〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<8>
第二部
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「ハァァァァ〜…………」

「…………」

「ハァァァァ〜…………」

「……ちょっと、クラウド」

「ハァァァァ〜…………」

「クラウドってば! もうしっかりしてよ! あと少しで寝殿に着くんだからね」

「え……あ……」

 耳元で叱りつけられて、俺は慌てて顔を上げた。

 もう、あれから一週間もの時間が経っているのに、口を突いてこぼれ落ちるため息は、日ごとに回数が増えるありさまだ。

 

『……私はおまえにそのような感情は抱いていない』

 

 静かな口調で……だが、ハッキリとヴィンセントはそう言ったのだ。

 断定的な物言いをしない彼であるのに、あのときは明確に……

 

「ハァァァァ〜…………」

「クラウド! 今日はもう二十回目ッ!」

「あぁ……ティファか。ごめん……」

 もごもごと口の中で謝罪の言葉をつぶやいた。自分でもよくないとは思っている。だが、どうしても気の抜くと、深いため息がこぼれるのだ。

「『ティファか』じゃないわよ、失礼ね! ねぇ、クラウド……具合が悪いわけじゃないんでしょ?」

「ん……」

「ねぇってば、もし、体調が良くないなら、今日はもう無理に進まない方が……」

「違う違うッ。全然そんなんじゃないから!」

 体調不良と勘違いしてしまうティファに、さすがに良心が痛んだ。

 大袈裟に手を振って彼女の不安を取り除こうとした。

「……ならいいけど。なんか、ゴールドソーサーを出てから変よ。考え事ばかりしてるし、そうやって一日に何度もため息吐いて……」

「いや、そんなこと…… あ、ああ、そう、やっぱりちょっと緊張してるかも」

 そう答えたとき、先頭を歩いていたオレの目の前を、何かが横切った。

 クエェェェ!と耳に響く高い声は、鳥……?

 いや、モンスターか? 頬が痛い……

 

 

 

 

 

 

 指先でそこに触れようとしたとき、背後から、

 ガゥンガゥン

 と、二発の銃声が響いた。

 すでに道ならぬ道を歩いているにもかかわらず、それらは正確にモンスターを撃ち落としていた。

 

「クラウド…… 大事ないか?」

 後ろの方から、駆け寄ってきてヴィンセントが確認してきた。

 彼の優しさに変わりはない。俺の告白を聞く前とその後では、対応に変化があるだろうと覚悟していたのだが、それはまったく杞憂に終わったのだ。

 だが、いつも通りの落ち着きを取りもどしているヴィンセントに、むしろ俺は忸怩たる思いを抱え込んでいた。

 彼にとっては、取るに足らない出来事であったのかと……

 

「クラウド?」

 繰り返し名を呼ばれ、俺はなんとか笑顔を作った。

「あ、ああ、さすが、ヴィンセント! 百発百中だな!」

 声を励ましてそう告げる。

 だが、彼は心許なげな表情を崩しはしない。

「頬に傷が…… 毒を持つ種ではないが、手当をしたほうがいいだろう」

「だ、大丈夫だって。こんなのかすり傷だよ。もう痛くもないし」

 革手袋のまま、ごしごしと血のついた頬を擦る。

 だが、不意に手を取られた。やわらかな感触であるが、容易には振り解けない力でだ。

「よしなさい。そんなふうに乱暴にしてはいけない。……シド、すまないが……」

「おう、消毒薬な」

 ポケットだらけの胸元から小瓶をとりだして、ヴィンセントに渡す。

 木々の生い茂った森の中では、長物は使えない。それゆえ、薬などはシドが管理しているのだ。

「クラウド、こちらを向いて……」

「え……いや、ホントにいいってば」

「言うことを聞いてくれ。……手間を掛けさせるな」

 そこまで言われて、仕方なしに顎を上げる。

 

 ……そうだ。

 身長差もこんなにある。顔を手当てしてもらうには、俺は仰がなきゃならないし、ヴィンセントはわずかに腰をかがめている。

 恋愛に、そんなことは何の関係もない……同性であることすら、枷にならぬこともある。

 ヴィンセント自身もそう言っていた。

 

 でも……だからこそ、俺を拒絶したヴィンセントの気持ちは本心なのだ。

 少なくとも今の時点では。

 

 切ない……胸が痛い……

 久方ぶりだ、こんな気持ちは。

 

 ……ああ、つらいな…… こんなに苦しいものだったっけ……?

 

「……クラウド、もういい…… どうした? そんなに染みてしまったか?」

 心配そうに顔を覗き込んでくる彼に、俯いたまま頭を振った。

「ううん、なんでもない。ありがと、ヴィンセント」

 努めて平静を装って、そう応えた。

 そんなやり取りをしている時であった。

 ユフィが木の上で大声を上げた。

 

「おぉ〜い、みんなァ! なんか大っきな建物が見えるよ!」