〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<7>
第二部
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「アンタと出逢ってから…… セフィロスのことを考える時間が減った。その分、ヴィンセントのことばかり想っている」

 言葉を重ねていくうちに、徐々に緊張が解けてゆく。

「……どうすれば、アンタが笑ってくれるかとか、喜んでくれるかとか……気がつけば、そんなことばかり考えるようになっていた」

「クラウド……」

「リミットブレイクの件で、アンタがひとりで苦しむのを見ているのがつらかったんだ。だから、皆に話をした。勝手なことしてゴメン」

「そ、それは……むしろ、有り難いことで…… 隠しておけるような話ではないのだから」

 細い指を、所在なさげに組み合わせて、ヴィンセントがつぶやく。

「だからね、俺…… アンタのことが……」

「待て。おまえの言っていることは……その、り、理解はした。それにとても嬉しく感じている」

 前置きのように、まずはそう言うと、俺がそれに応える前に、彼は言葉を続けた。

「……その、だが、今はクラウドにとって、これまでにない非常時で……正常な思考状態にあるのだろうか? それに、同性に恋愛感情を持つというのは、おまえくらいの青年期にありがちなことで……」

「俺、子供のころ、セフィと付き合ってた。その時も本気だった」

「あ、い、いや、すまない…… 決してその気持ちを軽んじているわけではなくて……」

 申し訳なさそうにヴィンセントが言う。

 彼は俺の気持ち自体を否定しているわけではない。ただ、当然のことながら、受け入れることはできないのだろう。

 ヴィンセントには、旅の間、セフィロスとのいきさつを話している。

 当然、俺の気持ちはまだ彼の上にあると思っていたろうし、今回の告白は青天の霹靂だったのだろう。

 俺自身だって、『ああ、これは恋なんだ』と自覚したのは、それほど前のことではない。なんとなく予感めいたものは感じてはいたけど。

 困惑顔のまま、言葉を探すヴィンセントだが、何も今すぐに返事をもらおうなんて思っていない。旅はまだ途中だし、俺たちは出逢って一ケ月も経っていないのだ。

 

 

 

 

 

 

「そんな顔しないでよ、ヴィンセント。今すぐに答えをもらおうなんて思ってないんだから」

「…………」

「ヴィンセントが体調悪いのわかってるし、旅はまだ続くんだもんね。その間にゆっくり考えて欲しいんだ。すべてが終わったとき、返事を聞ければ……」

 ものわかりのよい男のふりをして、やさしく語りかける。

 実際、セフィロスを追う旅の間に、望んだ関係まで行くのは至難の業だろう。

 総勢八名のパーティなのだ。ティファのように何かと面倒見の良い女性もいる。そこで特別な関係を持とうと考えても、あまりにも障害が多いのだ。

 だからこそ、これからの旅路で、彼や仲間を守り抜き、セフィロスとの決着をつけるところを見届けて欲しい。

「だからさ、今は無理に……」

 そう言いかけた俺を制止したのは、意外にも彼のほうであった。

「そうか……本気でそう言ってくれるのであれば、私の返答はすぐにできる」

「え?」

「おまえの物思いは、単にこの非常時にあるから、心が揺れているだけと考えていた。確かに、セフィロスのことがあるから、相手の性別はハードルにはならないのだろうな」

 ふぅと軽くため息を吐きつつ、彼は続ける。

「……私などを好いてくれる、その気持ちは嬉しい。この肉体の忌まわしい秘密を知ってさえも尚、そのように言ってくれる人がいるとは……」

「だから! 俺は全然、アンタの実年齢とか、リミットブレイクだのなんて、気にならない! それでヴィンセントの価値が変わるわけじゃないでしょ!」

「……ありがとう。だが、私の返事は、NOだ」

 あっさりとそう言われて、俺はその場に崩れそうになった。膝を着く前に、椅子に腰を下ろす。

「だ、だから、返事は今じゃなくて……」

「いや、クラウド。体調が元に戻ったからと言って、気持ちが変わるわけではない。私はおまえのことを好ましいとは思っているが、いわゆる、そういった感情を抱いているわけではない」

 普段は曖昧な物言いが定番なのに、ヴィンセントにしてはハッキリと言い切る。

 

 …バカ! ショックを受けている場合じゃないだろ!

 現時点での返事としては、ごく当然のことだ。

 いきなり年下の男に、告白されて、受け入れてくれる同性など、まずいないのだから。

 それに、さっきの話……ヴィンセントの過去の話に出てきた女性……ルクレッツィアといったか。

 あの、口ぶりでは、彼はその女性を特別に想っていたに違いない。

 まだ、彼の心にはその人が棲んでいるのかもしれない。

 もう、数十年も昔のことだとは思うが、ずっと眠りについていた彼にとっては、つい先だっての出来事だと言っても過言ではないのだ。

 

「ヴィンセント、俺……」

「……さきほども言ったが、素直なおまえの気持ちは、この上なく嬉しい。だが、私は同じようには想えない。私のことは目的を一にする仲間だと認識してくれたまえ」

「…………」

「クラウド……?」

「……わかった。今は引き下がる。でも、俺、あきらめないから」

 少し驚いたように、ヴィンセントが俺を見上げた。

「簡単にあきらめられるような気持ちじゃないから。もちろん、ヴィンセントのことは大事な仲間だと思ってる。でも、それ以上に好きだ。……想うのは自由だろ?」

「……クラウド……」

「ヴィンセントも、これまで大変な目に遭ってきたかもしれないけど、俺もかなりキツイ思いしてきてるからさ、しぶといんだよ。……さ、もう、寝て。目が覚めた頃に、軽い食事でも運ぶからね」

 そう言って、俺は椅子を立つ。

 ヴィンセントが、さらに何か言いたげな目線を寄越すが、それには気づかないふりをした。

 今はこれ以上、言えることはない。

 まずは、自分の正直な気持ちを伝えられた。それで、よしとしよう。

 内心の動揺を無理やり治め、俺はさっそうと退出したのであった。