Day after tomorrow
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<13>
 
 セフィロス
 

 

 

 しずしずと昇ってゆくゴンドラに合わせて身体が波に浮かぶように揺らぐ。

 目の下には、またあの夢のような世界が広がっている。

 まばゆい光……光……光だ。

 

 こういう現実味のない世界は良くない。

 日常の生活の中でなら、たやすく胸に秘めていられる感情が、ふいにおもてに溶け出していってしまう。

 

 ……ヴィンセントとこうしてゴンドラに乗るのは三度目だ。二度目は昨夜。そして初めて乗ったのは……

 ルクレッツィアとかいう女の墓参りにこいつと同行したとき、その帰りに成り行きで乗った。

 あのときも、こうして光の海の中で嬉しそうに外を眺めていた。

 

 そしてこいつは言ったのだ。

 もし、オレが次の未来、何に生まれ変わろうとも、必ず見つけることができると。

 そんなのごく当然のことだと言って笑っていた。

 例え、女に生まれ変わっても……物言わぬ草花であったとしても、

「君を見つけるだろう」

 と。

 そしてどちらからでもなく、唇を重ねたのであった。

 

「セフィロス……! チョコボレースが始まったぞ。そこのコーナーで飛び出してくる!」

「え、……ああ。そうだな」

「一晩に二度も見られるのは初めてだ。この時刻だと、まだレースが続いているのだな」

「十時過ぎだからな。まだガキどもも起きているんじゃないか。おまえが黙って部屋を抜け出していたら大騒ぎになるな」

 そう言ってからかってやると、

「ヤズーには言っておいたし……だ、大丈夫だ」

 と虚勢を張った。

 

「なぁ、ヴィンセント」

 ゴンドラが下降する前に声を掛ける。

 まだこいつに言っておきたいセリフがあった。

「なんだろうか?」

 ゴールドソーサーの話だと思ったのか、彼はすぐに返事をした。

 

 

 

 

 

 

「……ふふ、おまえにはいろいろと怖いものが多いようだが……」

「え……? そ、そんな、それは……」

「そうだろ? ネロたちのことも気になっているし、DGソルジャーの存在も不安に思っている。そしてジェネシスの劣化についても、心の中では怖れている」

「そ、それは……そうと言えなくもないのだろうが」

 たちまち目を伏せて気落ちした表情をする。いや、もともと表情が少ない男だから、わかるようになるとほんの些細な変化で、感情が読み取れるようになるのだ。

「おまえがどう思おうとかまわん。だがな、ヴィンセント」

「……ああ?」

「おまえを守っているのがこのオレだと言うことを忘れるな」

「セ、セフィロス……」

「この最強の男がおまえの側にいるんだ。ちょっとやそっとのことで、傷つけられるはずがないだろう」

「ん……ああ、そうだな」

「男が簡単に涙ぐむな。……そら、ようやく頂点を回ったな」

 ゴンドラがゆっくりと傾いてゆく。

 昇っていくときはどこかワクワクする乗り物だが、地上へ向って下ってゆくときは何故かもの悲しい……

 柄にもなくオレはそんなことを考えていた。

 

「セフィロス……ずっと君の側にいたい」

「ああ」

 見上げてくる赤い眼差しにそう応える。

「私を傍らに置いておいて欲しい」

「わかってる」

 あのときと違って、今度のキスは明確にヴィンセントのほうからであった。

 オレの肩に手を添え、頬を包み込むと、やわらかな唇が押しつけられた。

 

「あの~、お客さん、もう一周ですか」

 間の悪い係員のセリフに、ヴィンセントは逃げるように飛び降りたのであった。