                      

「別に。これで少し気分が楽になった。家に帰ったら、ジェネシスにちゃんと話そう。ま、俺が切り出してもいいけど、一応、年長組は一緒に居てよね。ああ、クラウド兄さんは別だけど」

 とさりげなく失礼極まりない発言をしながら、イロケムシが席を立った。

「ほら、そろそろ行こうよ」

「行く? どこへ」

「決まってんでしょ。アトラクションに乗るんだよ。今日は丸一日遊べるんだから」

 見れば動きやすそうな七分丈のパンツに布靴を履いて、上には半袖のパーカーを引っかけている。いつでも外に行ける格好だ。

「……おまえらだけで行ってこい。オレは一日寝て過ごすと決めている」

「セ、セフィロス……そんなことを言わずに……せっかくここまでやってきたのだから」

 ヴィンセントまでがヤズーの側に回って説得してくる。

 ……どうして、このうんざりするほど爽やかな青空の下、外に遊びにいかなければならないのか……

 そうは思いながらも、きっと根負けして、こいつらと一緒に出掛けることになるのだろうと、人知れずそう予知するオレであった。