〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<5>
第二部
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 でも……だからこそ……だ。

「俺もエアリスの言ってること、よくわかる。ヴィンセントが見た目より長く生きているとか、リミットブレイクで変身するとか、ハッキリ言ってどうでもいいことだ。ヴィンセントはやっぱり、俺たちの知っているヴィンセントで全く変わらない」

「……だな。俺も同感」

「右に同じ」

 バレット、シドの順に同意してくれる。女性陣も同様に頷き返す。

 

 ……だが、どうしても許すことのできない人物がいる。

 そいつだけは、絶対に倒さなければならない。

「……宝条……!」

 俺はその名を憎しみをこめてつぶやいた。

「……宝条博士……すべての元凶……! あの男だけは許せない!」

 こみ上げてきた激しい衝動を持て余す。

 二十年そこそこだが、未だかつて、他の誰かをここまで激しく憎悪したことはなかったのではなかろうか。

 

 ……宝条が憎い……

 

 私怨まじりでSプロジェクトに手を出し、セフィロスだけでなく、ヴィンセントまで不幸のどん底に叩き込んだきちがい科学者……!

「神羅の科学部門の責任者……宝条博士……! すべての元凶となったあの男だけは……許せない……!」

「ク、クラウド……?」

 ヴィンセントの背を支える腕にも力が入ってしまったらしい。彼は不安げに俺を見上げてきた。血を含んだような双眸が、紅色にゆらめいて……

 そういえば、この人の笑顔は、ほんの数えるほどしか見ていない。

 たまに笑ってくれても、憂いを帯びた微笑くらいだ。それもこれもすべて宝条博士の所行のせいなのだ。

「ねぇ、クラウド。その宝条ってヤツ…… 神羅にいるの?」

 ユフィが、訊ねてきた。

「行方不明だそうだ。神羅の研究所にもいないらしい」

「……今の話聞いたら、ヴィンセントはもちろんだけど、セフィロスだって被害者じゃん! 彼にとっては実の父親になるはずなのに……ひどいッ!」

「そうだ。……セフィロスは、悪魔の実験の被害者なんだ」

 ずっと考えていたことを、はっきりと口にした。

「セフィロスは自ら望んでああいう風に生まれ出でたわけじゃない。すべて、あの科学者と神羅カンパニーが……」

「でも、クラウド……セフィロスはもう……」

「わかってる、ティファ。黒マテリアを手に入れ、この世界を滅ぼそうとしている彼とは戦う」

 口の中に滲んできた苦い物を飲み下し、俺はそう言いきった。

「……だから、まずはセフィロスを止めに行く。この星を破壊させるわけにはいかないからな」

 俺の言葉に、皆が一様に頷き返す。

「だが、その後で必ず、宝条を見つけ出し……息の根を止めてやる。で、なければ、あいつのせいで、運命が狂った人たちが報われない……!」

「クラウド……」

「アンタの前に跪かせて、『悪かった』と言わせてやる。絶対にだ! もちろん、そんなことで、アンタの苦痛がやわらぎはしないのだろうけど……でも、少しでも気持ちを落ち着かせることができるのなら……」

 ヴィンセントに向かって言い募る。

「……クラウド……私は……大丈夫だから……」

「アンタはいつも我慢ばっかりしてんだろ! そうでもしないと俺の気が治まらないんだよッ! 宝条を見つけ出して、必ず謝らせてやる! 自分のしたことの償いをさせてやるんだ!」

「落ち着いてくれ……おまえが泣く必要は……」

 意外なことを告げられ、ヴィンセントの手が伸びる。細い指先が頬に触れたかと思うと、そこには大粒の水滴がついていた。

 

 

 

 

 

 

「え…… う、うそ! また、俺、知らない間に……クソ!」

 ヴィンセントに逢ってから、激すると涙腺が緩むようになってしまった。

 セフィロス離ればなれになってからは、ずっと感情を表に出さずに居られたのに。

 開いている方の手で、ゴシゴシと顔を擦りまくったが、エアリスに笑顔で言われてしまった。

「そんなに恥ずかしがる必要、無いよ、クラウド。人のために泣けるって素敵。それにクラウドだけじゃなくって……男の人って、案外、こういう雰囲気に弱いんだよね」

 にっこりと微笑み彼女の手の先を見ると、バレットとシドが、大げさに鼻をすすり上げていた。

「ったく、テメェら、クセーんだよ! だが、宝条を叩くってのにァ、俺も賛成だ! その時にゃあ思い知らせてやろうぜ!」

「クソ……死んだカァちゃんのこと思い出したぜ。そうだな、諸悪の根源は、神羅と宝条だ! セフィロスを止めたら、すぐに宝条を押さえに行こうぜ!」

「ふたりとも…… あ、あり……ありがとう……」

 掠れ気味のヴィンセントの言葉に、バレットとシドは顔を逸らせつつ、立ち上がった。

「おうおう、いちいち礼なんか言ってんな! だからオメーはお人好しってんだよ!」

「まったくだぜ! あたりまえのことだっつーの! 俺様も、宝条のクソジジイに一発ぶちかましてやりてェんだ!」

「ハイハイ。じゃ、そのためにも、今はタイニーブロンコを修理して、みんなも身体を休めなくちゃね。もともと怪我してたのに、昨夜は一睡もしてないんだから」

 そういって、エアリスが、『撤収撤収』というように、手をパンパンと叩いた。

 泣き顔を見られたくない男衆は、我先にと部屋を出て行く。その後に、『お腹空いた〜』と場違いなセリフを吐いてユフィが退場だ。

 ティファはちらりとこちらを振り返ったが、エアリスに促されて、ふたりで部屋を出て行った。

 必然的に、俺とヴィンセントは、部屋にぽつんと取り残される。

 もともと狭くはない客室だが、それでも連中が勢揃いしたときは、息苦しく感じたのだ。その彼らが居なくなると、一挙にガランと空間が開けてしまって、むしろ落ち着かない気分になってしまった。

 

 ふたりきりである。

 と、いうことを、ヒシヒシと感じさせられて。

 

「……ハハハ、騒々しいことこの上なかったけど、ま、終わりよければ全てよし、だな! ね、ヴィンセント。みんな、さっきの出来事なんざ、全然気にしてないよ。だいたいパーティから外れるって話題さえも出せなかったもんね?」

 勢い込んでそう言った。

「その……クラウド……」

「なに? して欲しいことがあったら何でも言って! お腹空いた? 何が食べたい?」

「いや……もう、背を支えてくれずともいい。大丈夫……だから」

 宝条の話題が出たときから、かなり強い力で締め付けていたらしい。

 俺は慌てて手を放し、すぐに謝罪した。ヴィンセントの背の薄さを思い出したのだ。

「……謝る必要はない……ありがとう……おまえのおかげで、ずっと隠していたわだかまりを解くことが出来た……」

「わだかまりって……そんなに気になってたなら、もっと早く言っちゃえばよかったのに! あ、いや、ゴメン。ヴィンセントにとっては、知られたくなかったことなんだろうけど……」

「そう……だな。おまえは昔のことを話してくれたというのに…… 私は本当に勇気がなくて、臆病で……」

 淡い笑みを浮かべつつ、ささやくように彼は言った。

「ほら、ヴィンセントはすぐに自分が悪いみたいに! そんなことないよ。なかなか言えなくて当たり前だよ、そんなにつらいこと……」

「……あれから、もうずいぶんと月日が経つのにな。情けないことだ」

「時間の問題じゃないよ。でもね、もう大丈夫! 五十年ひとりっきりだったとしても、これからはそうじゃないんだから! 俺が……俺たちがずっと一緒にいる」

「…………」

 口元は笑っているが、微かに眉を寄せて、つらそうに微笑んだ。

「どうしてそんな顔すんの? 俺のいうこと、信じられない?」

「いや……」

「あぁ、そっか。この旅が終わったら、みんなバラバラになっちゃうよね。帰る場所がある人は行かなきゃならないだろうし」

「いや、私は……」

「だったら、俺はヴィンセントと残る。旅が終わっても、ずっと一緒に居たい」

 何の迷いもなく、俺はそう言っていた。

 幼なじみのティファもいるし、世話になったバレット、その娘のマリンのことも一瞬頭をよぎった。

 だが、今の言葉を取り消す気持ちにはならなかった。

 ヴィンセントと出逢ってから、今日まで……ずっとずっと、『もしかして』と感じていたこと。

 ほとんど自覚していたにもかかわらず、まだ口にすべきではないと胸の奥にしまい込んでいた気持ちをどうしても告げたくなったのだ。